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アラフォー夫とねこと娘と暮らすアラサー。いつまでも新米気分の田舎町の司書(名ばかり)。…

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アラフォー夫とねこと娘と暮らすアラサー。いつまでも新米気分の田舎町の司書(名ばかり)。恋人時代にちょこっと病んだ夫を支え、その二年後結婚し、妊娠、流産、また妊娠して今度は娘を出産。夫婦関係、暮らし、仕事、これまでのことをぽつぽつ。

記事一覧

いのちがいちばんだいじ展

 季節外れの、扇風機が回っている。昼前から降り出した雨のおかげで、洗濯物のぶら下がった部屋で首を振って大活躍だった。  いつもより狭いリビングの座布団で娘と一緒…

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2年前
2

神様が「いい」と言うまで

 もっていないものを数えるのが得意だ。  一方、夫はあるものに目を向けるのが得意だと思う。  更新がしばらく空いてしまった。  この間何が起こっていたかというと…

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3年前

It's always darkest before the down

「ほんと、旦那さんがよく許したよね」  許したっていうか、なんていうかさー、認めた? と、しきりに不思議がる、今いちばんの女友達(十以上年上の女性に向かって「友…

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4年前
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すべてを解決する魔法

「結婚したんだから、この先はずっと一緒だろ」  と、夫は言う。  奴の言う「この先はずっと一緒」は、「同じ部屋に帰る」ということだけで、同じ時間を積極的に共有す…

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4年前
6

ルアンパバーンでカフェを探して

 全部が全部、しわあせだったらものは書けない。  気がする。  きょうは夏日だった。夫は、連休前最後の仕事に出かけ、私は午前中から実家の畑いじりに参加した。朝か…

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4年前
6

Care killed the cat

 人をだめにするソファで、温泉に浸かるかのように、ねこが沈んでいる。近寄って、後頭部に頬ずり。おなかに顔をうずめて若干嫌がられ、だけどそのまま鼻先をくっつけてね…

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4年前
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全ての雲は銀の

 欲求不満である。  自分でもなぜこんなに欲求不満なのか、皆目見当がつかぬ。  夫はすぐそこに寝転がっているというのに、指一本どころか髪の毛一本触れない。欲求不…

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4年前
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ゴールデン・ランデヴー

 行く春を惜しむ今日この頃、やっと冬用タイヤを脱いだ。  この地域では、冬季はスタッドレスが欠かせない。雪に見舞われなくても、路面の凍結がある。さすがにこの冬は…

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4年前
7

はじめての夜と、コメダ珈琲

 これで、終わり? とは思わない。けれど、けれど、But(けれど)。  身の回りの人間に比べると、まあ経験あるほうかな、というくらいだった。処女を捨てたいという理…

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4年前
7

This is not a love story...

「副分団長は、男の人と女の人と、どっちが好きなんですか?」  これが、夫とまともにした初めての会話で、この私の一言に、夫はこのときばかりは吹き出して、「ふつーに…

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4年前
12

日曜日、昼下がり、赤ワイン、曇天

 今日はめずらしく仕事の休みが重なった日曜日で、夫と二人で過ごす休日は四週間ぶりだった。四週間空いた話は、また別に書きたいと思う。  昼を過ぎて、私たちは赤ワイ…

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4年前
1

はじまりの日の「赤紙」

 人口十万人を割るこの田舎には、いまだに兵役がある。  消防団だ。  小さな図書館の司書二年目の二月、それは突然やってきた。「勧誘」という名の、赤紙。実家の狭い…

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4年前
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いのちがいちばんだいじ展

いのちがいちばんだいじ展

 季節外れの、扇風機が回っている。昼前から降り出した雨のおかげで、洗濯物のぶら下がった部屋で首を振って大活躍だった。

 いつもより狭いリビングの座布団で娘と一緒に寝転がっていると、ねこが割り込んでくる。生後半年になろうという娘と、二才になったばかりのねこ。最初は小さかったのに、もう自分より大きい娘に、ねこはちょっとずつしか慣れない。

 フィルム写真が、好きだ。

 べつに写真を一瞥しただけで、

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神様が「いい」と言うまで

神様が「いい」と言うまで

 もっていないものを数えるのが得意だ。

 一方、夫はあるものに目を向けるのが得意だと思う。

 更新がしばらく空いてしまった。

 この間何が起こっていたかというと、入院一歩前の悪阻だった。そう、身籠ったのである。予想外の妊娠(だって排卵日狙ったわけじゃない)で、「結婚一周年を迎えるまでは、もう子どもはいらない」と夫婦で決めた矢先のことだった。

「もう」の意味はちゃんとあって、今年の二月末、は

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It's always darkest before the down

It's always darkest before the down

「ほんと、旦那さんがよく許したよね」

 許したっていうか、なんていうかさー、認めた? と、しきりに不思議がる、今いちばんの女友達(十以上年上の女性に向かって「友達」って呼び方が相応しいのかはわからないけど)が、入院した。入院なんて似合わない、豪快で繊細でキュートでユニークな、ビール好きの友達。彼女の旦那さんから告げられた後、襲ってきたのは恐怖と不安と緊張だった。この心の不安定な様を、私は以前にも

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すべてを解決する魔法

すべてを解決する魔法

「結婚したんだから、この先はずっと一緒だろ」

 と、夫は言う。

 奴の言う「この先はずっと一緒」は、「同じ部屋に帰る」ということだけで、同じ時間を積極的に共有することではないらしい。

 恋は、お互いだけに目を向けること。

 愛とは、二人で同じ方向を見ること。

 私は、同じほうを向いて、同じ時間を共有して、夫と過ごしたかった。恋人同士のときは、この人とならできると思っていた。結婚した今は、

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ルアンパバーンでカフェを探して

ルアンパバーンでカフェを探して

 全部が全部、しわあせだったらものは書けない。

 気がする。

 きょうは夏日だった。夫は、連休前最後の仕事に出かけ、私は午前中から実家の畑いじりに参加した。朝から身体を動かすと気持ちがいい。昨夜からさんざん「俺も明日休みでいいなあ」と零していた夫だが、もう最近は理由がない限り会社を休むことはなくなった。そんな夫を、事情を知る私の母は「毎日仕事に行けるほど健康って、いちばん良いことよ」と言う。

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Care killed the cat

Care killed the cat

 人をだめにするソファで、温泉に浸かるかのように、ねこが沈んでいる。近寄って、後頭部に頬ずり。おなかに顔をうずめて若干嫌がられ、だけどそのまま鼻先をくっつけてねこの挨拶。こんなにしあわせな生きものを、私は他に知らない。

 夫の実家にもねこがいる。

 つき合い始めたころ、その子たちは三匹いて、なかでもいちばん最初に迎え入れたという見事なさびねこが、夫の大のお気に入りだった。嫉妬するくらい。

 

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全ての雲は銀の

全ての雲は銀の

 欲求不満である。

 自分でもなぜこんなに欲求不満なのか、皆目見当がつかぬ。

 夫はすぐそこに寝転がっているというのに、指一本どころか髪の毛一本触れない。欲求不満を訴えても、「今は気分じゃない」だの「そんな性欲あった? どうしたの」だの、挙句の果てには「ゴムがない」と抜かす。夫婦だろうが。

 村山由佳の『すべての雲は銀の…』(講談社、2001年)が、好きだ。主人公の名前が初恋の人の音と同じだ

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ゴールデン・ランデヴー

ゴールデン・ランデヴー

 行く春を惜しむ今日この頃、やっと冬用タイヤを脱いだ。

 この地域では、冬季はスタッドレスが欠かせない。雪に見舞われなくても、路面の凍結がある。さすがにこの冬は凍結も積雪も滅多になくて、正直はき替えるだけ無駄だったけれど。

 今年のゴールデンウィークは外出自粛だけれど、三年前は夫と一緒に東京まで遊びに行った。二人きりの、はじめての旅行。最大規模で開催されていたミュシャ展に行きたい、という私のわ

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はじめての夜と、コメダ珈琲

はじめての夜と、コメダ珈琲

 これで、終わり? とは思わない。けれど、けれど、But(けれど)。

 身の回りの人間に比べると、まあ経験あるほうかな、というくらいだった。処女を捨てたいという理由で十九でカレシをつくり、そのカレシが「ブツがデカい」というのが自慢のやつだった。その次のカレシは勃っても剥けないかわいいサイズの真性くんで、お次はお酒の勢い(ビールとワインと日本酒の、三種のチャンポンはやばい)でお持ち帰った床オナくん

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This is not a love story...

This is not a love story...

「副分団長は、男の人と女の人と、どっちが好きなんですか?」

 これが、夫とまともにした初めての会話で、この私の一言に、夫はこのときばかりは吹き出して、「ふつーに、女の人だよ」とひとしきり笑った。

「引き寄せの法則」はある程度、ほんものだと思う。

 勤務先の図書館では、「引き寄せの法則」だとか「思考は現実になる」だとかカーネギーだとか、はたまた「かわいいままで年収○○○○万円」みたいな本を、「

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日曜日、昼下がり、赤ワイン、曇天

日曜日、昼下がり、赤ワイン、曇天

 今日はめずらしく仕事の休みが重なった日曜日で、夫と二人で過ごす休日は四週間ぶりだった。四週間空いた話は、また別に書きたいと思う。

 昼を過ぎて、私たちは赤ワインを開けた。もう誰も、アルコールを飲んでも咎めるやつはいない。早々に乾いた洗濯物を雨が降る前に取り込んで仕舞い、グラスを片手にそれぞれのことをしている。私は「note」、奴はSwitchでモンハン。

 キーボードを叩いていると、「何。ど

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はじまりの日の「赤紙」

はじまりの日の「赤紙」

 人口十万人を割るこの田舎には、いまだに兵役がある。

 消防団だ。

 小さな図書館の司書二年目の二月、それは突然やってきた。「勧誘」という名の、赤紙。実家の狭い玄関を埋め尽くすように、男たちが立っていた(女の人もひとりいる)。「こんばんは、消防団ですけど」と、一人が口火を切る。それを遮るかのように、

「きみさ、消防団、どう?」

 と、鼻で笑うような、まさしくにやりと笑みを浮かべたのが、ひと

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