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CH.119 ゆっくり読みたい記事

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#短編

シティポップが聴こえる

シティポップが聴こえる

 シティポップが好きだ。

 あの洗練された、コンクリートジャングルに生きるスタイリッシュな大人たちを彷彿とさせる歌詞、そして小洒落たサウンドは、マルイのロゴマークを「オイオイ」だと信じて疑わなかった根っからの田舎者の心をむずと鷲掴み、瞬く間に大都会東京への憧憬を抱かせた。

 もっとも、かく言う自分自身はまったくもってシティポップ世代ではない。シティポップ最盛期が八十年代だとして、僕が音楽に目覚

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インターホン

インターホン

俺の部屋にあるインターホンがさ、まあ、変わってるんだよ。あんまり長話でもないから、急用でもなければゆっくりしていってくれ。アイスコーヒーぐらいなら出すよ。

この4月にこの部屋に越してきたんだけど、しばらくは何もなかった。6月の初めぐらいだったかな。
確か、そのぐらいからおかしなことが起き始めたんだ。
何でかな?俺が住む部屋ってのは何かと変な事が起こるんだよな。
前に住んでたとこはさ、『穴』があっ

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小説:セレナーデ【40088文字】

小説:セレナーデ【40088文字】

【小夜】

ゆるい日差しに、桜の淡い花びらが光る。まだ少し冷たい風が前髪を揺らして頬を撫でる。景色は何もかもが平和で、平凡で、平均的な春の日。ベンチに浅く腰掛けて、煙草を吸う。
爪の短い私の指に挟まる、長いメンソール。

煙草から直接立ち上る煙は青白く見えるのに、吐き出す煙はただの白に見えるのはなぜだろう。私の肺で、青色が濾過されたのだろうか。煙を深く吸い込みながら思う。私の肺に、置き去りにされ溜

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小説:クロニック デイズ【16065文字】

小説:クロニック デイズ【16065文字】

 僕は恋をしている。

 人生で初めての、本物の恋だ。今までも、ちょっと気になる女の子はいたけれど、今回の気持ちとは比較にならない。高校3年生にして、僕は初めて、本物の恋をしている。

 相手は同じクラスの佐藤エミ。3年生になって初めて同じクラスになった。2年生のときまでは「他のクラスの金髪の派手な子」という印象しかなかった。でも、3年生になって同じクラスになってから、印象が大きく変わった。

 

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