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インターホン

俺の部屋にあるインターホンがさ、まあ、変わってるんだよ。あんまり長話でもないから、急用でもなければゆっくりしていってくれ。アイスコーヒーぐらいなら出すよ。

この4月にこの部屋に越してきたんだけど、しばらくは何もなかった。6月の初めぐらいだったかな。
確か、そのぐらいからおかしなことが起き始めたんだ。
何でかな?俺が住む部屋ってのは何かと変な事が起こるんだよな。
前に住んでたとこはさ、『穴』があったし。
長くなるから『穴』の話は「割愛」させてもらうけどね。
「割愛」って使い方あってるか?

まあ、興味あったら、誰か知ってるやつにでも聞いてくれ。

俺って話し始めるとなにかと脱線しちゃうんだよな。
ごめんね。インターホンの話に戻ろう。
みんなの家にあるやつはどんなタイプだろう?
画像と通話のタイプと、通話だけのタイプ。
うちのやつは通話しかできない方。
俺は女の子じゃないから、防犯に気を使うこともないし、通話だけのやつで充分。
それに、あんまり人も来ないしな。

普通は「ピンポ~ン」とかそんなカンジだよね。
うちのもそういうやつだったんだけど、ある時から
喋り始めたんだ。
今でも覚えてるけど、最初は
「あのう、、宅急便の人が来たみたいなんですけど、、、、」だった。女の子の声でさ。

びっくりって言うか、え??って思ったよ。
だって、まさかインターホンが喋るなんて思わないもんな。
だけどさ、うちには俺しかいないんだよ。
あの、、、さ、、
これはみんなには言わないで欲しいんだけど、
俺さ、、、

彼女とかいないんだ。

おっと、モテない訳じゃないよ。
俺だってその気になれば、、、、さ、、

また脱線。 ごめん。

えと、なんだったっけか? えーと、、、、
あぁ、そうだ。宅急便だったな。
違う、インターホンだ、、
あ、違くないか、、、、
ちと、こんがらがったな、、、、

とにかく、インターホンが喋って、宅急便の人が来た訳だ。
その時は、あんまり待たせちゃ悪いから、直ぐに対応したんだけど、その後しっかりチェックしたよ。
インターホン。
見た目は普通だった。てか、それ以上見るとこないんだけどな。
とにかく、見た目が普通なのに喋るインターホンってことだ。

不思議と怖いってことはなかった。
女の子の声だったからかな、、、、

それから、段々と慣れてきたんだろうな。
「宅急便の人ですよ!」

「宅急便の人ですよ!」

「宅急便の人ですよ!」

そう。うちは宅急便の人しか来ない。
寂しいかぎりだ。

たまには「ピザの人来ましたよ!」とかもあったけど、、、、

そのうちインターホンもフレンドリーになってきたんだよな。
「多分、勧誘の人だから出ない方がいいよ!」とか、「きっと、あのテレビ局の集金だよ。」って教えてくれるようになったんだ。
助かるよ。だって、居留守使えるんだから。
モニターで見えないうちの場合、とっても有効だ。

だけど、あの日の彼女は違った。
あ、彼女とか言っちゃってるな、、、、
キモイな、、、俺。
とにかく、あの日のインターホンはいつもと違ったんだ。
「あのー、女の人来てますけど。」
なんて言うか、凄く冷たいカンジ。
怒ってたのかな。

俺はウキウキしながら、玄関を開けたんだ。
そしたらさ、

「町内会費の集金でーす!」って、
近所のおばちゃんがさ、、、、
「500円お願いしまーす!」
やたら、元気がいいおばちゃん。
げんなりした俺は、インターホンに向かって
「近所のおばちゃんじゃんか!期待して損したわ!」
って言っちゃったんだ。
インターホンは「なんか、ごめん。」て謝ったんだ。
俺も言い過ぎたと思って、
「いや、こっちこそごめん。君が悪い訳じゃないよな。」
って、謝ってしまった。また君とか言っちゃってるし、、、、

だけど、それからインターホンは喋らなくなったんだ。

寂しかったよ。

変だよな。それは分かってる。
だけどさ、ほんの少しだけでも会話ができるってのはとてもいいもんだ。
しばらく悶々と過ごしたよ。
だって、「ピンポ~ン」に戻っちゃったから。
それから俺は帰ってくる度、「ただいま。」とか、
起きた時に「おはよう。」って話しかけ続けたんだ。

1週間も続けた頃、ふいに「あの、今ちょっといいかな?」って喋ったんだ。
もちろんインターホンがね。
俺は直ぐに「もちろん!」って答えた。
そしたらさ、、、、




「宅急便の人ですよ!」

ってさ。


それでも俺は少し嬉しかったよ。






はぁ、こんな俺にリアルな彼女ができる日はやってくるんだろうか、、、、




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