西島渚

作家です、物語を書きます。

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記事一覧

【短編小説】鉤括弧からの卑劣な逃亡

 日本には「八方美人」という言葉があることをウィズは学内の図書館から借りた本で知った。その言葉は「四字熟語」というグループに属し四つの漢字で構成されており固定的…

西島渚
1か月前
7

生き急いでナンボやけれども

 はい、関西弁で始まりましたがご機嫌いかがでしょうか。西島です。  数年前、大して世話にもなってない先輩にこう言われたことがあります。 「生き急いでるね~(笑)…

西島渚
5か月前
5

「これでよかった」と思える日について

 こんにちは、西島渚です。うつ状態になりました。  序文からかなり重いトピックになってしまってすみません。ですがこれは事実なのです。先日心療内科に行って正式に診…

西島渚
6か月前
33

【明石市文芸祭応募作】静謐な蛸で踊る

 ローションを手のひらに塗る。今日、園芸部の田中くんが不登校になって、学校に来ない子どもたちは学年全体の一割を占めた。  教師という職業の優劣は、残酷なほど単純…

西島渚
7か月前
4

【小説】吹き出す、膨大な量の青い雲

「ああ、あの日のことは鮮明に覚えてる。俺は分娩室の前なんかじゃなく外回りをしていた街の一番勾配が強い坂道で、夕陽を眺めてた。今でも言われる。『あの時出産を見守っ…

西島渚
9か月前
4

右手にできたマメ

 2023年、早くも自身の体に一つの変化が起きた。それは右手の掌にできたマメだ。  よく、手は人を表すという。中学・高校時代は中指にペンだこができ、大学時代は指先に…

西島渚
1年前
4

団地とサンタクロース

 青い空に包まれた、不気味な住居の群衆には子供がたくさん住んでいる。子供達は常に同じ服を着て、寒い雪の日でも部屋の中を駆け巡っていた。クリスマスイブのことだ。 …

西島渚
1年前
4

花を育てる女

 この街には、花を育てる女がいる。  花と言ってもただの花ではない。赤やピンク、緑や紫など、様々な色の花は全て海水を養分としているそうだ。 「この子達はね、とっ…

西島渚
1年前
4

黒いレモネード

「ねえ、この写真知ってる?ドリンクのやつ」  金髪の女は、傷んだ毛先を気にしながら言った。 「ああ、あれでしょ?“この飲み物が何か分かれば、大金ゲット!”って…

西島渚
1年前
3

揺蕩う

 風鈴が鳴る。海月の形をした風鈴が、触覚を揺らす。  青年はベンチに座って、屋根に向かって腫れた右手をかざす。ジーンズの左ポケットには、皺だらけのドル札が数枚。…

西島渚
1年前
5

光る貝を巡って

 海の中で光る貝を見つけると、願いが叶うらしい。  しかしそれはとても希少で、オーパーツのようなものだ。  それっぽいものを見つけても、実は錆びていたり貝殻を砕…

西島渚
1年前
2

Rain and The Queen

 はい、お久しぶりです。久しぶりに日記を書く余裕ができました。  さてさて〜、皆さんお元気ですか?僕はなんとか元気にやっています。環境を変えようとしているので、…

西島渚
1年前

Silver Lining 第五話

 砂埃を纏った風が黄土色の街を駆け巡り、人々は顔を顰めて足早にどこかへ向かう。都心から大きく離れたこの地には、急ぐ用がある奴なんてそうはいない。この街の誰もが役…

西島渚
1年前
1

Silver Lining 第四話

「ウィークデイなんてつまらないさ~」  右手に大きなスプレー缶を持ったシルバは、黄色い霧を噴射させながら口ずさんでいた。 「真っ黒な顔を汚してさ、お前らみんな…

西島渚
2年前
1

Silver Lining 第三話

「私についてくれば、もっと素敵になるよ」  シルバの前に突如現れた女は、彼と視線を合わせるように屈んでそう言った。 「……素敵に?」 「そう、素敵に」  女…

西島渚
2年前
3

文芸誌批評-文學界 八月号- 1. 絲山秋子 『なんだかわからん木』

 というわけで、文芸誌を読んだ。日頃から読んではいるのだが、こんな風に”批評”してみるのは初めてだ。偉そうな言い方をしているが、気に入った作品の感想をとにかくつ…

西島渚
2年前
4

【短編小説】鉤括弧からの卑劣な逃亡

 日本には「八方美人」という言葉があることをウィズは学内の図書館から借りた本で知った。その言葉は「四字熟語」というグループに属し四つの漢字で構成されており固定的な表現、つまり決まり文句的な意味合いで使われる。その漢字それぞれに意味があるのだがこの表現の場合、上の二文字と下の二文字で意味合いが分かれる。「八方」というのは八つの方角(東西南北及び北西、北東、南西、南東)を、「美人」というのは美しい人を

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生き急いでナンボやけれども

 はい、関西弁で始まりましたがご機嫌いかがでしょうか。西島です。

 数年前、大して世話にもなってない先輩にこう言われたことがあります。

「生き急いでるね~(笑)」

 この「~」と「(笑)」が大事です。「!」でも「。」でも「笑」でもなく、「~」と「(笑)」。思い出すだけで腹が立ってきますねえ、後輩にしか相手されんくせになめんなよ、っていう話です。

 まあムカつきますけど、僕はよくそう言われま

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「これでよかった」と思える日について

「これでよかった」と思える日について

 こんにちは、西島渚です。うつ状態になりました。

 序文からかなり重いトピックになってしまってすみません。ですがこれは事実なのです。先日心療内科に行って正式に診断を受けました。うつ病とうつ状態って違ったりするだろうし「こんなのまだ大丈夫だ!」と思われる方もいるかもですが、あくまで自分のための備忘録。よければ読んでください。

 受診の経緯は様々ですがおかしくなり始めたのは去年の夏頃、あの頃は自分

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【明石市文芸祭応募作】静謐な蛸で踊る

 ローションを手のひらに塗る。今日、園芸部の田中くんが不登校になって、学校に来ない子どもたちは学年全体の一割を占めた。

 教師という職業の優劣は、残酷なほど単純に決まる。同僚、主任、校長や教頭、保護者、そして生徒からどれだけ多くの「納得」を得られるかどうかだけだ。生徒をどう扱うか、そして生徒にどう向き合うか、学級内や部活動での立ち居振る舞いやテストの成績を鑑みて、彼らが「納得」できる学校を作る。

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【小説】吹き出す、膨大な量の青い雲

「ああ、あの日のことは鮮明に覚えてる。俺は分娩室の前なんかじゃなく外回りをしていた街の一番勾配が強い坂道で、夕陽を眺めてた。今でも言われる。『あの時出産を見守ってくれなかったから、いつもあんたにはメインディッシュを少なく作る』ってね。もちろん、反論の余地なんかないさ」

 少し薄くなった髪を弄りながら、男性は照れた表情を見せた。

——意外でしたね、息子さんからは夫婦円満で今でも二人で観に来ると仰

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右手にできたマメ

 2023年、早くも自身の体に一つの変化が起きた。それは右手の掌にできたマメだ。

 よく、手は人を表すという。中学・高校時代は中指にペンだこができ、大学時代は指先にギターのたこができる、フリーター時代にはその指先のたこに加えて手首が腱鞘炎になった。ずっとパソコンを触って、執筆していたからだ。

 それが今年、就職しギターから離れてしまうと指先は柔らかくなり、代わりに指の生え際が硬くなった。平日、

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団地とサンタクロース

団地とサンタクロース

 青い空に包まれた、不気味な住居の群衆には子供がたくさん住んでいる。子供達は常に同じ服を着て、寒い雪の日でも部屋の中を駆け巡っていた。クリスマスイブのことだ。

 そんな群衆の中の、ある一部屋を覗いてみよう。幼い兄弟が二人、小さい机を中心にして追いかけっこをしている。机に向かう女は彼らを怒ることもなく、金色の飾り物や煌びやかなレースに傷はないか、じっくりと点検していた。

「サンタさんはいつ来るの

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花を育てる女

花を育てる女

 この街には、花を育てる女がいる。

 花と言ってもただの花ではない。赤やピンク、緑や紫など、様々な色の花は全て海水を養分としているそうだ。

「この子達はね、とっても元気なの。海水をたっぷり吸ってカッコよく咲くの、海兵さんみたいじゃない?」

 腰の曲がった女は独特な比喩表現を使いながら、花に水をやった。「しょっぱいのがいいみたい」と漏らしながら、ゆっくりと庭を周る。海水で作られた人工池の水面に

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黒いレモネード

黒いレモネード

「ねえ、この写真知ってる?ドリンクのやつ」

 金髪の女は、傷んだ毛先を気にしながら言った。

「ああ、あれでしょ?“この飲み物が何か分かれば、大金ゲット!”ってやつ」

 銀髪の女は、金髪の女の携帯画面を覗きながら言った。尖ったピンクのネイルが、照明に反射する。

「黒いよね、コーラでしょ」

「いや、コーヒーじゃない?」

「ええ~?でも泡あるよ」

「じゃあ、あれだ。烏龍茶!」

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揺蕩う

揺蕩う

 風鈴が鳴る。海月の形をした風鈴が、触覚を揺らす。

 青年はベンチに座って、屋根に向かって腫れた右手をかざす。ジーンズの左ポケットには、皺だらけのドル札が数枚。意識は朦朧としていた。

「お前も、嫌な形してるなあ。思い出しちゃうよ」

 六角形の屋根の向こうには、黒く深い海が見える。さっきまで入っていた海は静かに波を立ていて、青年は目を瞑り首を振った。波の音を意識すると、痺れがより酷くなるからだ

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光る貝を巡って

 海の中で光る貝を見つけると、願いが叶うらしい。

 しかしそれはとても希少で、オーパーツのようなものだ。

 それっぽいものを見つけても、実は錆びていたり貝殻を砕くと光の正体はLEDライトだったりする。

 肺が萎み始めると水面に顔を出して、精一杯息を吸う。真っ黒な海に首まで浸かって、ぼうっと島のほうを見つめると少し辟易とする。「明日の今頃も、こんな風なのか」と。

 光る貝は音も出さず、また匂

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Rain and The Queen

Rain and The Queen

 はい、お久しぶりです。久しぶりに日記を書く余裕ができました。

 さてさて〜、皆さんお元気ですか?僕はなんとか元気にやっています。環境を変えようとしているので、とても大変だったりしんどくはありますが充実感のある日々です。

 最近、勉強できてねえな〜。とのことで、一冊。英国史には元々興味があったので、ぴったり。まだ二十ページほどしか読んでないけどめちゃくちゃ面白いし、歴史も生活の積み重ねと考える

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Silver Lining 第五話

 砂埃を纏った風が黄土色の街を駆け巡り、人々は顔を顰めて足早にどこかへ向かう。都心から大きく離れたこの地には、急ぐ用がある奴なんてそうはいない。この街の誰もが役者で、見逃す演技に長けていた。

 街の人間は皆、無視していた。ゴミ捨て場の側で泣きじゃくる見窄らしい少年を。




 その日、シルバはいつもより早く目が覚めた。まだ日も昇っておらず、汚い鳥の鳴き声も聞こえなかった。

「こり

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Silver Lining 第四話

「ウィークデイなんてつまらないさ~」

 右手に大きなスプレー缶を持ったシルバは、黄色い霧を噴射させながら口ずさんでいた。

「真っ黒な顔を汚してさ、お前らみんなどこへ行くんだい~。あいつも仕事、お前も仕事、俺はタバコで一息さ~」

「バカな歌はやめろ。ただでさえ音痴で鼻につくのに、もっと腹が立つ」

「え~、いいじゃん。師匠がこの曲教えてくれたんだよ?」

「ただラジオで流れてただけだ

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Silver Lining 第三話

「私についてくれば、もっと素敵になるよ」

 シルバの前に突如現れた女は、彼と視線を合わせるように屈んでそう言った。

「……素敵に?」

「そう、素敵に」

 女は暑そうに高価なシャツの襟元をはためかせる。シルバの着ていた緑の半袖シャツはもう何年着ているかわからないほど古く、彼はそのシャツが大嫌いだった。袖を通すたびに、自分が成長していないことを思い知らされるからだ。

「そのシャツ、

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文芸誌批評-文學界 八月号- 1. 絲山秋子 『なんだかわからん木』

文芸誌批評-文學界 八月号- 1. 絲山秋子 『なんだかわからん木』

 というわけで、文芸誌を読んだ。日頃から読んではいるのだが、こんな風に”批評”してみるのは初めてだ。偉そうな言い方をしているが、気に入った作品の感想をとにかくつらつらと述べるだけなので、暇な人は読んでほしい。 

そもそも、文芸誌とは? 
 文芸誌とはなんだろう?例えば気になる女の子に「好きな雑誌とかある?」と聞く、何かしらの答えが返ってくるだろう。酒の席で友に「最近アツい漫画は?ジャンプ派?マガ

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