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黒いレモネード

「ねえ、この写真知ってる?ドリンクのやつ」
 
 金髪の女は、傷んだ毛先を気にしながら言った。
 
「ああ、あれでしょ?“この飲み物が何か分かれば、大金ゲット!”ってやつ」
 
 銀髪の女は、金髪の女の携帯画面を覗きながら言った。尖ったピンクのネイルが、照明に反射する。
 
「黒いよね、コーラでしょ」
 
「いや、コーヒーじゃない?」
 
「ええ~?でも泡あるよ」
 
「じゃあ、あれだ。烏龍茶!」
 
「余計違うでしょ」
 
 二人の女は、海の家で働いている。閉店後の店内でレモネードを飲みながら、そんな会話をしていた。貧乏で身寄りのない彼女達は血眼になって、写真を見つめていた。この街に伝わる、半ば都市伝説のような話も救いの手なのだ。
 
「お姉ちゃんたち」
 
 照明を落とした店内と同じ色のハットを被った、小太りの男がやってきた。
 
「おじさん、誰?」
 
「その写真、何か分かればお金あげる」
 
「は?」
 
「でも、それを“レモネードだ”って言えば、もっとお金をあげる」
 
 男は涎を垂らし、ボロボロになったスーツで口元を拭いた。二人の女は眉を顰め目を合わせ、ゆっくりと頷いた。
 
「おじさん、ここはね、キャバクラでも風俗でもないの。さ、帰った!」
 
 中指が立ったのを見て、男は何も言わず背を向け西の方へ歩いて行った。女たちはまた写真に視線を戻し、あれやこれやと議論し始め二度と男を見ることはなかった。
 
 男は背中を丸め、ゆっくりと足を動かす。一歩踏み出すごとに少しずつ体が大きくなり、小太りから巨漢へと姿を変えた。一歩、また一歩踏み出すごとにますます大きくなる。
 
 膨張に耐えきれずよれたスーツの隙間からは、花弁のように何かが零れ落ちていた。それはこの町で刷られたばかりの新しい紙幣だった。
 
 

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