西島渚

作家です、物語を書きます。

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  • 【新連載企画】世界を、様々な角度で

最近の記事

【短編小説】鉤括弧からの卑劣な逃亡

 日本には「八方美人」という言葉があることをウィズは学内の図書館から借りた本で知った。その言葉は「四字熟語」というグループに属し四つの漢字で構成されており固定的な表現、つまり決まり文句的な意味合いで使われる。その漢字それぞれに意味があるのだがこの表現の場合、上の二文字と下の二文字で意味合いが分かれる。「八方」というのは八つの方角(東西南北及び北西、北東、南西、南東)を、「美人」というのは美しい人を指す表現。そのため「どこからみても美人である様子」が八方美人の意味の一つとされて

    • 生き急いでナンボやけれども

       はい、関西弁で始まりましたがご機嫌いかがでしょうか。西島です。  数年前、大して世話にもなってない先輩にこう言われたことがあります。 「生き急いでるね~(笑)」  この「~」と「(笑)」が大事です。「!」でも「。」でも「笑」でもなく、「~」と「(笑)」。思い出すだけで腹が立ってきますねえ、後輩にしか相手されんくせになめんなよ、っていう話です。  まあムカつきますけど、僕はよくそう言われます。すぐに結果を求めがち、興味ないことは続かないし計画よりも衝動性が勝ってしまう

      • 「これでよかった」と思える日について

         こんにちは、西島渚です。うつ状態になりました。  序文からかなり重いトピックになってしまってすみません。ですがこれは事実なのです。先日心療内科に行って正式に診断を受けました。うつ病とうつ状態って違ったりするだろうし「こんなのまだ大丈夫だ!」と思われる方もいるかもですが、あくまで自分のための備忘録。よければ読んでください。  受診の経緯は様々ですがおかしくなり始めたのは去年の夏頃、あの頃は自分の言動が今では信じられないと思うほど狂っていました。原因は様々で経済的なことや家

        • 【明石市文芸祭応募作】静謐な蛸で踊る

           ローションを手のひらに塗る。今日、園芸部の田中くんが不登校になって、学校に来ない子どもたちは学年全体の一割を占めた。  教師という職業の優劣は、残酷なほど単純に決まる。同僚、主任、校長や教頭、保護者、そして生徒からどれだけ多くの「納得」を得られるかどうかだけだ。生徒をどう扱うか、そして生徒にどう向き合うか、学級内や部活動での立ち居振る舞いやテストの成績を鑑みて、彼らが「納得」できる学校を作る。それが、優れた教師だ。  田中くんは、クラスでもとりわけ個性のない子だった。誰

        【短編小説】鉤括弧からの卑劣な逃亡

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        • 【新連載企画】世界を、様々な角度で
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          【小説】吹き出す、膨大な量の青い雲

          「ああ、あの日のことは鮮明に覚えてる。俺は分娩室の前なんかじゃなく外回りをしていた街の一番勾配が強い坂道で、夕陽を眺めてた。今でも言われる。『あの時出産を見守ってくれなかったから、いつもあんたにはメインディッシュを少なく作る』ってね。もちろん、反論の余地なんかないさ」  少し薄くなった髪を弄りながら、男性は照れた表情を見せた。 ——意外でしたね、息子さんからは夫婦円満で今でも二人で観に来ると仰ってましたよ。 「まあ、仲はいいよ。もう結婚して三十年になるから。ただ、若い頃

          【小説】吹き出す、膨大な量の青い雲

          右手にできたマメ

           2023年、早くも自身の体に一つの変化が起きた。それは右手の掌にできたマメだ。  よく、手は人を表すという。中学・高校時代は中指にペンだこができ、大学時代は指先にギターのたこができる、フリーター時代にはその指先のたこに加えて手首が腱鞘炎になった。ずっとパソコンを触って、執筆していたからだ。  それが今年、就職しギターから離れてしまうと指先は柔らかくなり、代わりに指の生え際が硬くなった。平日、サラリーマンとして外を歩き回って行くにつれて、鞄を握っていたツケだ。  時々、

          右手にできたマメ

          団地とサンタクロース

           青い空に包まれた、不気味な住居の群衆には子供がたくさん住んでいる。子供達は常に同じ服を着て、寒い雪の日でも部屋の中を駆け巡っていた。クリスマスイブのことだ。  そんな群衆の中の、ある一部屋を覗いてみよう。幼い兄弟が二人、小さい机を中心にして追いかけっこをしている。机に向かう女は彼らを怒ることもなく、金色の飾り物や煌びやかなレースに傷はないか、じっくりと点検していた。 「サンタさんはいつ来るの?」 「サンタさんはもうすぐ来るよ!」  駆け周りながら、兄は弟の質問に答え

          団地とサンタクロース

          花を育てる女

           この街には、花を育てる女がいる。  花と言ってもただの花ではない。赤やピンク、緑や紫など、様々な色の花は全て海水を養分としているそうだ。 「この子達はね、とっても元気なの。海水をたっぷり吸ってカッコよく咲くの、海兵さんみたいじゃない?」  腰の曲がった女は独特な比喩表現を使いながら、花に水をやった。「しょっぱいのがいいみたい」と漏らしながら、ゆっくりと庭を周る。海水で作られた人工池の水面には、庭の奥に聳える和室が反射していた。そこには赤いランドセルと、卒業証書が入った

          花を育てる女

          黒いレモネード

          「ねえ、この写真知ってる?ドリンクのやつ」  金髪の女は、傷んだ毛先を気にしながら言った。 「ああ、あれでしょ?“この飲み物が何か分かれば、大金ゲット!”ってやつ」  銀髪の女は、金髪の女の携帯画面を覗きながら言った。尖ったピンクのネイルが、照明に反射する。 「黒いよね、コーラでしょ」 「いや、コーヒーじゃない?」 「ええ~?でも泡あるよ」 「じゃあ、あれだ。烏龍茶!」 「余計違うでしょ」  二人の女は、海の家で働いている。閉店後の店内でレ

          黒いレモネード

          揺蕩う

           風鈴が鳴る。海月の形をした風鈴が、触覚を揺らす。  青年はベンチに座って、屋根に向かって腫れた右手をかざす。ジーンズの左ポケットには、皺だらけのドル札が数枚。意識は朦朧としていた。 「お前も、嫌な形してるなあ。思い出しちゃうよ」  六角形の屋根の向こうには、黒く深い海が見える。さっきまで入っていた海は静かに波を立ていて、青年は目を瞑り首を振った。波の音を意識すると、痺れがより酷くなるからだ。 「こんな仕事、誰もやりたがらねえ。お前に刺されると毒が回るし、下手すりゃ死

          光る貝を巡って

           海の中で光る貝を見つけると、願いが叶うらしい。  しかしそれはとても希少で、オーパーツのようなものだ。  それっぽいものを見つけても、実は錆びていたり貝殻を砕くと光の正体はLEDライトだったりする。  肺が萎み始めると水面に顔を出して、精一杯息を吸う。真っ黒な海に首まで浸かって、ぼうっと島のほうを見つめると少し辟易とする。「明日の今頃も、こんな風なのか」と。  光る貝は音も出さず、また匂いもない。それらが存在しないという根拠はないが、漁船と潮の香りが邪魔をするから無

          光る貝を巡って

          Rain and The Queen

           はい、お久しぶりです。久しぶりに日記を書く余裕ができました。  さてさて〜、皆さんお元気ですか?僕はなんとか元気にやっています。環境を変えようとしているので、とても大変だったりしんどくはありますが充実感のある日々です。  最近、勉強できてねえな〜。とのことで、一冊。英国史には元々興味があったので、ぴったり。まだ二十ページほどしか読んでないけどめちゃくちゃ面白いし、歴史も生活の積み重ねと考えると僕らも歴史を生きているんだと、当たり前のことを再認識した。  読書とか、新し

          Rain and The Queen

          Silver Lining 第五話

           砂埃を纏った風が黄土色の街を駆け巡り、人々は顔を顰めて足早にどこかへ向かう。都心から大きく離れたこの地には、急ぐ用がある奴なんてそうはいない。この街の誰もが役者で、見逃す演技に長けていた。  街の人間は皆、無視していた。ゴミ捨て場の側で泣きじゃくる見窄らしい少年を。  その日、シルバはいつもより早く目が覚めた。まだ日も昇っておらず、汚い鳥の鳴き声も聞こえなかった。 「こりゃまた嫌な夢だなあ」  あのゴミ捨て場の記憶は、彼にとって簡単に拭えるもので

          Silver Lining 第五話

          Silver Lining 第四話

          「ウィークデイなんてつまらないさ~」  右手に大きなスプレー缶を持ったシルバは、黄色い霧を噴射させながら口ずさんでいた。 「真っ黒な顔を汚してさ、お前らみんなどこへ行くんだい~。あいつも仕事、お前も仕事、俺はタバコで一息さ~」 「バカな歌はやめろ。ただでさえ音痴で鼻につくのに、もっと腹が立つ」 「え~、いいじゃん。師匠がこの曲教えてくれたんだよ?」 「ただラジオで流れてただけだ」 「この家のラジオで流れたんだ、それはもう師匠に教わったのも同然だよ!」

          Silver Lining 第四話

          Silver Lining 第三話

          「私についてくれば、もっと素敵になるよ」  シルバの前に突如現れた女は、彼と視線を合わせるように屈んでそう言った。 「……素敵に?」 「そう、素敵に」  女は暑そうに高価なシャツの襟元をはためかせる。シルバの着ていた緑の半袖シャツはもう何年着ているかわからないほど古く、彼はそのシャツが大嫌いだった。袖を通すたびに、自分が成長していないことを思い知らされるからだ。 「そのシャツ、すっごく素敵。同じようなやつ、ハリウッドスターの息子が着てたよ。SNSで見た」

          Silver Lining 第三話

          文芸誌批評-文學界 八月号- 1. 絲山秋子 『なんだかわからん木』

           というわけで、文芸誌を読んだ。日頃から読んではいるのだが、こんな風に”批評”してみるのは初めてだ。偉そうな言い方をしているが、気に入った作品の感想をとにかくつらつらと述べるだけなので、暇な人は読んでほしい。  そもそも、文芸誌とは?   文芸誌とはなんだろう?例えば気になる女の子に「好きな雑誌とかある?」と聞く、何かしらの答えが返ってくるだろう。酒の席で友に「最近アツい漫画は?ジャンプ派?マガジン派?それともサンデー?」なんて話は、絶好の肴だ。  文芸誌とは、小説や随筆

          文芸誌批評-文學界 八月号- 1. 絲山秋子 『なんだかわからん木』