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団地とサンタクロース
青い空に包まれた、不気味な住居の群衆には子供がたくさん住んでいる。子供達は常に同じ服を着て、寒い雪の日でも部屋の中を駆け巡っていた。クリスマスイブのことだ。
そんな群衆の中の、ある一部屋を覗いてみよう。幼い兄弟が二人、小さい机を中心にして追いかけっこをしている。机に向かう女は彼らを怒ることもなく、金色の飾り物や煌びやかなレースに傷はないか、じっくりと点検していた。
「サンタさんはいつ来るの?」
「サンタさんはもうすぐ来るよ!」
駆け周りながら、兄は弟の質問に答えた。女は何も言わず次から次へと段ボールを開けて、梱包されている煌びやかな装飾を見つめる。傷があれば、欠けていれば、それをつまみ出す。一つ一つ丁寧に検品し区分することが、彼女の仕事だ。
「そうだよね!ママ」
兄の言ったことの何がそうなのか、女は聞きそびれたが適当に返事をした。廃棄予定のものをよれた赤色の靴下の中に詰め込んで、リボンを二本盗んで結んだ。仕事が終わると、女は二人を抱きしめてこう言った。
「もうクリスマスは始まってるのよ」
その日の夜、疲れて眠りに落ちた兄弟の枕元へサンタクロースがやってきた。サンタクロースは起こさないように静かに「メリークリスマス」と囁き、赤色の靴下とホームセンターで買ったグローブを二つ置いた。
その後、サンタクロースは明かりを最小限にして今度はシール貼りの仕事を始めた。長い夜、彼女はひたすらドラム缶にシールを貼り続ける。サンタクロースは確かにそこにいた。
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