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計算論的精神医学に入門してみた
CPSYコース東京2023に参加してきたので、単なる感想だけれどもその話をしようと思う。
まず貴重な機会を与えてくれた主催者および参加者のみなさんに感謝したい。長年いろんなことをやってきたのでセミナーや研究会には慣れているが、このような密度の高いレクチャー・ディスカッションが実現することは稀だと思う。また、若い研究者や学生さんが多く意欲も高いので分野の将来性が感じられた。また全体として非常にオープ
わたしたちはどのようにして自閉スペクトラム症の計算論的精神医学から学ぶことができるのか(4) ー自閉と計算論ー
前回からだいぶ時間が空いてしまったが、みなさんには楽しんでもらえているだろうか。ここからは、前回までの仮説が正しかった仮定したときに、仮定に仮定を重ねて自閉スペクトラム症の場合に対応するようなモデルを設定できるかという議論に入っていく。
念のために確認しておくが、階層的予測誤差最小化は仮説であり、まして自閉症の脳で実際に何が起こっているかはまだわかっていない。しかし、仮説を持たずに科学が前進するこ
社会的不確実性の精神病理へ向けて
米田 衆介
(本稿の初出は、"Social Blindness" Vol.1 suppl.1 2015 pp.30-35 である。同人誌として発表されたが、発行部数も少なくすでに品切れのため入手困難と思われるので、ここに再掲することにした。前回のコンティンジェンシーに関する議論に関して読者からご好評をいただけたようだったので、その問題について扱った本稿が読者諸氏のお役に立つならありがたい)
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わたしたちはどのようにして自閉スペクトラム症の計算論的精神医学から学ぶことができるのか(3) ―予測誤差最小化ー
前回までに、「人間の知覚体験は、内的モデルによる感覚刺激の予測によって成り立っている」というようなことを、視覚における不良設定問題を例に出して、ざっくりとお話しした。このような感覚刺激の予測は、神経回路がベイズ推論に相当する計算を実行することで実現している。この予測計算ユニットは、より要素的な感覚に対応する下位のユニットから、しだいに広域的な全体像を予測するユニットにむけて多段式の階層構造になって
もっとみるわたしたちはどのようにして自閉スペクトラム症の計算論的精神医学から学ぶことができるのか(2) ー予測する心ー
前回は、心理学における「認知革命」から、パーセプトロンの話までだった。ちょうど、「心」についての新しい見方が生まれつつあった時代だったと思う。こうした変化によって、どうも心は単純に鏡に映すようなやり方で外界を認知しているわけではないようだという理解が広まっていったのだ。
年代はだいぶ遡るが、ピアジェの発達心理学を振り返ってみると、人間の認知の構造がどのようにして成立するのか、その発生をたどること
わたしたちはどのようにして自閉スペクトラム症の計算論的精神医学から学ぶことができるのか(1) ー石頭計算機から認知革命へー
しばらく前から、自閉スペクトラム症の計算論的精神医学について書こうと思っていたのだが、よく考えてみると説明する前に色々と予備的に説明しておく必要のある事柄が多すぎて、簡単には取りかかれないことがわかってきた。
そこで、今回は計算機科学の発展に伴って心理学の分野でおきた『認知革命』と呼ばれる一連のうごきについて、予備的な解説をしておこうと思う。とはいっても、この問題にあまり興味のないひとにとってはあ
精神療法を行なうにあたって科学的であるということはどういうことか
若い精神科医のひとたちが、精神療法について迷うのは、「これって科学じゃないのでは・・・」という疑いを持つことも一因かも知れませんね。それはある意味で当たり前のことだと思います。それは、精神療法というのは精神医療の一つの実践の形ですが、それ自体としては科学そのものではありえないという事実があるからです。そう言ってしまうと身も蓋も無いようですが、それはひとつの技術であり生活に関与する実践であるというこ
もっとみるADHDはどう診断されるのか
診断というと、操作的診断基準を使うと考えがちだが、DSMのようなタイプの診断基準は必ずしも額面通りに機能しているわけではない。試しにDSM-5のADHDの診断基準から、不注意の項目を見てみよう。
診断基準:DSM-5より
(1)不注意:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6カ月持続したことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的および学業的/職業的活動に直接、悪影響を及ぼす
発達障害の精神医学から了解を再考する
精神医学は、応用科学としての医学におけるひとつの分野であると同時に、その現実の医療としての実践ゆえに人間についての学であることも求められている。この二つのことの関係が整理されないままに、自然科学としての精神医学と、人文学としての精神医学とが、水と油のように溶け合うことなく併存しているという状況が長く続いてきた。しかし、神経発達障害という精神医学の分野においては、患者の生活を理解しようとすれば、生物
もっとみる初発のイメージを捨てるということ
自閉スペクトラム症のひとの困難さのかなりの部分は、「初発のイメージ」を捨てて、イメージを変化させ続けることの困難さと関係しているのかも知れない。また高機能向けの話になってしまって申し訳ないが、ちょっと考えてみようと思う。
自閉症研究の歴史の中で、ローナ・ウイングの貢献を忘れることはできない。ウイングは、自閉症の特徴として「イマジネーションの障害」ということを指摘した。ものを並べる、特定の物を集め
自閉スペクトラム症とはなにか
ネット上に、自閉スペクトラム症の説明は多いから、それにまたひとつ教科書的な話を付け加えることはあまり役に立たないかも知れない。しかし、自閉スペクトラム症を認知神経心理学の側面から臨床的に解説しているネット上のテキストはあまり見かけないので、その話をしてみよう。
自閉スペクトラム症の認知神経心理学研究と言えば、なんと言ってもウタ・フリスである。日本語に翻訳されている著書では、「自閉症の謎を解き明か
精神科の診断面接は何をしているのか
一般の人から見て、精神科の診断というのは何を基準にしているのか不思議に見えることがあるようだ。医師によってやり方は違うかも知れないが、大体は「いま困っていること」それがいつ始まってどんな様子なのか、以前にはそういうことがなかったのか、小さいときにどんな風だったのか、いままで学校や職場でどんな風に過ごしてきたのか、自分ではそのことをどう思っているのかというようなことを聞かれるかも知れない。
そうい