猫と雨と人間、と僕

おはよう、と言っても意味ないし。

ありがとう、と返しても落ちていくだけだし。

さよなら、とお辞儀しても去っていくし。

おやすみ、と呟いても意味ないし。

鏡の前に立って、自分の顔を見て、今日の全てを行いたい。

そうすれば、すべてがうまくいくような、そんな気がした。

夜は疲れた。いっそのこと天井に向かって叫びたい。誰もいない家で叫びたい。僕は今も人間で布団にくるまって死んでしまいたい。

学校の帰り道に目の前で息を引き取ったハエがたかりかけた猫の顔が天井に浮かび上がる。あの猫はまだ生きて生きたかったのだろうか。僕に猫言葉が分かれば良かった、僕が人間じゃなければよかった。

あ、そういえばあの猫は車で引かれたような跡があったな。

そうか、結局人間か。

天井に浮かび上がる猫が消えない。
布団にくるまった体が動かない。

唯一動かせる目を閉じて、そこで気付いたもう一つで街を覆い隠す雨音を聴きながら、僕は望まぬ朝を迎えることになる。

結局は僕も人間だったのだ。

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