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マー君
2022年1月20日 19:34
カーテンの隙間から漏れてくる日はすでに高い。慌てて起きあがろうとする自分を制する。今日は土曜日なのよと言い聞かせる。そうだ、今日は土曜日だ。そして、私は遅くまで寝ていた。なぜなら、昨夜は遅かったからだ。二日酔いの朝はいつもこうだ。いつも、眩しい光に罪悪感を抱く。学生の頃からそうだったなと考える。誰かの部屋に転がり込んで、雑魚寝する。翌朝、これでもかと照りつける日の下をふらふら
2022年1月17日 19:26
おい、そこのお若いの。そう、お前だ。何をさっきから悩んでいる。さっさと飛び降りろ。その金網を乗り越えて、一歩踏み出せばすぐじゃないか。早く、その命を終わらせてしまえ。俺か。俺は、いのち喰いと呼ばれている。お前のような、命を途中で放り出した奴の命を食っている。さあ、早く食わせてくれ。お前の命を。そうだ、せっかくだから教えてやろう。俺たちは、命なら何でもいいというわけではない
2022年1月15日 18:55
少年は恋をしました。毎日通る通学路。その途中に小さな花屋がありました。その花屋で毎日働いている女の子がいました。少年よりも少し年上かもしれません。毎日、花屋の前を通る時に流れてくる素敵な香り。思わず中を覗き込みます。すると、花から顔を上げた彼女と目があったのです。毎日彼女と目を合わすのが楽しみでした。彼女と目が合わなかった日は、早く寝ました。早く寝れば、早く次の日になるか
2022年1月13日 18:11
寺西くんは嘘つきです。白いギターを持っていると自慢していました。テレビで変なことをすると、土居まさるからもらえるやつです。でも、あたしは寺西くんがテレビに出ているのを見たことがありません。みんなでそのことを追求すると、「本当は黙っとくように言われたんだけど、お父さんが土居まさると知り合いなんだ」きっと嘘です。お菓子の缶詰めを持っていると威張っていました。森永のチョコボールで金の
2022年1月11日 18:47
僕たちが出会ったのは新宿の喫茶店だった。大学に入ったばかりの僕は、先輩と相談して同人誌のメンバーを募集した。ぴあの欄外に載った小さな告知に君は応募してきたのだ。当日は確か10人ほどがその喫茶店に集まった。学生もいたし、社会人もいた。君があの大学病院で働く女医だと名乗った時には、みんなおっという顔をしていたよ。お互いに好きな作家とか、詩人とかを紹介してその日は解散した。その数日後
2022年1月9日 18:31
食事を終えて、食器を流し台に運ぶ。残業が続いている。妻はとっくに寝ているのだろう。ソファに座ってテレビをつける。こんな時間にろくな番組はやっていない。タブレットを取り出して、明日の予定を確認する。いくつかの指示を部下に送った後、SNSのアプリを開いた。 今日は別れた妻と久しぶりに食事をしました。 無理を言って会ってもらったんだけれどね。 でも、驚きましたよ。 こんなに綺
2022年1月7日 19:08
小林老人は先ほどから感慨深そうに会場を見渡していました。そうなのです。今日は、あの少年探偵団の解散式なのです。小林老人(当時は小林少年でしたが)を中心に結成された少年探偵団は、明智小五郎先生のもとで数々の難事件を解決してきました。団員達の悪党に立ち向かう姿は、全国の少年少女を魅了しました。入団希望者も後を絶たず、いっときは団員が1000人を超え、全国各地に支部が作られました。しかし
2022年1月6日 19:16
妻が孫娘の手を引いている。時々立ち止まり、孫娘のマフラーを巻き直す。坂道はまだもう少し続いている。2人の歩みは遅い。そして、私はそれよりもさらにゆっくり歩いている。年明けももう遠く感じる1月の終わり。風は冷たく、雲は低く垂れ込めたままだ。遠くの山の辺りは雪かもしれない。空を覆う雲よりもさらに低く黒い雲が山の頂を飲み込み、少しずつ市街地にも迫っている。孫娘が振り向いて、早く来い
2022年1月3日 18:50
老人は壁に掛かった時計を見た。早い夕暮れが訪れようとしていた。テーブルに手をついて、ゆっくり立ち上がる。北風が窓を鳴らしていた。その犬も老人と同じように年老いていた。老人が一歩進めば、犬も一歩進んだ。首輪の鈴が鳴った。老人のマフラーが風になびいた。老人の足音。犬の足音。首輪の鈴の音。規則正しく夕暮れの路地に響いた。突き当たりの家の前で老人と犬は立ち止まった。老人は2
2022年1月2日 18:20
「初夢売ります」彼は新聞の片隅にその広告を見つけると、すぐ店に向かった。入院中の妻に、素敵な初夢をプレゼントしたい。医者から妻の余命を聞かされた時に、仕事は辞めた。最後まで、そばにいたい。彼は妻に隠れて毎晩泣いた。そんな時にこの広告が目に飛び込んできた。最後の初夢は素敵な夢にしてやりたい。彼は道を急いだ。白い息を吐きながら急いだ。残っているお金をすべてつぎ込んでも構わないと思っ
2021年12月31日 17:41
TODOリストをチェックした。やり残している電話は、ない。送り忘れているメールも、ない。返信も全て完了。デスクの上を片付けた。出しっぱなしのマーカー。ボールペン。付箋。引き出しの中に放り込んだ。カレンダーを架け替えた。パソコンの隅に、雑誌から切り抜いた門松のイラストを貼り付けた。誰もいないオフィスを見回して、「来年もよろしく」鍵をかけて、今年最後の家路につく。暗い
2021年12月30日 18:25
列車「来年」号は懸命に走り続けていました。12月31日の深夜0時、1月1日の午前0時に間に合うように。毎年、その時間ぴったりに引き継ぎをするのです。「来年」号は「今年」号になって、新たな線路を走り始めます。「今年」号は「昨年」号になって、車庫に戻ります。少しでも遅れると、永遠に人々から暦が失われてしまうのです。「来年」号は走り続けました。365両の客車を従えて長い線路を走り続けまし
2021年12月28日 18:36
中国は楚の国のこと。ある商人のまわりに人だかりができていた。「さあ、ご覧なさい、この盾を。これが世界で一番堅い盾だ」そう言って、商人はその盾を高く掲げた。「この盾があれば、どんなに鋭いものからも身を守ることができる」人々はほおーと感心した。続いて、「この矛を紹介しよう」そう言うと、一本の矛を取り出した。「この先端をよく見なさい。この鋭さ」商人はその切っ先を人々に突きつけて、ぐる
2021年12月26日 19:34
ザムザが最初かどうかはわかりませんよ。窓口の男は話し始めた。彼は不幸な結果に終わりましたけどね。今では珍しいことではありませんよ。人が虫に変身することなど。もう、存在がどうのこうのとか難しいことを考えずに、どんどん変身しちゃいますからね。若い子らは。変身したかと思えばいつの間にか、また人間に戻っている。そんなケースも多々確認されていますよ。それに虫になったからといって何も変