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『寺西くんは嘘つきだ』
寺西くんは嘘つきです。
白いギターを持っていると自慢していました。
テレビで変なことをすると、土居まさるからもらえるやつです。
でも、あたしは寺西くんがテレビに出ているのを見たことがありません。
みんなでそのことを追求すると、
「本当は黙っとくように言われたんだけど、お父さんが土居まさると知り合いなんだ」
きっと嘘です。
お菓子の缶詰めを持っていると威張っていました。
森永のチョコボールで金のくちばしが出たらもらえるやつです。
でも、どんなに食べても、誰も金のくちばしなんか見たことがありませんでした。
本当なら持ってきてよと言いました。
みんなからも持ってこいと言われて、寺西くんは持ってきました。
でも、それはどう見ても普通の缶でした。
中にお菓子が詰まっていましたが、ロッテのガムも入っていたので、きっとニセモノです。
次に寺西くんは、空を飛べると言い出しました。
もう誰も信用しません。
一度、屋上から寺西くんが飛び降りると言い出してみんなが集まりました。
「ごめん、今日はマントを忘れたから無理なんだ」
ある日、終わりの会で先生が寺西くんの名前を呼びました。
みんな、立ち上がった寺西くんに注目します。
ついに、寺西くんが叱られると思いました。
寺西くんが嘘をついていることが先生にもバレたんだ。
すると先生は一通の手紙を取り出して、読み始めました。
みんな寺西くんを見つめたままでした。
おばあさんは、神社の階段を上ろうとしていました。
その神社の階段は長くて急なことで有名です。
よく高校生たちが走って、上ったり下りたりしています。
おばあさんが半分の半分ほど上った時に、後ろから肩を叩かれました。
その子はおばあさんを背負って上までいき、おばあさんがお参りするのを待って、また下まで背負いました。
おばあさんが名前を聞くと、寺西と名のりました。
読み終わると先生は拍手しました。
みんなも、つられて拍手しました。
このお礼状は校長先生にも見てもらいますと先生は言いました。
そして、次の全校一斉の朝礼で寺西くんは表彰されました。
「背負ったまま、飛んでもよかったんだけどね」
寺西くんは言いました。
「急なことでマスクを持ってなかったんだ。それに、おばあさんが怖がるだろ」
あたしは、空を飛ぶ時はマントじゃなかったのと言いいましたが、寺西くんは聞こえないふりをしていました。
数々の疑惑を暴いてきたあたしに、卒業式のあと寺西くんは言いました。
「お前なんか大嫌いだ。あばよ! 」
寺西くんは、やっぱり嘘つきでした。
10年後、あたしは寺西さんになりました。
それから30年、寺西くんの長い嘘は続いています。
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