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『解散式の夜はふけて』

小林老人は先ほどから感慨深そうに会場を見渡していました。
そうなのです。
今日は、あの少年探偵団の解散式なのです。

小林老人(当時は小林少年でしたが)を中心に結成された少年探偵団は、明智小五郎先生のもとで数々の難事件を解決してきました。
団員達の悪党に立ち向かう姿は、全国の少年少女を魅了しました。
入団希望者も後を絶たず、いっときは団員が1000人を超え、全国各地に支部が作られました。

しかし、2000年代に入ってから団員は急激に減り始めました。
少子化の影響もあります。
また、少年たちがスリルを味わうのは正義のための戦いから、スクリーンの中に変わっていきました。

さらにその間に警察の捜査能力は大きく向上しました。IT技術を駆使して、もう探偵の助けを必要としなくなってきたのです。

彼らを指揮していた明智小五郎先生に子供がなく、後継者がいなかったというのも大きいでしょう。
小林少年がという声ももちろんありました。
しかし、彼はあくまでも小林少年であることにこだわったのです。
そして、彼にも跡取りはいませんでした。
一度、団員の花崎マユミとの仲が噂されたこともありましたが、結局実りませんでした。

そうしたことが重なり、かつて少年たちの憧れの的であった少年探偵団も、今日をもって解散することになったのです。

解散式の会場には、懐かしい野呂君や井上君の顔も見えます。
みんな、もうすっかり年をとっています。
あちらこちらで、それぞれが活躍した懐かしい事件の話題で盛り上がっています。
中には、あれは俺の事件だ、いや俺だとやりあっている者もいます。
お互いのBDバッヂを見せ合い、別れを惜しむ姿も見られます。

そんな会場を見渡していた小林老人の目が、1人の老婆を捕らえます。
会場の隅で、1人場違いに立ち尽くしている老婆。
小林老人と目が会うと、老婆はスッと会場から外に出ました。
すかさず、小林老人も追いかけます。
年を取っても身のこなしはさすがです。

門の手前で小林老人は老婆に追いつきました。
「よかったら」
老婆の肩に手をかけます。
「一緒に最後の夜を楽しんでいきませんか。怪人二十面相君」
振り向いた時には、老婆の姿は立派な紳士に変わっていました。

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