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『初夢』

「初夢売ります」
彼は新聞の片隅にその広告を見つけると、すぐ店に向かった。
入院中の妻に、素敵な初夢をプレゼントしたい。

医者から妻の余命を聞かされた時に、仕事は辞めた。
最後まで、そばにいたい。
彼は妻に隠れて毎晩泣いた。
そんな時にこの広告が目に飛び込んできた。
最後の初夢は素敵な夢にしてやりたい。
彼は道を急いだ。白い息を吐きながら急いだ。
残っているお金をすべてつぎ込んでも構わないと思っていた。

店に着くと、彼は言った。
一番素敵な初夢をください。
店主は、少しお高いですがと言いながら、ひとつの初夢を差し出した。
迷わず買い求めた。
これを早く妻に。
彼は両手で暖めながら妻の元を目指した。


翌日、妻は彼からの初夢を胸に抱くと、ありがとうと言った。
そして、彼が廊下に出た時に、こっそり涙を流した。
それは、新婚の頃に自分が見た初夢だった。
夫と二人で波打ち際ではしゃいでいる夢。
叶う事のないままに手放してしまった夢。
夫が自分のために会社を辞めた時、夫に内緒で売りに行った初夢だった。
夫が部屋に戻ってくると彼女は言った。
この夢は一緒に見ましょうね。

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