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田所敦嗣様

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自分が特に気に入った記事を集めてDIYでマイ単行本を編む感覚で始めてしまいました。ご本人様からのクレームのみ謹んでお受け致します。サポート等は田所様へお願い致します。
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記事一覧

デレックのゼリー

デレックのゼリー

同じ釜のめし、という言葉が好きだ。
”ひとつ屋根の下”とか、”寝食を共にする”などとも表現されるが、その共同体のような意識を、食べ物で表現することが絶妙だと感じていた。
苦楽を分かち合う仲間との食事は、素朴な料理でもご馳走に変わる。

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2週間ほどチャポ湖で過ごした最終日の朝、セサーがいつものピックアップトラックで迎えに来た。

湖の住人で

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2:8

2:8

看板を掲げているわけでも無いのに、人生相談に近い話をされることがある。
それがなぜ何度も続くのか不思議に思ったことはあったが、ある日、友人からお前は話を聞く割合の方が多い人間なのだと言われた。

ただ、自分が若い頃はそんなこと無かったはずで、自分の話をしたくて、聞いて欲しくて相手に訊かれてもいないことを話していた気がするが、歳を重ねるにつれ、そういうものに疲れてくる。

疲れるというのも、体力や精

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その場所へ行く

その場所へ行く

出張という旅は、会うべき人や行くべき場所がほぼ決まっている。
アテのない旅に憧れはあれど、アテもない出張というのは聞いたことがない。
以前、ゲートで飛行機を待っているとき、行き先不明のフライトがあったら流行るかもしれないと思ったが、今も見たことが無いので、残念ながらそんなに流行ってはいないのだろう。

出張は目的も最初から決まっていて、自由奔放な旅はおそらく存在しない。

とはいえ、今は仕事でも誰

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蘇州夜曲

蘇州夜曲

心の中に、帰る場所をもっているだろうか。

たとえ身体は戻れなくとも、記憶の中に帰る場所がある人は、どこかにしなやかな強さを持っている様な気がする。

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中国・瀋陽市は遼寧省の省都で、東北地方の大都市である。
瀋陽へは夏場に幾度か訪ねたことはあるが、仕事の関係上、秋から冬にかけての滞在が多かった。

成田から大連周水子国際空港に着陸すると、エージェントの小李(シャウリ

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二人の書店員

二人の書店員

一貫してモノを見られる機会に、出会ったことはあるだろうか。

いま机の上に置いてあるコーラも、原材料がどんな国でどんな人が作っているのかを、簡単に見ることはできない。
けれど、原材料を作っている人が、この机に置かれているコーラを見ることも、おそらくできないだろう。

片側からしか見えない世界は、仕事として携わることで、一貫して見えることがある。

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2022

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スラーエルセの若者

スラーエルセの若者

人は、何かの影響を受けて生きている。

幼いころに憧れたヒーローやヒロインから始まって、大人になっても誰かの背中を追っている瞬間がある。
そんな光景を外から見ていると不思議と明るい気持ちになれるのは、なぜだろう。

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デンマーク東部に位置するスラーエルセ(Slagelse)は、首都・コペンハーゲンから列車で1時間ほどにある小さな街である。

日本からフランクフルトを経由

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「ジャパンでは相手を敬うのかい?」

「ジャパンでは相手を敬うのかい?」

友人とはなぜ長い間良好な関係でいられるのかという疑問に対し、一緒にいて楽しいから。
という答えにはずっと物足りなさがあった。

冗談を言い合える仲間は楽しいモノだし、笑い合って生きていけるのは素晴らしいことだけど、長く友人でいるには、そこにもっと別の要素が入る気がしていた。

若い頃はそれが例えようのない感覚で上手く説明が出来なかったし、気が合う、合わないなんて言葉で濁してきたけど、ある1つの経験

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小さな町の信念

小さな町の信念

その日を境に

” 絶対的な平和 ”

というフレーズが頭の中で浮かぶようになった。

世界は相変わらず誰かが人と人を争わせたり、遠ざけようとしているが、その反対側には絶対的な平和を維持しようと、その信念を曲げない人達がいる。

学生時代アメリカに住んでいた頃、テキサスの片田舎にフレックというおじさんがいた。

住んでいた家の2軒隣に夫婦だけで住んでいて、ツートンカラーの初代ダッジラム・ピックアッ

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春節と線香

春節と線香

路上の段差に身体が揺さぶられ、目が開いた。
咄嗟に、今が日中なのか夕方なのか、自分がどこにいるのかもわからないくらい、深い眠りについていた。

陽の眩しさに慣れないまま車窓を眺めると、どこまでも平坦な畑が連続する風景が、線の様になって流れている。

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中国での生産は、ピークを迎えていた。
世界中からありとあらゆる物資がこの国に集め

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廃れさせること、廃れさせぬこと

廃れさせること、廃れさせぬこと

人と接することを禁じられた2年は、人々のなにかを奪った。

同時に人は別のなにかを作り、考えた。

ようやく元の世界を懐かしめるように感じた春、僕は小さな予定を入れた。

久しぶりに出る旅は、どんな景色が見えるだろう。

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長崎県東彼杵(ひがしそのぎ)郡に位置する波佐見町は、県のほぼ中央に位置する。
人口約1.5万人が住み、長崎では海に面していない唯一の町である。

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デルタ航空 296便

デルタ航空 296便

旅とは、判断の連続でもある。

空港に着いたその時から、何に乗って街まで向かうのか、今夜や明日の食べ物、このまま旅を進めるのか、それとも引き返すのか。
旅先で選択したその責任は、全て自分に返ってくる。

楽しい決断が続けばよいと願っていても、いつもそうはいかない。

時に、困難に直面する人を目にしたら、助けられる強さを持てるだろうか。

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ホルヘ(Jorge)は、

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2つの鋼

2つの鋼

ある年の12月31日が終わる頃。

4℃と表示された薄暗い冷蔵庫の中で、魚から出るワタ(内臓)と大量の血と頭にまみれ、手鉤を持って50キロ近くなる最後のプラスチック製の樽を動かしていた。

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高校も卒業間際、後輩の紹介により、魚屋でアルバイトを始めた。
ただ時給が高いという、シンプルな理由で。

魚屋といっても、バイトがやることは店頭の対面売りと、職人が次々に魚を卸した際、樽

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サンドポイント・ブルース

サンドポイント・ブルース

「ご苦労だな。なんだ若造じゃねぇか。酒、持ってきたか」

一番最初に交わした言葉だ。

表現をする生き方に、憧れを感じたことはあるだろうか。

全てを捨てて1つの為に生きていくことは、勇気が要る。

だから多くの人々は、その生き方に憧れるのかもしれない。

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アメリカ合衆国・アラスカ州のアリューシャンズイースト郡に位置するサンドポイントは、州の形状でいうと、南側に長く

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本にすることに、なりました。

本にすることに、なりました。

こんにちは。
記事が3分くらいで読めるnoteを書いております、田所と申します。

自身のことで恐縮ですが、今日は僕にとって大切なお知らせがあります。

昨夜、2021年12月9日の配信番組”僕たちは会って話してなに考えてるの?”番組内告知にありました通り、この度、敬愛する田中泰延さんの”ひろのぶと株式会社”より、一冊の本を出させて頂く運びとなりました。

アーカイブはこちらからもどうぞ。

今朝

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