田所敦嗣/Atsushi Tadokoro

旅することは、生きること。 千葉県生まれ。水産系商社に勤務し、アリューシャン列島、フェロー諸島、パタゴニア、スカンジナビア半島等の辺境を旅する。noteの連載が2022年12月に書籍化『スローシャッター』(ひろのぶと株式会社)発売中。Twitter:@Atsushi_Tado

田所敦嗣/Atsushi Tadokoro

旅することは、生きること。 千葉県生まれ。水産系商社に勤務し、アリューシャン列島、フェロー諸島、パタゴニア、スカンジナビア半島等の辺境を旅する。noteの連載が2022年12月に書籍化『スローシャッター』(ひろのぶと株式会社)発売中。Twitter:@Atsushi_Tado

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    時間という信用

    時給が高い。 若いころ、それだけの理由で魚屋のアルバイトをし、店に慣れてくると社員に頼まれ築地市場へよく行った。 朝の6時頃に着くと、市場は人でごった返していた。 明け方の2時から3時に担当の社員が競り落とした商品のリストを貰い、彼らとバトンタッチする。 僕はそのリストを持って市場をぐるぐると回りながら集荷をし、店のトラックへ淡々と積み込んだ。 最初は右も左もわからないまま市場を彷徨い、市場内を走るターレーに轢かれそうになったり、よそ見するなと怒鳴られたりしながら、毎日

      • 二人の書店員

        一貫してモノを見られる機会に、出会ったことはあるだろうか。 いま机の上に置いてあるコーラも、原材料がどんな国でどんな人が作っているのかを、簡単に見ることはできない。 けれど、原材料を作っている人が、この机に置かれているコーラを見ることも、おそらくできないだろう。 片側からしか見えない世界は、仕事として携わることで、一貫して見えることがある。 ___________________ 2022年、本が出た。 書き手と作り手が考えていることを共有し、一冊の本となっていく。

        • 南にある玩具店

          ホテルの周囲に何があるのかをつかむまで、暇があればハノイの街を歩いた。 市内には大小の湖がたくさんあるということを聞いていたが、歩いているとそこまで気にならなかった。 大都市のホーチミンに比べると街は落ち着いていて、全体的に灰色で覆われていることに気づく。 街に活気が無いのではなく、これがハノイの街の色ということで、僕なりに解決している。 ホテルから南に歩くと、個人で営むにはそこそこ大きなオモチャ屋があった。 どの国でも、オモチャ屋は立ち止まってしまう。 その国にいる子

          • 記憶の断片を繋げる

            ある時、「旅の感想」とか「旅の思い出」という言葉を目にしたとき、ちょっとした違和感を持っていることに気がついた。 20年近く、定期的に短い旅(という名の出張)を繰り返してきたのだけど、「記録」はあっても、その短い滞在においてそれぞれの「感想」というのは、あまり出てこない。 自分にとって感想という言葉のしっくりこなさは、幼少のころ、事あるごとに学校で書かされていた感想文のせいだと思ってる。 修学旅行はもとより、夏休みや冬休み、ちょっとした遠足に連れて行かれては学校から感想

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          • ある国の灯
            田所敦嗣/Atsushi Tadokoro

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            スラーエルセの若者

            人は、何かの影響を受けて生きている。 幼いころに憧れたヒーローやヒロインから始まって、大人になっても誰かの背中を追っている瞬間がある。 そんな光景を外から見ていると不思議と明るい気持ちになれるのは、なぜだろう。 _____________ デンマーク東部に位置するスラーエルセ(Slagelse)は、首都・コペンハーゲンから列車で1時間ほどにある小さな街である。 日本からフランクフルトを経由し、コペンハーゲン・カストラップ国際空港(Copenhagen Airport,

            小さな町の信念

            その日を境に ” 絶対的な平和 ” というフレーズが頭の中で浮かぶようになった。 世界は相変わらず誰かが人と人を争わせたり、遠ざけようとしていてるが、その反対側には絶対的な平和を維持しようと、その信念を曲げない人達がいる。 学生時代アメリカに住んでいた頃、テキサスの片田舎にフレックというおじさんがいた。 住んでいた家の2軒隣に夫婦だけで住んでいて、ツートンカラーの初代ダッジラム・ピックアップを大事に乗っていた。 フレックを短く紹介すると、365日あれば350日くら

            雨と人と国と

            どの国にも、雨が降る。 垂直やナナメに降るのも大体同じだし、どこか雨音も似ている。 けれど、そこにいる人々は、同じではない。 ________________ ホーチミンにあるホテルの少し高い位置から見下ろすと、呆れるほど上手に雨樋をベランダに引き回し、そこに置いてある鉢に行き渡るようになっている。 スコールがまるで生活の一部になっていて、数分前まで普段着で走っていた何十台ものバイクが、いつの間にか全員合羽を羽織っている。 合羽を忘れたのか、それとも最初から気にして

            春節と線香

            路上の段差に身体が揺さぶられ、目が開いた。 咄嗟に、今が日中なのか夕方なのか、自分がどこにいるのかもわからないくらい、深い眠りについていた。 陽の眩しさに慣れないまま車窓を眺めると、どこまでも平坦な畑が連続する風景が、線の様になって流れている。 _________________________________ 中国での生産は、ピークを迎えていた。 世界中からありとあらゆる物資がこの国に集められ、加工され、組み立てられては、次々と輸出されていく。 そんな大きな世界の中

            廃れさせること、廃れさせぬこと

            人と接することを禁じられた2年は、人々のなにかを奪った。 同時に人は別のなにかを作り、考えた。 ようやく元の世界を懐かしめるように感じた春、僕は小さな予定を入れた。 久しぶりに出る旅は、どんな景色が見えるだろう。 _____________ 長崎県東彼杵(ひがしそのぎ)郡に位置する波佐見町は、県のほぼ中央に位置する。 人口約1.5万人が住み、長崎では海に面していない唯一の町である。 恥ずかしいことに、僕は波佐見町の重要産業である『波佐見焼』という焼き物の存在を知ら

            石島の娘

            いつまでも続いて欲しいと願っても、変わっていくことは決められない。 そんな時、人は大きなうねりの中で生かされていると気づく。 変化することは決められなくても、自分自身が変わらないことを続けていくことが、仕事なのかもしれない。 _____________ 中華人民共和国・威海市(ウェイハイ)は、山東省の東端に位置する漁師町である。 ビールで有名な青島市もこの近くで、威海は大昔にイギリスが租借地としており、青島市には多くのドイツ人がいた。 その頃に残された文化により、青島

            デルタ航空 296便

            旅とは、判断の連続でもある。 空港に着いたその時から、何に乗って街まで向かうのか、今夜や明日の食べ物、このまま旅を進めるのか、それとも引き返すのか。 旅先で選択したその責任は、全て自分に返ってくる。 楽しい決断が続けばよいと願っていても、いつもそうはいかない。 時に、困難に直面する人を目にしたら、助けられる強さを持てるだろうか。 ________________ ホルヘ(Jorge)は、チリ・サンチアゴ(SanTiago)から日本へは数か月に一度のペースで訪問する、

            テイクアウト

            何年ぶりなのかわからないけど、疫病に対し世界的に規制が緩和されてきた。 考えるだけでもうんざりするけど、次なる脅威があるのかもしれないし、そうでないかもしれない。 もう何度目の”そうでないかもしれない”なのかは覚えていないが、少しずつ、人々が自由に旅が出来ることを祈りたい。 __________ ベトナム・ハノイ(Hanoi)は、人口900万人近いベトナムの首都で、1600㎞以上ある細長い国土の、北部に位置する。 ハノイから東へ100㎞ほどには、古くから交易の場とし

            海を見たことのない老婆

            伝え受けつぐとは、どういうことだろう。 何百年も前からある音楽や踊り、土地土地にあるしきたりも、オリジナルを受け継いでこなければ、違うものになっていたかもしれない。 伝承は、継承する人々が途中で形を崩さずに、どれだけ正確に後世に伝え続けられるかという部分に、美しさがある。 _______________ 親父と、高校卒業の頃によく釣行の旅をした。 中学の頃は一時的な反抗期もあったりもしたが、釣りの話題になれば盛り上がった。 高校まで部活動に割かれていた時間が無くなり

            血より濃いもの

            国ごとに、人と人との距離に違いを感じることがある。 近いから悪い、遠いから良いという単純な話ではなく、そこには文化や歴史が隠れている。 海外で感じる違和感は、自身が外国人であることを実感できるし、なじみ深ければ自然と親近感が湧く。 旅は、ストレッチに似ている。 放っておけばすぐにでも固まろうとする価値観を、緩やかに解きほぐしていく。 ______________ チリ南部にあるチロエ島は、四国のほぼ半分の面積で、島全体では約15万人が住む、自然が美しい島だ。 そのチロ

            2つの鋼

            ある年の12月31日が終わる頃。 4℃と表示された薄暗い冷蔵庫の中で、魚から出るワタ(内臓)と大量の血と頭にまみれ、手鉤を持って50キロ近くなる最後のプラスチック製の樽を動かしていた。 __________ 高校も卒業間際、後輩の紹介により、魚屋でアルバイトを始めた。 ただ時給が高いという、シンプルな理由で。 魚屋といっても、バイトがやることは店頭の対面売りと、職人が次々に魚を卸した際、樽に溜った魚のワタを、ひらすらゴミ捨て場へ運び続ける。 野球で鍛えた身体でも、慣

            グダニスクの雨

            旅とは、見知らぬモノが視界の中で連続的に交差するのを、ただ眺めていく時間が多い。 数多ある出会いと別れを繰り返し、さっき通り過ぎた街の名前も、次の街に着く頃には忘れていく。 ただ、そこで立ち止まり見た景色や話した人との記憶は、不思議と残り続ける。 ________________ ポーランド・グダニスク(Gdansk)は、バルト海南部に面するポモージェ(ポメラニア)地方東部に位置し、グダニスク湾を擁する、ポーランド最大の港街である。 日本に住んでいると想像がつかない