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その場所へ行く

出張という旅は、会うべき人や行くべき場所がほぼ決まっている。
アテのない旅に憧れはあれど、アテもない出張というのは聞いたことがない。
以前、ゲートで飛行機を待っているとき、行き先不明のフライトがあったら流行るかもしれないと思ったが、今も見たことが無いので、残念ながらそんなに流行ってはいないのだろう。

出張は目的も最初から決まっていて、自由奔放な旅はおそらく存在しない。

とはいえ、今は仕事でも誰かと会う前にはSNSやメール、電話など、コミュニケーションとしてありとあらゆる”会わなくても済む”ツールを使える。

そのツールのおかげで、互いが遠い場所にいても、以前よりずっと同じ景色を共有できるようになった。
効率的な世の中で最後に現地へと向かうのだけど、会って話していると、徐々に食い違っていることがポツポツと見つかり出す。

今、もっとも会うことに近いツールであろうクラウドを使ったWeb会議を使っても、会って話すと同じ様に違う景色や食い違いが起きたりする。

翻って、”ツールや画面越しではわからないモノ”について考えてみると、その人の温度と国の香り、その場所の空気くらいしか残されていない。

湿っている。
乾いている。
暑い、寒い。
いい香りか、そうでは無いか。

幾度経験してもその正体を説明できないが、香りによって拾える相手の表情や、その国や場所の空気によって生まれる会話というのが存在する。
そしてそれは、距離に比例はしない。

互いが仕事をすることにおいて、持っている景色を確認し合う大切さは何年経過しても変わらないが、今後どんなにコミュニケーションの方法が進化したとしても、その場所にある香りや空気と温度が残されている限り、会って話すことを超えることは無いのだと信じている。

きっと人はいつまでも不便な旅を愛し、嫌いになることはないのだろう。

いま居酒屋の前の席に座っている異国のビジネスマンを見ながら、そんなことを考えていた。

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