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もっと底がある。底があったろ。死ぬよりマシやんか

どれだけ元気に過ごしていたとしても、急に落ち込むことがある。

天気雨が降ってきたなと思って上を見上げていると、いつのまにか心は雲に覆い尽くされている。

突然訪れた不安さんは「やってる?」とばかりに僕の心に土足で入り込む。

やってねぇよバカどっか行けよ。

そう抵抗したはずの心の声はか細く途切れ、不安さんの御一行がわいわいと押し寄せる。

今日は休みにしようと思っていたのに。

まいったな。


しばらく不安の相手をしていると段々と疲れてくる。

パワハラのひどい不安さんは「おい!こっちにもお酌してくれよ!」と雑に呼びつけ、酒を注いでいる途中にお尻を撫でまわしてきた。

抵抗する気力も湧かない。
コンパニオンは忙しいのだ。(なんで女?)

不安さんに支配されているとき、現実世界の僕もまたずいぶんと女々しく、そして鬱陶しい。






「どーせ僕なんて、義理も人情もない男なんだ。」

「どうして?」


「今まで、ほとんど全ての仕事を半年もせずにバックレてきた。こんな男、もう人間社会で生きられないじゃないか。」


「でも、そういう人は結構な割合でいるじゃない。」


「僕はそういう人達を薄情な奴だって軽蔑するね。だから僕は自分のことも軽蔑してるんだ。」


「でも、あなたはずっと良い人の仮面をつけて演じてきて、そのまま仮面を外すことができなくて「やめます」という言葉さえ言えなくなるほど、頑張ったんじゃないの?」


「何も頑張ってなんかいない。僕が勝手にいい顔をして、勝手に自分でしんどくなっただけなんだよ。
責任は僕にあるんだ。

そして、働けなくなるほど辛くなったら「もう限界です。疲れました。辞めます。」と言って、めんどくさい退社の手続きを踏んで「あの人、辞めるんだってよ」という目線に1か月耐えきるまでが責任のセットだ。

それは、元気なフリをして嘘をつき続けてきた僕にとって一番痛みを伴うラスボスで、僕はいつもそのラスボスを目の前にすると逃げてしまうんだ。

なぜなら痛い思いをしたくないから。
そんな情けないことってある?」


「でも、その痛みに耐えられないほど、それまで痛みを抱えて頑張ってきたってことなんじゃないの?それは、頑張ってきたって言えないの?」


「いや、しかしその一言すら言えないようでは・・」




こんな堂々巡りの会話をしてしまうほどに、僕は陰鬱としてしまう。

しかし僕も僕だが、友人も友人で頑固である。

僕は幸せ者だ。

しかし一度落ち込みモードになった僕を止めることはできない。

ウゼェなこいつ。可哀想に。

友人はスタミナが無限にある為、あの手この手で僕を論破してこようとするが、僕は僕で否定することを何十年も積み重ねてきている。


この「あなたの感想ですよね?」合戦で僕は負けられない。


僕は、自分を否定する材料を並べるだけ並べ、最後は自分の信条「だって僕はダメなのだから」を貫き通す。




しかし、最終的に杭を打ったのは友人だった。



「じゃあ、今までの仕事を続けていたほうが良かった?」


「じゃあ」といいつつ脈絡はなく、あまりにも死角からの質問だったもので一瞬フリーズしてしまった。


…え…?

今までの仕事を・・続けていたら・・?



「いや、それはないわ」


僕は即答した。

うん、それだけはない。

あの頃のコンパニオンは次々と親分に酒をぶっかけていた。

人力車の俥夫をバックレる直前、仕事帰りに「どーにでもなぁれ~」と呟きながら、東山通りの信号を無視して自転車で爆走してたな。


疲れって、本当に人を狂わす。
その次の日だったか、僕は鴨川にスマホをぶん投げたのだ。



何かを感じるスペースがない。
考えるスペースがない。

ゴミ屋敷にモネを飾ったところで、ゴミが増えるだけだ。

一緒に掃除してくれる友達もいない。

仕事を続けていても、部屋が片付く未来は見えなかった。

実際部屋は心を表していてぐちゃぐちゃだったし、飯はコンビニでしか買っていなくて、毎日人を乗せて10キロ近く走っているのに栄養も摂れていなかった。

僕の中の精神と体力の底だったと思う。
それを、いつも忘れてしまう。




そう思えば今は逆だ。

ずっと部屋は綺麗だし、栄養も摂っていて、心の健康を維持できる人間関係を持てている。

働いていないことが底だと思っていたけれど、そんなことはない。そんなわけがない。


他人の視点って、なんでこんなに思いつきそうで思いつかないんだろう。
肯定を前提としている質問ばかりだからなのか、思考の種類がフレンチと和食くらい違う。

僕が思い浮かぶものは「あなたがダメな理由はどこか?」というものばかりだから、そりゃ否定的にもなるか。


バックれたことの解決にはなっていないから、不安さんの御一行は全員ではないけど、およそ半数くらいは「またくるよ~」と言って帰って行った。


そりゃあ、そのまま耐えてトラックに跳ねられるよりかは、ずいぶんとマシだもんな。

底はあるよ。

もっと底があるよ。

そこにあるよ。

だからこそこそせず、そこそこにやろうよ。





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