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自分に期待することが死ぬほど怖い

あれは、痛みだった。

階段の一番高いところから落ちたような、衝撃があった。

あの痛みが忘れられない。

あの痛みが、怖い。






facebookは、僕の人間関係の全てだった。

中学のときに、僕は仲の良かった友達にイジメられて引きこもった。

暇をつぶす為に覚えたマジックをブログに載せたら、同じくマジックが好きな中高生達と仲良くなった。
そこが地元以外の最初の繋がりだ。

それから間もなくしてmixiが流行り、僕らも移行した。
マジシャンの友達が比べ物にならない程増える。
不登校を隠しながら、夏休みに東京と大阪に遊びに行って、オフラインでも仲良くなった。

中学卒業と同時に上京してから、偉い人の弟子になったことで僕の知名度も上がり、マジシャン仲間はさらに増える。
そのあとFacebookが流行ると、皆そちらに移ってmixiをやる人はいなくなった。



それから間もなく、僕はマジック業界を離れ役者の道に進んだ。

マジックみたいなダサい芸能とはおさらばだ。

僕は稽古をしている姿をアップする。
「あいつは次のステージに行った」と思ってもらいたかったからだ。役者で共演した仲間が、一気に増える。


それから間もなく、僕は演劇を辞め和太鼓奏者を志した。

役者なんて肌に合わないことなんてやってられない。

どんどん自分がアップグレードしていく感覚があったが、ここが終点だ。これが僕の生きる道だと腹が決まった。

鼓童の試験で出会った仲間と繋がり、全国規模の太鼓教室に入って積極的に交流するようになって、今まで以上にともだちが増える。




「人と違うことで有名になりたい」
の根源は
「イジメたアイツらを正式に見下したい」
からだ。

自分がやりたいと決めたセンスの良い道で飯を食う。
人として格上だと思いたかった。

堂々としたかった。




だから別に、太鼓に熱があったワケではない。
しばらくしたらその熱が冷え、童貞も卒業し、遊びも覚え、僕はいつの間にか20歳を超えてお金にシビアになるただの人になっていた。

そんな頃、それまで一切関わりが無かった地元の同級生からFacebookで「成人式に来ないか?」と連絡があった。




悩みに悩んだ末に僕は僕をイジメた奴の面を見に地元に戻った。
髪を金髪に染めて目立っていた僕は「あの不登校だったアイツが!?」みたいな感じで物凄くチヤホヤされ、僕は機嫌よく東京に戻る。

もちろん、facebookでほぼ全ての同級生と繋がって、また一気にともだちが増えた。




同級生と繋がったからには、もう恰好悪いところを見せられない。

太鼓なんて金にならないことをやっている場合ではない。

キラキラしていて、お金も稼げて、もっとチヤホヤされるものは何か。

僕は人力車をやろうと思った。
意気揚々と、今まで関わってきた全ての人に宣言をした。

「東京で関わってきた全ての人、地元の友達、お世話になりました。僕は京都に引っ越して人力車で稼ぎます」

地元の友達には行動が早くてカッコイイと言われ、和太鼓の仲間にも祝福された。


お世話になった関東の教室を一つ一つ回り、挨拶をした。

ケンカ別れをしてしまったマジック業界にも5年ぶりに足を運び、師匠方に頭を下げてこれからこういう道に進みます、と報告をした。

演劇をしたいた時に片思いをしていた女優とも最後にご飯に行き、近況を報告した。ワンチャンを狙ったがそれは叶わず終電で帰られた。




人生の、次の章へ進んだつもりだった。

階段を1段上ったつもりだった。

僕は誰も知り合いがいない京都で職場に馴染めず、半年で鬱になって東京に戻った。





こんな情けない、こんな恥ずかしいことがあるか。

普通の人とは違う道で、
普通の人よりも輝いて、
誰よりも普通の人を見下すつもりが、

誰よりも稼げず、
誰よりも人と関わるのが下手で、
誰よりも劣っているなんて。

誰にも言えない。
誰にも言えなかった。


僕は、夢を持っていなければ僕の人生を肯定できない。

サラリーマンなんて、「普通の人」がやることだ。


僕は、普通じゃない環境にいたのだ。
中学生の時に味わった悲しみや悔しさは「普通の道」で生きることで発散できるはずがない。

僕はそう信じていた。

「あいつらを見返したい」と思っているのに、何も成せなかった。

じゃあ、引きこもったことには何も意味がなかったことになる。

僕は引きこもった「おかげで」成功したかった。
引きこもった「せいで」僕は人より劣ってしまったことを、認めざるを得なくなった。


なぜあの時、高らかに宣言したのだろう。

あんなに自分を持ち上げなければ、
こんな高さから落ちることはなかった。


あんなに、疑いもなく自分に期待しなければ。
自分に期待しすぎたから、痛い目を見た。

今まで関わった人に顔向けが出来なくなるほどの大恥と共に。




僕は、どうせ何も出来ないよ。
ダメで元々だよ。




でも彼らへの復讐はまだ終わっていない。
有名になれなくても、経済的に、地位的に殺せればいい。

経営者になればいいのだ。

そう思ってそれから5年、経営を見据えた実務をこなした。



結局全て、人間関係が無理だった。



もう、いい。
もう、ふつーに仕事して、ふつーのお金を稼げれば、好きな人と結婚して家庭を持てたらそれで幸せじゃないか。

そう諦めて、初めて誰でもやれるような仕事に就き、初めて正社員を目指した。



それすらも、研修期間にバックれた。



僕は、もう、無理だ。
僕は復讐をすることも出来なければ、
普通に生きることもできない。

せめて、自殺しないように、人を殺さないように生きよう。

それだけでえらいのだから。

それだけで。








だから今体力が戻って、自分に期待しかけているこの状況に物凄く不安を覚える。

あの高さから落ちるのが怖い。
期待しなければ、落ちてもケガは浅い。

怖い。
前に進む勇気が出ない。

でも、このままでは、終わりたくない。


どこかで踏ん張らなければ。
どこかで痛みを受け容れなければ。

ずっと呪われたままだ。



踏ん張りどころは、今だ。

だから僕は頑張ります。
まずは、書き続けることを頑張ります。

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