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異語り〜コトガタリ〜

100
【現代怪談】 日常に紛れ込んだ微かな異の物語を綴っていきます。(毎週木曜日更新)
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#怪談

異語り 100 囁き

異語り 100 囁き

コトガタリ 100 ササヤキ

その子の左頬には少し大きめの痣があった。
赤みがかった薄茶色で、いびつなパックマンのような形をしていた。
頬の奥の方なのでそれほど目立つ場所ではないが、その子本人が痣を全く気にしていないからチラチラとよく目についた。

仲の良い子らに痣のことを話しているのを聞いたことがある。
火傷や怪我の跡ではなく、生まれつきだと言っていた。

とても活発な子で、男子と一緒に虫取り

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異語り 099 通り雨

異語り 099 通り雨

コトガタリ 099 トオリアメ

「ただいま、遊びに行ってくるー」
元気に帰ってきたと思ったら、またすぐ飛び出していってしまう。
まぁ小学生男子なんてこんなもんかと苦笑いで迎えて送り出す。
そんな毎日。

でもその日は再び玄関に向かった息子が声を上げた。
「うわっ、霧だ」
声に出すほどの霧とはどんなもんだと思いひょいと覗くと、押し開かれた扉の向こうが確かに白く霞んでいた。

「帰ってくる時は出てな

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異語り 098 鏡嫌い

異語り 098 鏡嫌い

コトガタリ 098 カガミギライ

その人はとても綺麗な人でした。
メイクは一切しない人で、どこに行く時でもいつもスッピンでした。
髪も自分でカットするので毛先がガタガタ。
服は通販で買うから時々「失敗しちゃった」と言ってほとんど新品のような服を人にあげたりしていました。

部屋に遊びに行ったこともあります。
テレビやレンジがなく、お風呂もシャワーのみのとてもシンプルなお部屋でした。
「別にミニマ

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異語り 097 のびあがり

異語り 097 のびあがり

コトガタリ 097 ノビアガリ

子供ができる前はよく劇場や映画館に足を運んでいた。
小さな劇場にもよく行ったけど、時々は奮発して大きなホールでの公演を見に行くこともあった。
小劇場と違い指定席というのがちょっと気分が上がる。

その時の席は前寄りのほぼ真ん中の席。
今回はついてる! と気分良く開演を待っていた。

舞台の内容はもうよく覚えてはいない。でもそれなりに集中して見入っていたと思う。

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異語り 096 禁足地

異語り 096 禁足地

コトガタリ 096 キンソクチ

20年ほど前、北海道の阿寒湖畔の土産物屋でアルバイトをしていた。
温泉もあり、ホテルも多い観光地なので日中よりは夕方から夜が来客のピークになる。
たまの休みに自然豊かな公園内(阿寒湖周辺は国立公園)を散策する時はとても静かで過ごしやすかった。

自然散策のツアーやトレッキングコースもあったけれど、時間やコースをずらせば簡単に大自然を貸切にできてしまう。
ビジターセ

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異語り 095 すねこすり

異語り 095 すねこすり

コトガタリ 095 スネコスリ

私の父はカメラが趣味で、どこかに行く時はよく一眼レフと8ミリカメラを持ち歩いていた。
どちらも一般向けの大衆品ではあったが、その趣味のおかげで子供時代の記録は山のように出来上がっていた。

時代はデジタル化され、カメラもビデオもフィルムから記録媒体へと変わった。
長年愛用していた映写機も、とうとう修理がきかなくなってしまった。
でも世の中は便利になっていた。
フィ

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異語り 094 跡取り

異語り 094 跡取り

コトガタリ 094 アトトリ

僕が生まれた時に祖母は大喜びしたそうだ。
女の子が2人続いた後の男の子だったので「待望の跡取りができた」ということだったらしい。
うちは僕が生まれた時から転勤族のサラリーマン家庭だったから、実際に跡を継ぐような家や職務がある訳ではない。

祖母が嫁いだ頃は家で商いをしていたそうだが、それも曾祖父が亡くなった時に祖父が廃業してしまった。
僕の父は1度も家業に携わる事な

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異語り 093 入れ替わり?

異語り 093 入れ替わり?

コトガタリ 093 イレカワリ?

そろそろ風呂の支度をしようと思い、寝転がっていた座椅子から立ち上がった。
数歩ほど歩いた所で、ユラリと世界が歪む。
あー、立ちくらみか

更年期の症状の一つである「めまい」だと認識しているし、ここ最近はしょっちゅうクラリと来るのでもう慣れたもんだ。
大概は完全に意識を持っていかれる訳ではないので、ゆらゆらと歪む景色の中、両手を壁につけながら風呂場を目指した。

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異語り 092 濃霧

異語り 092 濃霧

コトガタリ 092 ノウム

その日は朝から天気が悪く、小雨が降ったりやんだりする落ち着かない日だった。
だからといって仕事が休みになるはずもなく、ボロいワゴン車に仕事道具を詰め込み会社を出発した。
遠方での作業予定のため1人だけ早朝出勤だ。
見送りなどもない。
その代わりに、いつもであれば数件こなさなければならない仕事も、今日は1件だけで済む。
少々長いドライブは必要になるが、車の運転は好きなの

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異語り 091 主のいる部屋

異語り 091 主のいる部屋

コトガタリ 091 ヌシノイルヘヤ

「幽霊とかは見たことないんだけど、小さい頃からカンだけは良かったの」
久しぶりに会った叔母は、手土産代わりだと言って不思議な話を聞かせてくれた。

家はばあちゃんがいろいろ厳しい人だったから、朝の「おはよう」の挨拶から始まって夜の「おやすみなさい」まで、それはそれはうるさく躾けられたの。
でもそのおかげでお友達の親からは「礼儀正しいいい子だ」ってよく褒められて

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異語り 090 巣箱

異語り 090 巣箱

コトガタリ 090 スバコ

庭の雪がすっかり融けた頃、両親が大荷物を抱えて遊びに来た。
久しぶりの母とのおしゃべりをしているうちに、気が付くと父と息子の声が庭から聞こえてくる。
いつの間に庭に出たのだろう
窓に近づくと、楽しそうな様子で何やらやっている。
そっと眺めていると、木に何かを巻きつけているようだった。

その木はこの家に引っ越してきてすぐの頃、父が「記念植樹だ」と言って植えたリンゴの木

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異語り 089 不在票

異語り 089 不在票

コトガタリ 089 フザイヒョウ

帰宅すると、家の前に不在票が落ちていた。
雨に濡れたのか少しヨレていて、土汚れも付いている。
「ちゃんとポストに入れといてよ」
不快と感じつつも放っておくという選択肢はなく、指先で摘み上げそっと開いてみた。

『お届け先 平山愛子』

えっ? 誰?

自分ではない名前に首を傾げ、もう一度しっかりと記入された文字を読む。
『お届け先 平山愛子 依頼人 Amazon

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異語り 088 大首もしくは舞首

異語り 088 大首もしくは舞首

コトガタリ 088 オオクビモシクハマイクビ

私が中学生の頃に大叔母から聞いた話なので、たぶん時代的には昭和三十年代後半の話ということになる。
日本は高度経済成長期のまっただ中で、どんどん豊かになると共に、どんどん忙しくなっていった時代。

「せっかく綺麗な団地に引っ越したと思ったらまた田舎へ引っ越しすることになってしまったの。
四人兄妹それぞれに自分の部屋をくれると言うから喜んでOKしたけれど

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異語り 087 警報音

異語り 087 警報音

コトガタリ 087 ケイホウオン

昔働いていたレンタルショップでは午後の4時から5時の間に警報器が鳴る。
毎日ではないが、週に5日ほど鳴るので誰も気にしなくなったらしい。

私も初めの頃は本当の万引きかとビクついてもいたけれど、回数をこなすうちに時報のように慣れてきてしまいました。
ちょうど時間的には夕方からのバイトの出勤時間でもあり、店内の従業員数が増えてくるタイミングなので、不気味さも怖さも

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