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異語り 099 通り雨

コトガタリ 099 トオリアメ

「ただいま、遊びに行ってくるー」
元気に帰ってきたと思ったら、またすぐ飛び出していってしまう。
まぁ小学生男子なんてこんなもんかと苦笑いで迎えて送り出す。
そんな毎日。

でもその日は再び玄関に向かった息子が声を上げた。
「うわっ、霧だ」
声に出すほどの霧とはどんなもんだと思いひょいと覗くと、押し開かれた扉の向こうが確かに白く霞んでいた。

「帰ってくる時は出てなかったの?」
「うん、晴れてたよ」
最高気温30度の予報が出ているのに、扉からはヒヤリとした風が吹き込んできた。
そのまま外が見る見る暗くなっていく。

「うわあ、これは下手したらヒョウとか竜巻もあり得るかもよ、ちょっと様子を見てからにしたら?」
「えー、だって約束したのに」
「雨降ってきたら遊べないでしょ」

渋る息子を引き止め、しばらく一緒に外を眺めていた。
どこからか遠雷が聞こえる。
空にも黒い雲が広がり、霧のせいで視界は30メートルほどしかない。


そんな中、すぐ向かいの公園からは気にせずに遊んでいるらしい子供の声が響いてきた。
バタバタと賑やかに走り回る足音も聞こえる。

けれど、霧に霞んでいる公園内にその姿は確認はできなかった。


「おやつでも食べて待ってたら?」
「……うん、そうする」

さすがにこの天気では少しテンションも落ち着いたようで、素直にリビングへと歩いていった。
全開にしていた窓からも冷たい風が入ってくる。
外からは相変わらずバタバタと駆け回る足音とはしゃぐ声が聞こえいた。
少し窓を閉め振り返ると、室内は電灯つけようかと思うほど薄暗かった。

リビングに戻って息子と一緒におやつを食べた。
その間たぶん5分か10分ほど

「やったー晴れた、行ってきまーす」

あれほど暗かった空は嘘のように青空がのぞいている。
広がっていた黒い雲も霧もどこにも見当たらなくなっていた。

上の方は風が強いのかな?
「気をつけてねー」
送り出したついでにご近所を見回してみる。
すっかり明るく、風もちょっと生暖かい。

ただ先程まで聞こえていた子供たちの遊ぶ声は聞こえてこない。
かなり賑やかだと思ったのだけど……。

その日の夕食時、
やはり話題はあの急変した天気のことになる。
娘は学校で、夫は職場でそれぞれ体験していたらしい。

位置的には我が家を中心にして海側に1.5キロほどのところに夫の職場
反対側へ1.5キロほどのところに娘の学校がある。

娘「すごかったよね、急に暗くなって雷なってた」
夫「あれがゲリラ豪雨かな、すごい雨音だったよ」
「「「え?」」」
「ん?」
娘「雨なんか降らなかったよ。雷だけ」
息子「霧は出てたけど、ここも降らなかったよ」
夫「そうなのか? でも倉庫の屋根の上を誰かが走ってんのかってくらいバンバン響く凄い雨音だったぞ。工場の子達もキャーキャー騒いでたし」

ただの局地的な通り雨? 1.5キロの間に雨の境目があったのだろうか?


夫「あーでも帰る頃には道路も乾いてたなぁ」



本当に雨は降ったのだろうか?


夫のいる倉庫は冷凍倉庫だから、そもそも外の音は聞こえにくくなっている。
そんな所まで、別の建物の工場の人の声が聞こえてくるのか?


霧の中、公園で遊んでいた子供たちはいつの間にか移動したのか?


そういえば、世界が明るさを取り戻した時
あんなに賑やかだったのにとても静かだった気がする。

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