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出産を終えた夜のこと


あんなに大きかったおなかが、ぺったんこになってしまった。


わたしはいま出産という一仕事を終えて、病院のベッドでこれを書いている。

なんだかふわふわして落ち着かない。天井だけが現実味があって、あとはぜんぶ作りものみたい。
産んだ後もおなかが痛い。生理痛みたいな鈍痛が下腹部にあって、左の太ももがこそばゆい痛み。ねむりたいのに、頭が冴えてねむれない。


さっき、10ヶ月おなかにいた息子に出会えた。
はじめまして、と言うのも、変な感じ。あなた、こんな顔してたのね。

今回は2回目の出産だったから、不安は少なかった。無痛分娩なので、痛みも少ない。それでも、いきむ時間は永遠に感じた。はやく出てきてくれ、と思いながら、何度もお腹に力を入れた。

一方でまだ出ていってほしくない気持ちもした。あんなに嫌だった、おなかの大きい自分の身体。あなたがずっとここにいた。もうすぐ離れていってしまう。



産まれた瞬間の気持ち。

長女のときは、堰を切ったように号泣した。なんだか安心したのと、ああ、とうとうわたしはお母さんになってしまった、という気持ち。産まれた瞬間は、まだ可愛いと感じなかった。夫がどんな顔をしているか、そればかりが気になった。

でも体重計測台に乗せられたときに、不安そうに両手を空へ伸ばして泣いている彼女を見て、ああわたしは、何があってもこの子を守っていくんだ、と思った。


さっき産まれた長男は、さみしい気持ちが強かった。おなかの中がからっぽになってしまう。ずっといっしょだったあなたと離れ離れになる。急にひとりぼっちになってしまう孤独感をおぼえた。

でも産まれたあなたを抱き上げた瞬間、ああ、やっと会えた、と思った。
へその緒が切られた瞬間、わたしとあなたが別々の人間になった。わたしの大切なひとが、またひとり増えた。


その後のことは、ぼやぼや。なぜか高熱が出て、とにかく寒くて身体の震えが止まらなかった。目を閉じていたから、夫や助産師さんの声だけが聞こえた。意識がなくなるのがとてもこわくて、夫にずっと話しかけていた。

ふと、曖昧な意識の中で鼻水をすする音がした。目を開けたら、正体は夫だった。小学生以来泣いていないと言っていた夫。気づかないフリをして目をつぶった。あのとき、どんな気持ちだったんだろう。

水を飲んだらむせてしまって、そこから急に意識がはっきりした。分娩室の天井にステンドグラスがあって、光が漏れていたから、朝かと思った。ぜんぜん違った。まだ深夜2:00。産まれてから1時間も経ってなかった。

そうして、きれいになった息子と、夫と、3人で写真を撮った。この小さな赤ちゃんが、息子であるという実感はまだない。それでも、この瞬間から家族がはじまった。



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モーリス・ドニ「海辺の女」


それから2週間後の息子とわたしのことを書きました。

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