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星月渉の本棚

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2024年5月の記事一覧

『I'm home!/真相』 第1話・突然の帰還

『I'm home!/真相』 第1話・突然の帰還

【本編】

「ただいま!」
 ドアを開けたまま凍り付いたようになっている恋子に、俺は言った。
「何もそんな幽霊見るような顔で見なくてもいいじゃないか。そりゃ、身体一つで部屋を出てから二年も経つけどさ」
「お…かえ・り」
 恋子が返して来た言葉は、まるで言葉を覚えたてのA Iのように強張った、ぎこちないものだった。
「うん。まさかこんなに時が経つまで、自分がこの部屋に帰れなくなるなんて、夢にも思わな

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黒衣の令嬢は薔薇の色を塗りかえる(1)

黒衣の令嬢は薔薇の色を塗りかえる(1)

王太子殿下は冷酷無情1-1

 王太子主催の夜会の夜。月明りに照らされた王城には国中の力ある貴族が集まっていた。

「いいえ、自殺ではありません」

 多くの者が集められながらも不自然に静まり返った城の大広間に、ヴィクトリアの凛とした声はとてもよく響いた。
 刺すような視線が一斉に、ヴィクトリア・リデルへと注がれる。

 レースとフリルがあしらわれた喪に服す黒いドレスに、結い上げた鮮やかな赤毛。黒

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捜査員青柳美香の黒歴史Ⅰ

捜査員青柳美香の黒歴史Ⅰ

あらすじ

伊勢神宮に参詣に行ったはずの妻と娘と義母が失踪した。三人は密かに憑神教という新興宗教に入信していた。夫の大石司は単身その本拠地に乗り込む決意をする。同じ頃、自宅に差出人不明の手紙が届く。中には読解不能の和歌が一首。思案していると、警察官青柳美香が現れ、同行を申し出る。二人は憑神教の本拠地和歌山を目指す。憑神教の教義とは。三人が憑神教に入信した理由は。憑神教二代目代表を名乗る山田昇とはい

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ノイズキャンセラー 第一章

ノイズキャンセラー 第一章

#創作大賞2024 #ミステリー小説部門

あらすじ 宮崎琢磨は、高校最後の夏休みに通り魔事件に巻き込まれ引きこもりになった。悶々とした日々を過ごす中、いつしか自分も大きな事件を起こしてやろうと思うようになっていた。
 佐藤亜沙美は勤め先の客からストーカー被害に遭い仕事を辞めた。隣県に移り住み、コールセンターの仕事を見つけ、働きながら立ち直ろうとしていた。
 新山和哉は銀行から保険会社に転職し、思

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小説|犬と金魚

小説|犬と金魚

 風が冷たくて、耳が痛くなる程だった。
 片方の耳を揉みながら店に入った。
 カウンターに着いてバーボンを頼む。
 注意していないとそれとは判らないくらいの微笑でバーテンダーは注文を受ける。
 会社勤めなら定年間近といった頃のおやじが一人でやっている小さな店だが、満席には滅多にならない。
 三人の客が帰っていった。
 おやじと私の二人きりになった。
 サービスのつもりか、珍しくおやじが話しかけてき

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「まがり角のウェンディ」第1話(全18話)

「まがり角のウェンディ」第1話(全18話)

Ⅰ ー 1 ノートの上に、一本のペンがある。
 手が伸びてきてペンを握る。開かれた白いページに影が落ちた。

 手が、文章を書き始める。ペン先と紙が擦れ、乾いた音を立てる。文字を綴る音のほかは時折りページをめくる音がするだけだ。
 手が、文章を書いている。音を立てながら文字が並んでいく。やがて手は止まり、乗り出していた上体が起こされたことで紙面の影は消えた。
「んんー」
 伸びをして背中の強張りを

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「あかりの燈るハロー」第一話

「あかりの燈るハロー」第一話

プロローグ ゴウン…ガロン…ギ…ギギ…ギ。
 ゴウン…ガロン…ギ…ギギ…ギィィ……。

 やがて、観覧車は完全にその動きをとめ、遊園地にともされたはなやかな電飾も消えると、あたりを静けさが包みこんでいく。

 耳をすませば、かすかに聞こえる波の音だけ。
 あたしは歌う。

 ♪ ハウマッチウッド・ウッドアチャック・イファウッドチャック・クッドチャックウッド?
 ♪ ハウマッチウッド・ウッドアチャッ

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スーサイド・ツアー(第1話 闇サイトへ、ようこそ)

スーサイド・ツアー(第1話 闇サイトへ、ようこそ)

 あらすじ
 自殺願望のある者達が、闇サイトを通じて南海の孤島に集まる事に。闇サイトの主催者は、孤島で参加者全員が美食を楽しんだ後1週間後に苦しまない方法での死を約束。
 にも関わらず、なぜかその前に1人ずつ殺されてゆく……。

『当サイトでは、30歳以下の自死志願者を募集しています。先着8名で打ち切りますので、お早めにご応募ください』

 スマホをいじっていた時に、そんな文章が倉橋翠(くらはし 

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緑玉で君を想い眠る①

緑玉で君を想い眠る①

 純白のウエディングドレスが、見る見るうちに真っ赤に染まっていく。
 溢れ出す鮮血は止まるところを知らず、傷口を押さえる手を擦り抜けていく。

「叶羽……!」

 彼の手が、私の頬に触れる。私はその手を握り返す。
 同じように彼の名前を呼びたいのに、唇が震えて言葉が出てこない。

 ようやく周囲のゲスト達も現実の状況に頭が追い付いたのか、ざわめきと悲鳴が入り混じり、場は混乱に満ちていく。
 西洋建

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毒の反哺 第1話 田嶋美月

毒の反哺 第1話 田嶋美月

 2018年6月2日㈯、親友の由奈が死んだ――。

 私は田嶋美月、高校3年生。親友の斎藤由奈とは、同じ高校に入学して以来の親友だった。

 とろくて、人と話すのが苦手で地味な私と、美人で活発で華のある由奈。対照的な二人が親友であることに、まわりはいつも不思議がった。私にとって、由奈は「憧れ」の存在だった。

 そんな由奈が廃墟ビルから転落死した。その日は土曜日で、雨が降っていた。死亡推定時刻は、

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藤壺の宮は〝物の怪のせい〟にしたくない 【第1話】

藤壺の宮は〝物の怪のせい〟にしたくない 【第1話】

    序
 ──死んだと思ったら、産まれていた。
 ちょっと何を言っているのか分からないかもしれないが、あいにくと脩子にだって分かってはいなかった。
 何せ、大学に向かう途上でトラックにはねられたと思ったら、羊水やら血にまみれて、産婆に抱き上げられていたのである。全くもって、意味が分からない。

「いや、何故に……?」

 そう声に出したはずの言葉は、残念ながら言葉の形をしていなかった。
 ただ

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骸骨探偵は死の理由を求む 第1話

骸骨探偵は死の理由を求む 第1話

目覚めると、私は広大な川岸にぽつんと一人で立っていた。

「ここ……どこ……?」

 慌てて周りを見る。
 足元はホームセンターで売られているような、異常に真っ白な砂利が敷き詰められており、足を動かすと微かに石が擦れ合う音がする。
 眼の前には、上流も下流も向こう岸までもが見えないほど恐ろしく大きい川。よく見なければ流れているのかさえ分からないくらいゆったりと流れている。
 正直言って見たことない

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トゴウ様 第1話『引退配信』

トゴウ様 第1話『引退配信』

あらすじ

本編

「リスナーのみんな、こんばんは。突然だけど、動画のタイトルにもあるように、今日で俺はMyTuberを引退しようと思う」

 リアルタイムでの生配信。

 休日とはいえ早朝であるにも関わらず、視聴者の集まりは悪くない。突然の引退というインパクトと、数時間前に告知をしていたのが良かったのだろう。

 開口一番の俺の引退表明に、コメント欄が困惑や憶測でざわついているのがわかる。

 

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最終死発電車 第1話『平凡な人生』

最終死発電車 第1話『平凡な人生』

あらすじ

本編

 僕の人生は、ごくごく平凡でありきたりなものだと思う。

 清瀬蒼真という名を持ち生まれて、二十一年目の冬。

 昔から、勉強も運動も平均的だった。いや、平均よりやや劣るくらいかもしれない。

 人より得意と呼べることはほとんどなくて、Fランクの大学で影の薄い学生生活を送っている。

 年齢だとか学歴だとか、少し上だからという理由だけで、立場以上に圧をかけてくる人間が嫌いだった

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