#創作大賞2024 応募のために作成したアカウントです。

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    #創作大賞2024 応募作

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ノイズキャンセラー 第十三章

あらすじと目次はこちら 第十三章  亜沙美は、フォローアップ期間が終わった後のことを随分心配はしていたが、実際、ひとり立ちをしてみると、とくに問題も起こらず一週間が終わった。釣りの仕掛けが届かなかった新山という客が細かな質問をしてくれたおかげで、曖昧だったことが明確になっていたのもある。新山は、声を荒げることはなかった。対応中は辛かったが、思い返せば、あれは『苦言』というものだ。  芹沢が隣にいてくれたことで、甘えがいくらかあったのかもしれない。これからは、ひとりでしっか

    • ノイズキャンセラー 十二章

      あらすじと目次はこちら 十二章  新山は、里村の家にいた。また、マリアのティールームに通された。里村が紅茶を用意するのを待つ間、前回より、かなり冷めた目でマリアをみつめていた。マリアは違う服を着せられている。ワイン色のビロードのワンピースで、白い肌が一層際立って見える。この服も里村の自作なのだろう。  牧野から『遠慮がち』と言われる新山でも、銀行に成果を渡す気はなかった。念のために、自社の変額保険のパンフレットと設計書も持って来てある。契約した保険の予定利率は変わらなかっ

      • ノイズキャンセラー 第十一章

        あらすじと目次はこちら 第十一章  芹沢とは業務以外の交流もなく、フォローアップ期間の最終日になった。  来週からは席も離れる。芹沢は次の期間はブラザーをせず、ヘルプラインに入るらしい。ヘルプラインは、全担当者が、わからないことを訊ねるチームだ。権限を超えるクーポンを発行する時にも連絡を入れる。 「ヘルプラインは人数が少ないから、僕につながるかもよ」  フォローアップ期間が終わるのは寂しかったが、同じ会社にいればまた顔を合わす機会はある。亜沙美は、独り立ちした後も続けられ

        • ノイズキャンセラー 第十章

          あらすじと目次はこちら 第十章  ベガはどうやら、佐藤亜沙美の部屋への侵入に成功したらしい。  箪笥の引き出しの中に並ぶ下着の写真があがった。パステルカラーのブラが五つほど映っている。画像を拡大して柄をチェックする。花の刺繡がしてある。佐藤亜沙美のイメージそのままの下着だ。つけているところを想像しやすいので、琢磨は満足した。  クローゼットにかけてある服の写真もある。前に、本人が着ていたベージュの上着と同じものがかかっている。佐藤亜沙美のもので間違いなさそうだ。  他人の

        ノイズキャンセラー 第十三章

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        • noise canceller
          12本

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          ノイズキャンセラー 第九章

           あらすじと目次はこちら 第九章  新山は、月曜日の定例ミーティングの後、牧野に時間をもらっていた。  牧野からの提案で、別階にある会議室で話をすることになった。数十人ほどの小規模なセミナーなら、この部屋で開いている。  里村は午前中に銀行に行くと言っていた。今日の適用レートは十時過ぎには決まる。今のところ、金曜のレートから数十銭しか動いていない。里村の契約で今月はいったん乗り切れる。新山は今、保障性の保険の見込みが乏しかった。しかし、来月も再来月も成果をあげていかなけれ

          ノイズキャンセラー 第九章

          ノイズキャンセラー 第八章

          あらすじと目次はこちら 第八章  エレベーターを降りたところで芹沢と別れた。休み時間は残り少ない。  休憩室に入ってすぐに琴美を見つけた。琴美は口を尖らせながら、「もう、休憩終わるでしょう? 帰りにお茶に付き合ってよ」と、言った。  亜沙美が「お茶ね、わかった」と返すと、満足げに笑った。機嫌を直してくれたようなので、亜沙美は私物をロッカーにしまいに行き、コール室に戻った。  午後、亜沙美は芹沢から、習熟度の確認を兼ねた講義を受けることになっていた。ミーティングルームにノー

          ノイズキャンセラー 第八章

          ノイズキャンセラー 第七章

          あらすじと目次はこちら 第七章  琢磨のSNSのアカウント名は『オーバーナイト』だ。榊原夜斗を超えるという意味をもたせている。  琢磨はSNSのダイレクトメッセージ機能をつかって佐藤亜沙美のストーカー『ベガ』に接触した。更新を楽しみにしていることを伝えた後、『あさみんって、佐藤亜沙美さんですよね』と、付け加えた。  メッセージに既読はついたが、その日は返信はなかった。その代わりに、ブログの記事がすべて非公開にされた。琢磨は焦った。刺激したことでベガがブログをやめてしまうと

          ノイズキャンセラー 第七章

          ノイズキャンセラー 第六章

          あらすじと目次はこちら 第六章  新山の勤めている外資系の保険会社では、『商談のロールプレイング』が頻繁に行われる。新山は、ロープレが好きではなかった。牧野から、毎日、一回はするように言われている。それも、できるだけ『オンカメ』でと。『オンカメ』とは、ビデオ撮影をしながらのロープレのことを指す。  今日新山は、先月デビューした新人の北見に、ニーズ喚起の話法をみせることになっていた。  別の班だったが、牧野から頼まれた。北見と同じ班のベテランの須藤までが来ていた。須藤は個性

          ノイズキャンセラー 第六章

          ノイズキャンセラー 第五章

          あらすじと目次はこちら 第五章  芹沢の指導のもと、亜沙美は一段階上のカテゴリーを案内するトレーニング期間に入った。  今までは注文前と発送前の問い合わせのみを受けていたが、追加で配送に関する問い合わせを受けるようになった。配送中にできることは少ない。  大手の宅配業者の荷物の追跡サイトを使って、現状を案内することがほとんどだった。  送り先の住所を間違えたという連絡は、対応してくれない業者が多いので、配送停止を依頼し、顧客へは正しい住所あての再注文を依頼する。  亜沙美

          ノイズキャンセラー 第五章

          ノイズキャンセラー 第四章

          あらすじと目次はこちら 第四章  琢磨は、雨戸をしめきり換気もほとんでしない部屋で生活していた。蛍光灯がちらつき始めた時から電気はつけていない。パソコンのディスプレイが唯一の光源だ。ディスプレイは二台置いてあるが、机の周辺がぼんやりと照らされる程度だ。琢磨のパソコンは、ネットサーフィンをして過ごすには過剰なスペックだった。二年ほど前に、琢磨は少し前向きになり、自宅で動画編集の仕事をしたいと言いだしたことがあった。高校を中退していても、引きこもりでも、インターネットの仕事な

          ノイズキャンセラー 第四章

          ノイズキャンセラー 第三章

          あらすじと目次はこちら  第三章  新山和哉は、待ち合わせをしていた。相手は里村という男だ。  銀行員をしていたころ訪問先で「銀行は時間ちょうどに来ますね。証券会社は早めに来て、保険会社は遅れてくる」と、言われたことがあった。保険会社に転職してからは、余計に早めを心掛けていた。待ち合わせの場合は、相手が十分前に来ることを想定してそれよりもはやくから待つ。  待ち合わせ場所に新山が到着してから、かれこれ三十分ほど経つ。すでに、約束の時間も過ぎていた。すっぽかされたかと思い始

          ノイズキャンセラー 第三章

          ノイズキャンセラー あらすじ&目次 

          あらすじ宮崎琢磨は、高校最後の夏休みに通り魔事件に巻き込まれ引きこもりになった。悶々とした日々を過ごす中、いつしか自分も大きな事件を起こしてやろうと思うようになっていた。  佐藤亜沙美は勤め先の客からストーカー被害に遭い仕事を辞めた。隣県に移り住み、コールセンターの仕事を見つけ、働きながら立ち直ろうとしていた。  新山和哉は銀行から保険会社に転職し、思うように成果を上げられずにいた。後悔しようが銀行に戻れるわけもなく、なんとか保険の営業で成功しようと、もがいていた。  それ

          ノイズキャンセラー あらすじ&目次 

          ノイズキャンセラー 第二章

          あらすじと目次はこちら 第二章  佐藤亜沙美は困惑していた。  ヘッドセットマイクをつけた耳元から、向井という客の鼻息が聞こえる。  問い合わせ内容はたいしたことではない。亜沙美は入社して二ヶ月目だが、すでに何度も対応したことがある。 〈いつもなら、もっと早く届くのに、なんで?〉と、向井が催促してくる。   呼気を多く含む声に、つい嫌悪感を抱いてしまう。  亜沙美の勤め先は、関西圏に本社のあるネット通販会社『AkindoF』のコールセンターだ。会社名は英語読みだが、世間で

          ノイズキャンセラー 第二章

          ノイズキャンセラー 第一章

          #創作大賞2024 #ミステリー小説部門 あらすじ 宮崎琢磨は、高校最後の夏休みに通り魔事件に巻き込まれ引きこもりになった。悶々とした日々を過ごす中、いつしか自分も大きな事件を起こしてやろうと思うようになっていた。  佐藤亜沙美は勤め先の客からストーカー被害に遭い仕事を辞めた。隣県に移り住み、コールセンターの仕事を見つけ、働きながら立ち直ろうとしていた。  新山和哉は銀行から保険会社に転職し、思うように成果を上げられずにいた。後悔しようが銀行に戻れるわけもなく、なんとか保険

          ノイズキャンセラー 第一章