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そして、もう一生分は聴いたCDを手放した
昨年父が亡くなり、実家に誰も住まなくなった。
残されたのは、おびただしい「いらないもの」である。
父の生前から、姉とわたしは実家に帰るたび、自分たちが残していたもの、6年前に亡くなった母の古着や押し入れの奥で萎びていた寝具などを、せっせと捨て続けていた。葬儀を終えて、何気なくかつてからっぽにした2階のタンスを開けて驚いた。父が着なくなった下着を詰め込んでいたのである。わざわざ2階に運ぶならゴミ袋
味方にしか届かんすぎる言語になってる。100000tアローントコ・加地くんとのおしゃべり
寺町御池上ル40歩。京都市役所の横にある、レコード・CD・古本・など屋ーーこれが、加地くんが自らの店を説明する短い言葉だが、「など」の部分に100000tアローントコを表すなにかがにじんでいる。この店に来ると、言語化しきらないところ、説明しつくさないところを残しておいてもいいよな、と思う。
加地くんとのつきあいは、もう数えるのもめんどくさいくらい長い。土曜日、ひさしぶりに店に行っておしゃべりした
「まちへの貢献って意外とかんたんかもしれない」熊野公共文庫(public library)の話
ある日、丸太町通から鴨川方面へと自転車をこいでいると、青いペンキで塗られた冷蔵ショーケースがぽつんと置いてあった。なかには、漫画や絵本が入っている。いつもの道に現れた非日常物体。立ち止まらずにいられない、声のようなものを発している。そのときは、親子連れがドアを開けて絵本を選んでいて、彼らが去った後、ようすを見守っていた女性がスマホを出して写真を撮っていた。彼女が歩き出すのを待って、わたしも近づいて
もっとみるポピュラー音楽を遡ると見えてきた“普遍的郷愁”の世界。遠藤卓也さん|グッド・アンセスター・ダイアローグ
『グッド・アンセスター わたしたちは「よき祖先」になれるか』ローマン・クルツナリック著/松本紹圭訳)を巡る対話「グッド・アンセスター・ダイアローグ」。第二回は、お寺の音楽会というジャンルを確立し、現在はお経や聖地の音など”お寺のフィールド・レコーディング”ともいうべき領域へと足を踏み入れている、”えんちゃん”こと遠藤卓也さんとおしゃべりしました。遠藤さんにとって「これがなければ今の自分はいない」と
もっとみる『京大的文化事典 自由とカオスの生態系』は「二度とつくれないタイプの本」だった。フィルムアート社・臼田桃子さんインタビュー
2020年6月に、『京大的文化事典 自由とカオスの生態系』(フィルムアート社)を出版して以来、たくさんのメディアに取り上げていただき、著者としてわたしもインタビューを受けてきました。
でも、ずっと「この本は、編集者の臼田さんと一緒につくってきたのに」という気持ちがありました。もしも臼田さんが声をかけてくれなかったら、わたしはこの本を書くことはなかったからです。
臼田桃子さんは京都大学の卒業生で
ちいさい声で、ちいさなかなしみを。
もう1ヶ月以上、背中でドアがバタンと閉まる音を聞きつづけている。
あの日でなければ出張取材はもうできなかったな、あの日だったから友だちに会えたんだ。気になって訪ねたお店で「明日から休業します」と言われることがつづく。「あ、また背中でドアがしまったな」と思う。バタン。昨日までのあたりまえが消え、「またこんどね!」という言葉が喉でつまる。
そのうち「この間に休業した小売店の数」は、グラフに表現され
「尾道ライターズ・イン・レジデンス」のこと。
「尾道日記」のシメは、「尾道ライターズ・イン・レジデンス2019」のこと。一緒に暮らした、ひとクセもふたクセも、無くてななクセもあったレジデンスの人たちのことを綴っておきたい。
「尾道ライターズインレジデンス」とは?
「尾道ライターズ・イン・レジデンス2019(以下、OWIR)」は、ひらたく言うと「真冬(オフシーズン)のゲストハウス「みはらし亭」の部屋をリーズナブルにお借りして滞在する、物書きの
旅先で、レコードショップに。
20歳のとき、初めてひとり旅をした。
バイト先で知り合った北海道の友達の家を訪ねて、そのまま電車で南下して京都まで帰ってくる数日間の旅。大学の先輩に時刻表の見方を教わって感動し、切符に印字された「途中下車無効」の文字が「途中下車有効」になる長距離切符の存在を知ってときめいた。
千歳、小樽、函館、青森から仙台、そこからは新幹線で横浜、鎌倉へ。
電車を降りて街を歩き始めると、いつも最初にレコードシ