短編小説『夢』36

「トベナイヤツ、マタモドル」
大男は不可解な一言を伝えた。
「どういう事?」
「トブ、オマエ」
大男は威圧するように言った。
「飛べばいいんだね?」
「トブ」
大男はそう言い残し、暗闇に進んだ。直哉が向かうべき方角とは逆の方へ、のしっ、のしっと大きな身体を左右に振りながら去っていった。

巨大な背中は5歩で暗闇に塗り潰され消え去り、その数秒後、足音も夜の闇に吸い込まれ、直哉の耳に届くものは何もない

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あなたの毎日を応援します(=^▽^)σ
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掌編小説「食事でも」

「スモークサーモン全部入れちゃって良い?半分ぐらい残しとく?」
「あー全部入れちゃっていい。ワイン飲みながら全部食べる」
裕介がスモークサーモンのパックに 切れ目を入れるのをよそに、テーブルセットをする。
北欧雑貨の店で買ったトナカイ柄のランチョンマットを敷いて、中央にはスモークサーモン入りのサラダボウルが置きやすいようスペースを作って。

窓を開けると風が吹き込んできた。
向かいの壁のカレンダー

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ありがとうございます!
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言語崩壊

「空からは足音が生殖を繰り返し、少量の激戦区を彷彿とさせるでしょう」

テレビの中ではアナウンサーがいつもの朝のニュースを読み上げるのと変わらない口調で、支離滅裂な言葉を話していた。

この人は何を言ってるんだ。

俺は口の中に入れていた、焼きたてのトーストを噛むのを忘れて、テレビの画面を呆然と見ていた。

ニュースはそのまま、何事もなかったかのように終わり、次のニュースに移り変わる。

「おはよ

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今日も素晴らしい1日を!
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日課掌編(6)妹が世界で一番かわいい

 妹が世界で一番かわいいから、世界中の人間をすべて妹にした。
 はじめは結構抵抗があった。80代のおじいちゃんもわたしの妹。どっかの知らん子どももわたしの妹。お店に来るかなりケチな常連客もわたしの妹。路上で酔っぱらって寝ているおじさんもわたしの妹。先生もわたしの妹。お母さんもわたしの妹。
 はじめて2日間は、やっぱ失敗だったかなと思った。

 それでも我慢していたら、そのうち、「妹」という概念の解

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ありがとうございます!!
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抱えすぎてはいませんか?

不思議なもので、
人にはそれぞれの器の大きさがあって、
そこに入るだけのものを入れようとする
生き物なのだそう。

大きな器を持っていれば
その分だけたくさんのものを抱えて
その器を満たそうとするものだし、

小さければ小さい分だけ、
その限られた容積の中を埋めようとするもの。

そうして気がつけば、
器から溢れるほどのものを抱えてしまい。

器そのものの重みに耐えきれなくなり、
自分の器を手放し

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ありがとうございます。素敵な一日になりますように。
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代がわり 24

「皆の者、よく聞くがいい。今、この王国は滅亡の危機を迎えている。赤い民が進軍を始めた。遅かれ早かれ彼らはここに到達するだろう。彼らの数は無尽。我らはその前に跡形もなく壊滅するだろう。」

どよめきが起こった。王の口からこれほど悲観的な言葉が出ようとは誰も思っていなかったからだ。皆すがるような眼差しで王を見つめている。

「逃げたい者は逃げよ。止めはせぬ。名誉を重んずる者は、ここに留まり我が誇りのた

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嬉しいです!
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短編小説 1: 終わりの始まり

 この反発する気持ちはもうずっと前からあったが、いつも抑え込まれていた。
 もう少しで完全モデルチェンジなのだから、その反発は空しいことなのだ、と先生の何人かははっきりとそう私に言ったし、亡くなった両親も愚痴という形でそんなことをしんみりと私に告げた。
 私たちが声を挙げることは、今となっては遅すぎる。そもそもそれが人間の運命なのだから、「食べるとなくなるから、三日三晩ことこと煮込んだ挙句に、すっ

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【超短編小説】『残響』

 春日和が心地良いある日、ある若い夫婦がいた。ひっそりとしたアパート、メゾン205号室で静かな毎日を過ごしていた。

 夫は「久しぶりに旅行に行こうよ」と言い出す。最後に2人で旅行に行ったのは新婚旅行以来だろうか。この先2人でゆっくりできるのはいつまでだろうと、窓の外を流れる桜の雨がそうさせたのである。

 妻は最初「お金の無駄遣いだよ…」と言って拒んだが、インターネットで旅行の計画をたてるうちに

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綺麗なお花を貴方に
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【小説】行けるところまで、東へ

今週の金曜日は最悪だった。
誰に頼まれたことも、どんな仕事も全く手につかない。
おまけに趣味の執筆すらも全く調子が上がらず、三行も書けないまま断念。

「仕事にならない」とはまさにこのことだと思った。

おまけに離れた街に暮らすきみは「今日飲み会、電話できない」とのこと。夜のはじまりと呼ぶような時間には、すっかりふてくされて眠っていた。

消し忘れたシーリングライトが僕の目をこじ開ける。
寝る前に

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見つけてくれてありがとうございます!
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SNS

「どこにも居場所がないような気がする」

SNSのTLに流れてきた呟き。
私はそれを見て少し止まって、どうでもいいことを呟いた。
何か言いたかったけど言葉が浮かばなかったのもあるし、声をかけるのは私ではないのだろうとも思った。
しばらく眺めていたけど結局その呟きには誰も応えなかった。
優しさなのだろうか。
それとも、みんな言葉が見つからなかったのだろうか。

その人は私より少し年上で、お子さんがい

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