ヱリ

3行の雑記と3行におさまらなかった小話、ときどきLINEの記録を投下しています。島とビ…

ヱリ

3行の雑記と3行におさまらなかった小話、ときどきLINEの記録を投下しています。島とビールとアートが好きです。へんなものを見つけると嬉しくなります。

マガジン

  • 大阪城は五センチ【創作大賞2024】

    創作大賞2024に応募する小説をまとめたマガジンです。 恋愛小説部門です。

  • 自己紹介みたいな

    創作以外の記事やつぶやきをまとめています。自己紹介がわりになる、かもしれないです。

  • ザッキ

    3行から5行の雑記。印象に残った一言や風景の覚え書きなど。

  • シロクマ文芸部

    お題の言葉を冒頭一語目にして作品をつくる、シロクマ文芸部への参加記事です。

  • ナガバナシ

    2000字以上の物語。複数回に分けて公開したものもここに入れてます。

最近の記事

  • 固定された記事

ミッドナイト・ランドリー【ピリカ文庫】

すすぎの音を立てるドラム式の洗濯乾燥機の中で、元気に泳いでいるのは河童だった。 洗濯槽が右に左に回転するたびに生み出される、ねじれた水流の中をほとんど転がるようにして、河童は短い手足で気持ちよさそうに水を掻いている。ウィルキンソン炭酸のずんぐりとした1Lペットボトルほどの大きさしかないので、河童はまだ子どもなのだろう。マンションの一階部分に完備されたコインランドリーの、二台並べ置かれたうちの右側の洗濯乾燥機を指差しながら、僕は先客に声をかける。 「これだめでしょ」 ベン

    • 大阪城は五センチ《 5 》 【創作大賞2024】

      《1》《 2 》《3》《4》《5》 <back                  next> 始めは、よく似ている人がいると、ただ思った。 人波の向こう、さまざまなステンレス容器が展示されたブースで、こちらに背を向けて同行者と談笑する男の佇まいが好ましかったので目を引いた。 (宇治が現実にいたら、あんな感じかもしれん) 後ろ姿を見つめるうち自然と笑みが浮かび、顔の方はどれくらい似ているのだろうと興味本位で眺めていると、振り返った顔がマレーバクによく似ている。 宇治だと分

      • 大阪城は五センチ《 4 》 【創作大賞2024】

        《1》《 2 》《3》《4》《5》 <back                  next> 地下鉄に乗り換えると、さっきまで乗っていた電車の混雑ぶりが嘘みたいに空いている。 鼻の付け根にほんのりと酔いを宿らせながら、誰も座っていないロングシートの端に掛けてスマホを出す。多部ちゃんからLINEが来ていたので開くと「また忘れてますよ。笑 明日持って行きますね」と言うメッセージと一緒に、トイレの床に丸まって放置された衣類の写真が添えられていた。飲んでいるうちに暑くなり、ワイド

        • 大阪城は五センチ《 3 》 【創作大賞2024】

          《1》《 2 》《3》《4》《5》 <back                  next> 多部ちゃんのコートはショッキングピンクなので、遠くからでも見つけやすい。 駅前の灰色じみた風景の中で、宝くじ売り場と同じくらい目立っている彼女に「多部ちゃーん」改札を出てすぐに声を掛けた。こちらに顔を向け、目を細めて睨みつけていた多部ちゃんが、わたしだと気付いて小さく跳ねて、胸の前で手をすばやく振る。 「あけましておめでとうございます」 「おめでとう多部ちゃん、休み何してた」

        • 固定された記事

        ミッドナイト・ランドリー【ピリカ文庫】

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        • 大阪城は五センチ【創作大賞2024】
          6本
        • 自己紹介みたいな
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        • わたしたちのLINE
          16本

        記事

          大阪城は五センチ《 2 》 【創作大賞2024】

          《1》《2》《3》《4》《5》 <back                  next> 「あんたライン見てへんやろ。おすすめ物件送ったのに」 電話に出ると、興奮した母の声があまりによく通るので、耳にあてたスマホを少し離した。テレビに推しの俳優が出てきたときと同じ、元気よく甘酸っぱい顔をしているにちがいない。スマホの音量を、ふたつ下げる。 「おすすめしていらんわ。あと、既読つかへんくらいで電話せんとって」 「だって楽しみやんか。はよ買ってよ」 「マンガの新刊出たときみた

          大阪城は五センチ《 2 》 【創作大賞2024】

          大阪城は五センチ《 1 》 【創作大賞2024】

          脱いでいた服を身につけた後は、宇治のそばにいる資格をすっかり剥奪されたような気持ちになる。 バスルームに水の音が響くのを聞きながら鏡台の前に立ち、クリーニングしたてのスラックスをしっかり引き上げ、新品のセーターの裾を整えた。申し訳程度に眉を書き足し、色付きの薬用リップを塗っただけのささやかな顔が、鏡の中から心配そうにこちらを見つめ返してくる。励ますようにショルダータイプのスマホケースを肩から掛け、カバーの内側に挟んである一枚のカードに、ケース越しに手を当てた。自分の顔と

          大阪城は五センチ《 1 》 【創作大賞2024】

          創作大賞参加作品の前半部分を今日の深夜に公開します✨ 5記事で2.5万字、恋愛小説部門です。 女性向け風俗の男性キャストに恋心を抱く主人公と一緒に、恋や家についてあれこれ考えてます。フォローしてくださってる方のタイムラインにご迷惑をかけてしまいそうです(が大目に見てください)

          創作大賞参加作品の前半部分を今日の深夜に公開します✨ 5記事で2.5万字、恋愛小説部門です。 女性向け風俗の男性キャストに恋心を抱く主人公と一緒に、恋や家についてあれこれ考えてます。フォローしてくださってる方のタイムラインにご迷惑をかけてしまいそうです(が大目に見てください)

          月曜日。広告で出てきた、タマゴを集めて売るだけのゲームをインストール。ニワトリが産んだタマゴをガッポガッポ収集してお金儲けすることに没入したせいで、夕食を作る気が失せてデリバリーで無駄金を使うと言う、絵に描いたような本末転倒を食らう。「ピザがいい」ってダメ押しした子どもらのせい。

          月曜日。広告で出てきた、タマゴを集めて売るだけのゲームをインストール。ニワトリが産んだタマゴをガッポガッポ収集してお金儲けすることに没入したせいで、夕食を作る気が失せてデリバリーで無駄金を使うと言う、絵に描いたような本末転倒を食らう。「ピザがいい」ってダメ押しした子どもらのせい。

          【鬼滅の刃】の再燃が一旦落ち着き、先週から【すずめの戸締まり】ばかり見てるネトフリ中毒の長女が、 ♪ ぼーくをぉぉー、つーれてーぇぇー、「すーずめ!」(CV.ダイジン) って合わせ技の鼻歌でお着替えしてるのが聞こえてきて、「やるやん」ってガチ感想を漏らしてしまう土曜日の朝。

          【鬼滅の刃】の再燃が一旦落ち着き、先週から【すずめの戸締まり】ばかり見てるネトフリ中毒の長女が、 ♪ ぼーくをぉぉー、つーれてーぇぇー、「すーずめ!」(CV.ダイジン) って合わせ技の鼻歌でお着替えしてるのが聞こえてきて、「やるやん」ってガチ感想を漏らしてしまう土曜日の朝。

          ピリカ文庫「ミッドナイト・ランドリー」を朗読していただきました! 津田くん&本文:こーたさん シイラさん:ピリカさん 洸(ほのか):納豆ご飯さん が読んでくださって、腰が抜けるほど感激しました。よかったら聞いてください✨ https://note.com/saori0717/n/ndf5a96068b6f

          ピリカ文庫「ミッドナイト・ランドリー」を朗読していただきました! 津田くん&本文:こーたさん シイラさん:ピリカさん 洸(ほのか):納豆ご飯さん が読んでくださって、腰が抜けるほど感激しました。よかったら聞いてください✨ https://note.com/saori0717/n/ndf5a96068b6f

          梅雨晴れのチョロQ

          月曜日。自転車を雨晒しにしたせいで、サドルから芝生がぼうぼうに生えている。 カゴに入っていた「刈り〼」のチラシを見て電話をかけてみると、すぐにチョロQが足元に走り寄ってきて「ゴルフ刈りでいいですか」と訊いてきた。 小さな芝刈り機をサドルにのせてやりながら「ピクニック感のある長さがいいです」と注文する。サドルの上をゆっくり走り始めたチョロQが、育ちすぎて穂をつけた逞しい芝生をショリショリと刈っていく。

          梅雨晴れのチョロQ

          エキゾチックブーケ

          水曜日。新婦からジャスミンの花束を向けられ「いい匂いなの」と言われたけれど、カレーを食べ始めたところなので花の匂いを嗅ぎたくない。 ねっとりと甘たるくて生温い、熟れた死骸みたいなジャスミンの臭気が入り込まないよう息を止めて「おかまいなく」にっこりと告げると「遠慮しないで」同じように微笑んだ新婦に小鼻を摘まれ、するりと上方向にスライドされ顔面から外された。 花束の中央に据え置かれた自分の鼻を眺めながら、カレーをひとくち食べてみる。ジャスミンの激臭にまみれたターメリックの、ク

          エキゾチックブーケ

          低刺激性フルーツポンチ

          金魚鉢に三ツ矢サイダーを注いで日光に当て、炭酸がぷつぷつ抜けていくのを眺めていると「ごめんやで」炭酸の飲めない神田さんが決まり悪そうな顔つきでフルーツミックスの缶を開けている。 「どうにも泡が苦しいねん。息出来んようになんねん。いまは紫外線強いから、一時間くらいで気ぃ抜けるんちゃうかな。そしたら安全やねん。ほっとすんねん。ごめんやけど待ったげてや」 黄桃やパイナップルをつつきながら眉を八の字にして笑っているので「待ったげてって、誰のことを?」神田さんに尋ねてみる。缶からつ

          低刺激性フルーツポンチ

          文学フリマに行った話

          行ってきました文学フリマ東京38! わたしの中では春先から楽しみにしてた一大イベントだったので、直前の一週間はタイムラインに文フリ関連の記事があらわれるたびにワクワクが高まり、前日の夜は高まりすぎで情緒不安定になりました。 (※客として行くだけです) そんな文フリ。 出品されているおびただしい量の本にも興奮してしまうんですが、いちばんの興奮ポイントはやっぱり、 「会場で芋洗いになってる誰も彼もが全員、本好きの変態」 っていう点でしょうか。 まずね、初めて会場に足を

          文学フリマに行った話

          この世に鯖専用の日本酒があることに感動したはずなのに、この後まぁまぁの量の日本酒を飲んでしまったせいで味がイマイチ思い出せない火曜日。

          この世に鯖専用の日本酒があることに感動したはずなのに、この後まぁまぁの量の日本酒を飲んでしまったせいで味がイマイチ思い出せない火曜日。

          公園で。隣のベンチで電話している女性の声が心地よかったので耳を傾けると、ヒラヒラしたスカートが踊りやすいとのこと。アベさんはLINEもメールもできるちゃんとした方だから大丈夫とのこと。私があんぱんの袋を取り出したら、女性の膝上でお座りしてたプードルがハッとこちらを見て可愛かった。

          公園で。隣のベンチで電話している女性の声が心地よかったので耳を傾けると、ヒラヒラしたスカートが踊りやすいとのこと。アベさんはLINEもメールもできるちゃんとした方だから大丈夫とのこと。私があんぱんの袋を取り出したら、女性の膝上でお座りしてたプードルがハッとこちらを見て可愛かった。