みょめも

誰もが経験してそうで、絶対していない世にも奇妙な短編集です。

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最近の記事

カタツムリと呼ばれた友人【ショートショート】

中学生の頃、僕には少し変わった巻野という友人がいた。 彼は家を背負っているのだ。 家というのは何かの比喩ではなく、正真正銘、彼の住む家だ。 学校へ行くときも、公園で遊ぶときも、修学旅行に行ったときだって背負いっぱなしだったのだ。 重くないのかと聞いたときも「自分の家だからね」と笑顔で返された。 そんな風貌だったこともあり、彼のことを「カタツムリ」と呼ぶ心ないクラスメイトもいた。 近くにいながら何も言い返せない僕も情けない男だったのだが、彼に「まぁいい、まぁいい」と逆に慰められ

    • あの夏にひとまわり成長した友達の話【ショートショート】

      あれは僕が中学3年生だったころの夏だ。 そのくらいの年齢と言えばみな性に強い感心をもち、誰が早く大人になれるか、を競っていた時期だった。 そして、それは急に訪れるのだった。 「加藤が真希ちゃんと海に行ったらしい。」 真希ちゃんというのは、わが校のマドンナ的存在の子で、食べ物で例えるならGODIVAを擬人化したような子だ。一方、加藤はTHE普通、チョコバットのような男なのだが、そんな2人がデートに行ったとあらば、それはもう一大事件なのである。 僕らはその真相を突き止めるため

      • 『痛いの』の処理方法【ショートショート】

        あれは私が夫と二歳になる子どもの3人で新しい町に引っ越してきたときの話だ。 その日は町内会の会議があり、ゴミの出し方についてのお知らせがあった。 「最近、ゴミの出し方についてマナーを守っていただけない方がいるようです」 「みんなの町なのだからルールは守ってほしいよな」 「特に『痛いの』の処分方法を把握されていない方がいるようです」 「『痛いの』なんて燃えるゴミなんじゃないの?」 「はい、燃えるゴミです。小さい袋に入れて『痛いの』が漏れないように口をしっかり縛って出し

        • 一時停止が家にやってきた話【ショートショート】

          ある日、仕事から帰ってくると家の裏の道路で工事がおこなわれていた。 狭い道路の拡張工事の様で元々あった白線や標識などが取り払われていた。 しばらくかかるのかなぁ、騒音は嫌だなぁと玄関へ向かうとそこには『一時停止』が立っていた。 「どうかしましたか?」 「私、裏に設置されていた一時停止ですが、少しの間泊めていただけないでしょうか。」 「こんな時間にどうしたんですか?」 「実は今朝から始まった工事で撤去されてしまったのです。私たち標識は本来どこかに設置されていなければなり

        カタツムリと呼ばれた友人【ショートショート】

          トイレの神様【ショートショート】

          社会人1年目の夏のころの話。 ある日のこと。いつものように仕事から帰宅し玄関を開けると、トイレの電気がついていた。 「あれ、電気消し忘れてたっけ」 特にそんな覚えもなかったのだが、丁度いい具合に尿意を感じたのでそのままトイレのドアを開けると、そこには(自分の好みではないという意味で)不細工面の女性がいた。 「え、なに?誰?」 「なに、やあらへんがな」 「えっと、どちらさまで……」 「どちらさんやと思う?」 そもそも僕の部屋に他人がいること自体おかしいのだが、その

          トイレの神様【ショートショート】

          「w」と笑う後輩【ショートショート】

          社会人になって4年目の春のことだ。 僕の働く部署にも数人の新入社員が配属されてきた。 その中の草野という子が少し変わった子で、それに気付いたのは歓迎会を開いたときのことだった。 歓迎会は大いに盛り上がった。 お酒が進むにつれて新入社員達の緊張もほぐれ、職場では笑うことの少ない子も声をあげて笑うようになっていた。 そのとき、先輩が 「おい、何だそれ」 と言うので指差す先を見ると草野の下に「ww」とダブリューの文字が出ていた。 「あぁ、先輩の世代は知らないですよね、あれは

          「w」と笑う後輩【ショートショート】

          洋食屋でスピルバーグを食べた話【ショートショート】

          先日、とある定食屋に行ったときの話である。 その日僕はとてもお腹が減っており、前から行ってみたかった町の老舗洋食屋へ行くことにした。 町の外れにあるそのお店は、書き入れ時を過ぎたにも関わらずたくさんの車が駐車しており、人気のほどがうかがえる。 扉を開けると店内は薄暗く、空席も探すのが難しかったため「すみません」と呼ぶとすぐに店員が来た。 「お客様、初めてのご来店ですか?」 「はい、1人なんですが」 すると店員は 「店内では私語はお控えいただいております。あと、スマ

          洋食屋でスピルバーグを食べた話【ショートショート】

          彼女の自爆スイッチについて【ショートショート】

          高校の頃、こんな僕にも彼女ができた。 今日はその彼女について話そう。 彼女との出会いはある日の保健室だった。 僕は正直なところ、真面目なほうではなかったから、その日も仮病をつかって保健室で暇を潰していた。 すると入口の扉が開いて保健室の先生が入ってきた。 「大丈夫?」 先生に肩を借りながら保健室に入ってきたその生徒こそが彼女だった。 ぼーっと彼女を見ていると、 「またどうして自爆スイッチなんて押しちゃったのよ。」 冷たい水とおしぼりを彼女の額にあてながら先生が聞いた

          彼女の自爆スイッチについて【ショートショート】

          ホイットニー・ヒューストンで遊んだ話【ショートショート】

          僕がまだ小学生の頃、全国で一大ムーブメントを巻き起こしたものといえば真っ先にホイットニー・ヒューストンの名前が挙がるだろう。 それまで放課後公園でサッカーや野球をしていた子も、塾へ行っていた子も、果ては大人たちにいたるまで、みんなこぞってホイットニー・ヒューストンにはまり、連日ニュースでも取り上げられ社会現象とまで言われた。 1人1つホイットニーを持っているといっても過言ではなく、ポケットや鞄のちょっとしたスペースに入れて学校に持ってくる生徒が続出したため、しまいには『ホイ

          ホイットニー・ヒューストンで遊んだ話【ショートショート】

          辞書を飼っていたときの話【ショートショート】

          大学生を卒業し社会人1年目の僕は、彼女がいるわけでもなく、学校が仕事になったこと以外は特に変わりない生活をしていた。 仕事が終わると、夕方のスーパーで値引きシールの貼られた惣菜を買って帰り、それをツマミにビールを飲みながらテレビを見て1日が終わる。そんな何でもない日々を送っていたときに高校の頃の友人から電話があった。 「辞書をもらってくれないか」 唐突なことで詳細を聞くと「知り合いの去勢していない辞書が重版したから、受け取り手を探している。もらってほしい。」とのことだっ

          辞書を飼っていたときの話【ショートショート】