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あの夏にひとまわり成長した友達の話【ショートショート】
あれは僕が中学3年生だったころの夏だ。
そのくらいの年齢と言えばみな性に強い感心をもち、誰が早く大人になれるか、を競っていた時期だった。
そして、それは急に訪れるのだった。
「加藤が真希ちゃんと海に行ったらしい。」
真希ちゃんというのは、わが校のマドンナ的存在の子で、食べ物で例えるならGODIVAを擬人化したような子だ。一方、加藤はTHE普通、チョコバットのような男なのだが、そんな2人がデートに行ったとあらば、それはもう一大事件なのである。
僕らはその真相を突き止めるため、お昼に加藤の机に集まった。
「あの噂は本当なのか。」
「ああ、本当だとも。」
チョコのように黒く日焼けした加藤は、自慢げにことの顛末を話した。
僕らは興奮気味に話を聞きながら、一方で「先を越された。」という悔しさを感じていた。
加藤は一回り成長したのだ、僕らはそう確信した。
しかし、加藤が本当の意味で成長したのはこの時ではなかった。
昼食の時間が終わり、体育の時間に備えて体操服に着替えているときのことだ。
加藤がおもむろに全裸になりだしたのだ。
そしてパリパリと日焼けの跡が捲れあがったかと思うと、
パリパリパリパリパリパリパリパリ。
あれよあれよと言う間に脱皮した。
ドサリと加藤の古い皮が床に落ち、そこには、ややテカリを帯びたソフトシェルクラブならぬ『ソフトシェル加藤』がいた。なんだか透明な部分もあって気持ち悪かった。
だが、真に一回り成長したのだ。
いくらソフトシェル加藤が気持ち悪かろうが、真希ちゃんとの一件を経て一皮むけたのは真実なのだ。
その後の体育のバスケットボールで、リングを見下ろしていたのを鮮明に覚えている。
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