みょめも

誰もが経験してそうで、絶対していない世にも奇妙な短編集です。

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記事一覧

レーズンパンを隠したときの話【ショートショート】

小学校の頃の話だ。 当時、僕はレーズンパンが嫌いだった。 ピーマンや人参だって食べられたけど、給食に出てくるレーズンパンだけはどうしても苦手で、よく掃除の時間まで…

みょめも
6日前
52

クラシックを捕まえていた頃の話【ショートショート】

小学生の頃は、夏休みになると虫取り網と虫かごを持ってよくクラシックを捕まえていたものだった。 特にクラスメイトの桑田くんはクラシックにとても詳しかったので、家も…

みょめも
13日前
47

ヒゲ泥棒【ショートショート】

あれは僕が中学生の頃だったと思う。 ある事件が世間を騒がせた。 言わずと知れた「ヒゲ泥棒事件」である。 連日ニュースで報道されたその事件は僕のいる町で起きた。 当…

みょめも
2週間前
48

桃太郎を見かけた話【ショートショート】

これは僕がまだ幼かったころの話だ。 当時、僕たちの家族は、少し歩けば船着き場のある、漁業の盛んな町に住んでいた。 学校が終わると友達と海沿いを下校しながら、船着き…

みょめも
3週間前
74

屋台に生活指導の渡辺先生がいた話【ショートショート】

夏も真っ盛りになると僕の地元でも神社でお祭りが開かれる。 そして、たくさんの屋台が並ぶ賑わいの中を歩いていると決まってあることを思い出す。 小学生の頃も、今と同…

みょめも
3週間前
44

ダブルチーズバーガーのマネージャーをしていたときの話【ショートショート】

芸事の世界は厳しい、というのを教わったのは僕が東京に出てきて1年目のことだ。 当時働いていた事務所は大手ファストフード店で、数いるメニューの中から「ダブルチーズバ…

みょめも
1か月前
114

厄を追い払ったときの話【ショートショート】

人生いつでも順風満帆というわけにはいかない。 何をやってもうまく転がり、まるで世界は自分のために廻っていると錯覚することがあれば、やることなす事ことごとくダメで…

みょめも
1か月前
50

ドアの話し合い【ショートショート】

これは私が今の職場で働くようになって15年が経った頃の話だ。 その日は月末の金曜日ということもあり、いつも以上に仕事が残っていたのでオフィスを出たのは夜の9時を回っ…

みょめも
1か月前
42

おばあちゃんの庭に「成せば」がなった話【ショートショート】

僕のおばあちゃんは自然がいっぱいの田舎に住んでおり、野菜や果物を庭で育てるのが趣味の人だった。 夏休みになると毎年のように遊びに行っては新鮮な野菜や果物をご馳走…

みょめも
1か月前
53

いじめてしまった時の話【ショートショート】

これは僕の黒歴史……いや黒歴史という言葉を使うのも憚られるくらい思い出したくない出来事だ。 でも忘れることはできないし、忘れてはいけないのでここに残そうと思う。 …

みょめも
1か月前
46

サクラの実演販売【ショートショート】

ある休日のこと。 駅ナカにあるデパートでウインドウショッピングをしていた私は、人だかりを見つけた。 元々買い物などする予定もなかったから暇潰しに、とそこを覗いてみ…

みょめも
1か月前
38

7の段売り【ショートショート】

記憶が定かではないが、確か僕が小学2年生くらいのときだったとおもう。 後に待つテスト勉強や受験戦争など知る由もない、まだまだ学校の勉強が楽しくて仕方なかった頃で、…

みょめも
2か月前
74

ジャンケンが喧嘩した話【ショートショート】

ある夜のこと。 寝室の扉をノックする音がした。 こんな夜にどうしたのだろう。 カチャリと扉を開けるとそこにはチョキが立っていた。 「すみません、夜分に。」 チョキ…

みょめも
2か月前
52

タモリが釣れたときの話【ショートショート】

あれは大学生の頃だった。 何年か振りに実家へ帰省した僕は、特にすることもなく暇をもて余していた。 家にいても退屈なので、久しぶりに昔遊んだ場所でも見に行こうとぶら…

みょめも
2か月前
71

カタツムリと呼ばれた友人【ショートショート】

中学生の頃、僕には少し変わった巻野という友人がいた。 彼は家を背負っているのだ。 家というのは何かの比喩ではなく、正真正銘、彼の住む家だ。 学校へ行くときも、公園…

みょめも
2か月前
82

あの夏にひとまわり成長した友達の話【ショートショート】

あれは僕が中学3年生だったころの夏だ。 そのくらいの年齢と言えばみな性に強い感心をもち、誰が早く大人になれるか、を競っていた時期だった。 そして、それは急に訪れる…

みょめも
2か月前
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レーズンパンを隠したときの話【ショートショート】

レーズンパンを隠したときの話【ショートショート】

小学校の頃の話だ。
当時、僕はレーズンパンが嫌いだった。
ピーマンや人参だって食べられたけど、給食に出てくるレーズンパンだけはどうしても苦手で、よく掃除の時間まで食べさせられていたものだった。
担任の指導方針によっては、食べられないものは「いただきます」をする前に戻して良いとされていたけれど、毎年そんな優しい担任にあたるわけはなかった。

そのときの担任は給食を残すことに厳しかった。
給食の時間が

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クラシックを捕まえていた頃の話【ショートショート】

クラシックを捕まえていた頃の話【ショートショート】

小学生の頃は、夏休みになると虫取り網と虫かごを持ってよくクラシックを捕まえていたものだった。

特にクラスメイトの桑田くんはクラシックにとても詳しかったので、家も近所だったこともありクラシック取り仲間として毎日のように遊んでいた。

クラシックはたいてい大きな木の幹にとまっていて大きな音で鳴いているのだけど、桑田くんが言うには鳴き方で種類が違うのだそうだ。

「あれは何て言うクラシック?」

《ジ

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ヒゲ泥棒【ショートショート】

ヒゲ泥棒【ショートショート】

あれは僕が中学生の頃だったと思う。
ある事件が世間を騒がせた。
言わずと知れた「ヒゲ泥棒事件」である。

連日ニュースで報道されたその事件は僕のいる町で起きた。
当然子供の耳にも入り、学校でも知らない子はいないくらいに有名だった。
大人たちは「そんな卑猥な事件を子供に聞かせるわけにはいかない」と躍起になっていたがその甲斐もなく、町内ではヒゲドロという愛称で親しまれていた。
それでも大人たちは暫くの

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桃太郎を見かけた話【ショートショート】

桃太郎を見かけた話【ショートショート】

これは僕がまだ幼かったころの話だ。
当時、僕たちの家族は、少し歩けば船着き場のある、漁業の盛んな町に住んでいた。
学校が終わると友達と海沿いを下校しながら、船着き場のそばの空き地でよく遊んでいた。

その日もいつものように空き地で走り回っていて、ふと海の傍の定食屋に目をやると海には似つかわしくない格好の人影があった。

桃太郎がいた。

桃太郎は、鯵フライ定食のご飯大盛りを食べていた。
見た瞬間は

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屋台に生活指導の渡辺先生がいた話【ショートショート】

屋台に生活指導の渡辺先生がいた話【ショートショート】

夏も真っ盛りになると僕の地元でも神社でお祭りが開かれる。
そして、たくさんの屋台が並ぶ賑わいの中を歩いていると決まってあることを思い出す。

小学生の頃も、今と同じようにお祭りが開かれていた。
イカ焼きにチョコバナナ、金魚すくいなどが軒を並べる中にその屋台はあった。
射的だ。
射的とは銃を景品に向けて撃ち、発射されたコルクの弾が景品を倒したらその景品を貰えるというごくシンプルな屋台だった。
そこに

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ダブルチーズバーガーのマネージャーをしていたときの話【ショートショート】

ダブルチーズバーガーのマネージャーをしていたときの話【ショートショート】

芸事の世界は厳しい、というのを教わったのは僕が東京に出てきて1年目のことだ。
当時働いていた事務所は大手ファストフード店で、数いるメニューの中から「ダブルチーズバーガー」のマネージャーを務めることになった。
1年目の僕にそんな人気者を抜擢する会社もどうかと思ったが、当時はそんなことよりもあの超売れっ子と一緒に仕事ができる喜びに単純に浸っていた。

初めて顔を合わせたのはとある休日の昼間。
楽屋でメ

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厄を追い払ったときの話【ショートショート】

厄を追い払ったときの話【ショートショート】

人生いつでも順風満帆というわけにはいかない。
何をやってもうまく転がり、まるで世界は自分のために廻っていると錯覚することがあれば、やることなす事ことごとくダメで、自分はおろか、御先祖軒並み恨みたくなるくらいに絶望することもある。
山あり谷ありの人生だからそれがいいんじゃないかと言う人もいるが、そうは言っても結局、厄払いだの厄除けだのに頼るのも人だ。

その頃の僕はまさに谷底に転がり始めたところであ

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ドアの話し合い【ショートショート】

ドアの話し合い【ショートショート】

これは私が今の職場で働くようになって15年が経った頃の話だ。
その日は月末の金曜日ということもあり、いつも以上に仕事が残っていたのでオフィスを出たのは夜の9時を回ったあたりだった。
世間は華の金曜日で、なかなかの賑わいを見せている。駅前の繁華街を歩けば5分に1度は客引きに声をかけられる、そんな中で赤い提灯の立呑屋に見覚えのある顔がいた。

同じ職場のドア科の「PUSH」と「PULL」だった。

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おばあちゃんの庭に「成せば」がなった話【ショートショート】

おばあちゃんの庭に「成せば」がなった話【ショートショート】

僕のおばあちゃんは自然がいっぱいの田舎に住んでおり、野菜や果物を庭で育てるのが趣味の人だった。
夏休みになると毎年のように遊びに行っては新鮮な野菜や果物をご馳走になるのだが、これは小学4年生のときのある出来事だ。

おばあちゃんの家の裏庭に生えている木に、見慣れない果実が実っていた。

「これは何?」

そう僕が聞くとおばあちゃんは「『成せば』だよ」っと微笑んだ。

「今年は何十年かぶりに『成せば

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いじめてしまった時の話【ショートショート】

いじめてしまった時の話【ショートショート】

これは僕の黒歴史……いや黒歴史という言葉を使うのも憚られるくらい思い出したくない出来事だ。
でも忘れることはできないし、忘れてはいけないのでここに残そうと思う。

あれは僕が高校3年生の頃だ。
当時の僕といえば部活でも勉強でも思うようにいかずイラつき、仲間とつるむ毎日を送っていた。

「このクラスでいじめがあるらしい。」

ある日の帰りのホームルームの時間、担任がそう切り出した。
瞬間クラスがざわ

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サクラの実演販売【ショートショート】

サクラの実演販売【ショートショート】

ある休日のこと。
駅ナカにあるデパートでウインドウショッピングをしていた私は、人だかりを見つけた。
元々買い物などする予定もなかったから暇潰しに、とそこを覗いてみると、それはある店の中ではなく、通路の一角で繰り広げられていた。

「はい、ではお集まりの皆様にこれから実演を見ていただこうと思います。」

実演販売とは少し違い、その声は20インチ程のモニターからしている。
モニターにはラーメン屋の外観

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7の段売り【ショートショート】

7の段売り【ショートショート】

記憶が定かではないが、確か僕が小学2年生くらいのときだったとおもう。
後に待つテスト勉強や受験戦争など知る由もない、まだまだ学校の勉強が楽しくて仕方なかった頃で、国語では色々な漢字を学びはじめ、理科では世の中の不思議を知りはじめていた。

しかし、僕は算数が大嫌いだった。
そのきっかけが小学2年生のときに習った「かけ算」だった。

1の段は簡単だった。なぜなら1つずつ増えていくだけだから。2の段も

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ジャンケンが喧嘩した話【ショートショート】

ジャンケンが喧嘩した話【ショートショート】

ある夜のこと。
寝室の扉をノックする音がした。
こんな夜にどうしたのだろう。
カチャリと扉を開けるとそこにはチョキが立っていた。

「すみません、夜分に。」

チョキは浮かない顔をしている。

「いったいどうしたんだい。思い詰めた顔をして。」

「実は今、3人で話していたんですが……」

聞くと、グー、チョキ、パーの3人の仕事配分が適当じゃない、ということだった。

まずグーの主張は『最初はグーで

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タモリが釣れたときの話【ショートショート】

タモリが釣れたときの話【ショートショート】

あれは大学生の頃だった。
何年か振りに実家へ帰省した僕は、特にすることもなく暇をもて余していた。
家にいても退屈なので、久しぶりに昔遊んだ場所でも見に行こうとぶらぶら散歩をすることにした。
町中を歩くと色々な発見がある。
家族でたまに行っていたレストランが取り壊され駐車場になっていたり、逆に活気を失っていた商店街はあの手この手で活気を取り戻していたりもした。
商店街を通り抜けるとフワッと潮風が鼻腔

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カタツムリと呼ばれた友人【ショートショート】

カタツムリと呼ばれた友人【ショートショート】

中学生の頃、僕には少し変わった巻野という友人がいた。
彼は家を背負っているのだ。
家というのは何かの比喩ではなく、正真正銘、彼の住む家だ。
学校へ行くときも、公園で遊ぶときも、修学旅行に行ったときだって背負いっぱなしだったのだ。
重くないのかと聞いたときも「自分の家だからね」と笑顔で返された。
そんな風貌だったこともあり、彼のことを「カタツムリ」と呼ぶ心ないクラスメイトもいた。
近くにいながら何も

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あの夏にひとまわり成長した友達の話【ショートショート】

あの夏にひとまわり成長した友達の話【ショートショート】

あれは僕が中学3年生だったころの夏だ。
そのくらいの年齢と言えばみな性に強い感心をもち、誰が早く大人になれるか、を競っていた時期だった。
そして、それは急に訪れるのだった。

「加藤が真希ちゃんと海に行ったらしい。」

真希ちゃんというのは、わが校のマドンナ的存在の子で、食べ物で例えるならGODIVAを擬人化したような子だ。一方、加藤はTHE普通、チョコバットのような男なのだが、そんな2人がデート

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