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連休の朝に向けて書いたBL

とにかく暑い。

今年の夏はいつもより暑い。
それと言うのも、去年はいなかった恋人のリキの体温が、尋常でなく熱い。
エアコンが止まったのか?いや、ついている。
設定温度は26度。
夏布団じゃなかったのだろうか?
いや、季節を問わず使える羽毛布団だ。
寒いと思う人もいるが、俺はこの温度でしっかりと布団をかぶって寝たい。

恋人のリキは、何かを抱きしめて寝たい。
普段は掛け布団を縦に巻いて抱いているらしい。
だから布団もあってもなくてもどっちでもいい。エアコンの設定温度にもこだわりはない。

一緒に寝ると布団を被りたい俺と、どっちでもいいから抱きしめたいリキのせめぎ合いになる。

どう足掻いても俺が辛い。
布団をかぶると布団の中で抱きついたリキが熱い。
だから布団を被らないでいると、落ち着かない。
でも、布団とリキが一緒に来ると暑い。

鎌の中でじわじわ焼かれていく湯呑みになった夢を見て、今は長い夜を過ごしている。
寝息が途絶えないリキは、布団はあってもなくてもいいし、俺を抱いて満足だし、暑くも寒くもないんだろう。

トイレから戻って、離れて布団をかぶって寝入っても、いつの間にか捕まっている。
布団にくるまったまま捕まるとサウナみたいになるから、抱き枕にえたら昨日ついに拗ねたリキが壊してしまった。

仕方ない、子供騙しをした俺も悪い。

昨夜は疲れ果てていて、カーテンも開けて寝てしまったから、5時をすぎると少し外が眩しい。
早朝のいつもと違う部屋の薄青さは嫌いじゃない。
でも、あっちの空気は涼しそうなのに、なんで俺はこんなに暑いんだろう?

だからってリキを手放す理由もない。

この苦痛が無くなることを考えられない。
恋愛は苦痛で暑くて窮屈きゅうくつ、それに耐えれるから愛しいんだと思う。
子育てと似ている、と親になった知人は言う。

朝やけが赤くなってきた。
水色の空の雲が白でなくて朱色になっている。
マーブル、そうだ、朝ごはんにココアを混ぜ込んだマーブルのデニッシュを焼こう。

「リキ、窮屈だよ」

お前は普段、息が詰まるほど周りを気遣うくせに、寝ると驚くほどに豪胆。
そう言えば。
寝ぼけて突然、下着の中に手を入れられて、驚いてベットの下に蹴り落とした時も寝ていた。
逆にそんな時は起きろよ?と、思うがいつもこんな具合。

キス以上は難しい。
男と、男だから。
先輩と、後輩だから。
チームメイトだし。
友達は?すっ飛ばしたから分からない。
もしも友達の時間も経験していたら、もっと親密だったのかな?

順番、間違えたね。

体育会系の先輩後輩でも、チームメイトになれば友達に近い感じになれるって、親友のともえが言ってたもの。
完全に同じではないけど、少し目線が合ってくるんだって。

雲が白くなった。
完全に朝が来た。

俺達は本当に窮屈だ。
でも、かわいい。
慕われながら愛されるのは、かわいい。
自分より大きいくせに、何かあると小さくなってしまう姿がかわいい。

弟みたいで、でも弟じゃない。
兄弟ってお風呂も一緒に入ったし、トイレも並んで平気で入るし、なんのプライバシーもないのに色っぽいこと起きないよな。
一度弟にキスしてみようか?
いや、出来ないな。それも違う。

不思議。

弟のみつの事も同じくらいかわいいし、愛しいのに、みつの友達のリキにはキスできるし、俺が許せば毎晩でも抱きしめられる。

不思議。

リキの寝息が、熱くてジメッとして、不快なのに心地いい。
不躾ぶしつけに人の体を触る手も、鬱陶うっとうしいのに愛しい。
お互いの体をお互いにどれだけ見合っても、人より大きめのバストがあっても、全くセクシーじゃないし、興奮しない。
でも筋肉は触りたい、仕上がり具合が気になるから。
全然何も感じないのに、キスしたら服が脱げるように体温が変わっていくのはなぜだろう。

はぁはぁ、と息が濃くなって、何でもかんでも欲しくなる。
だから、リキは俺を抱いて寝るんだろうか。
キスだけで、鬱屈うっくつとして、でも手を出せなくて、窮屈で。

それでも手放したくない。

でもたまに思う。
弟と間違えてないかって。
俺の親友は、一線超えてきたから、同じことが起きるんじゃないか?って。

「そんなに頻繁に起こりうることじゃないか」

独り言にピクッと反応した指がぐ〜っと伸びて、ふぅっと大きく熱い息。

「・・ぁに?どうしたの?」
「リキは弟と俺を間違えてない?」
えぇ?っと質問に顔を擦って、腫れた目で俺を見る。
そして、もう一度頭をくしゃっと触って「さーせん、タメ口」と頭を下げるようにゆっくり瞬きした。
そしてゴソゴソと居心地悪そうに動いて、くっつけていた体を離すと、肘をついて頭を支え、俺と寝そべったまま向き合う。
「イロイロさーせん、ちょっと、あの、朝なんで」
俺の布団をちょっとつまんで自分もかぶる。
「気にしないよ、健康の証だから」
「えっと、」
きっと寝起きで回らない頭を必死に動かすように、目玉もくるくるする。
俺はきっと今、不安な顔をしているんだろうな、と察した。

「見つからないから違います」

ちょっと、よく分からない。
否定したことしか分からない。

「んーっと、充時みつじへの好きと、有時ゆうじさんへの好きは一緒だけど、共通点が見つからないから、違うんです」
「一緒だけど違うの?たとえばどんな?」
「あー・・・泊まりに行ったり、旅行して一緒に雑魚寝しても、充時抱っこしないですもん。すぐ隣でも、肩くっついても、テントの中でビタビタになってても、ないです。別にいらない。
でも、有時さんいたら抱きたい、走ってでも抱きたい。
怒られた夜も、喧嘩して分からず屋で頑固で大嫌いな夜も、抱きたい」
「リキは愛情が深いね」
「喧嘩して分からず屋で頑固で大嫌いな夜でも、有時さん絶対に隣で寝るもん。どっか出て行ったり、何も言わずにこっそり実家帰ったり、友達のとこにも行かないで、俺の隣で寝てる。
逃げないから安心して抱けるんです」
「逃げないように、の、心配はないの?」
「だって、逃げないんだもん」
「まぁ、ね。そんなに心底嫌うような喧嘩は、相手に期待しすぎるからクソッ腹がたつものだし」
「でしょ?だからすげぇ窮屈です」
「窮屈?」
「はい、離れないから狭くて窮屈。それがなんか、いいんですよね〜」

そう言いながら前から抱きしめるのは反則だろう。
熱いから嫌だって言い難いじゃない。

「深いんですよ、ドボンってはまる感じ?だからもっと中までずぶずぶ入りたい、狭くて、窮屈な有時さんの中入りたい」
「ずいぶん強欲でいかがわしい表現だね」
「夜ね、急激にガー!って欲しくなって欲しくなって、たまんなくて、こうやってぎゅーってしてたら、いつか俺が有時さんの中にぎゅうぎゅうに押し込まれて一緒になったらいいのにって思います」
「構わないけど、もしも俺とリキが一つになったら、俺のことはもう見えないよ?」

サリサリと音を立てて髪を触って、耳の形を確認するように指のはらで潰す。
そして、パッと何か閃いたように目が開いて八重歯が光る。

「それなんすよ!シンガポールのマリーナベイサンズホテルあるじゃないすか?船が浮いてるみたいなホテル!あれのライトアップ見たくてみつるとオフに行ったんです!」
「うん」
「夜まで待って、屋上のギラギラにライトアップしたプール入って、綺麗なおねぇさんいっぱいでプール最高でした!」
「ふふっ」
「でもね、いざ時間が来てショーが始まったら見えないんですよ!ライトアップしてんの俺がいるホテルだから!あちゃーです、あちゃー!」
「あちゃー」
「そう!光ってるの俺たちじゃん?!って満と2人でカクテル片手にあちゃー!フフッ!んでぇ、2人でガーってなって、ホテルのカジノ行って10万負けて今度はくそー!」
「くそー、ね。ふふふ!」
「だから、ダメなんですよね。いっときのガー!で動いちゃ。わー!はいいんですけど、ガー!はダメなんす」
「わー、ね?」
「はいっす。そう学んだから、俺は有時さんの中には入らない。入りたい時はあちこちガー!ってなってますから。
だからこうやって、のんびり窮屈に過ごすんです、わー!好きーって!」
「好き」
「好きです、どうしようもない。だから落ち着いて、ゆっくりずぶずぶに入りたいから引き続きご愛顧お願いします」

リキの話は、小さい頃の弟を思い出す。
俺の方が弟と勘違いしてるのかもしれない。

「あのプール、花火は見えるしね」
「え?」
「マリーナベイサンズのライトアップ、ホテルのプールからでも花火は見える。すごい、間近で、目の前いっぱいに」

目の前いっぱいに顔を寄せて、ちゅっと音を立ててキスをした。

「俺はそれで充分だよ」
「はい。・・・てか、誰と泊まったんですか?」
「ん?」
「マリーナベイサンズ!誰と泊まったんですか!!」
「・・・新一くん?」
「嘘も冗談も下手くそなくせにこんな時だけ小粋なボケやめてください!せめてそこはコナンくんでしょ!新一?生々しい!」
「お腹すいたね?ココアのデニッシュ食べようか」
「くそ!!!一生ついて行ってやる!!覚えてろよ!!」
俺より後に目覚めたのに、俺より先に寝床を出ると、ちょっとこっちを気にしながらゴソゴソルームウェアを整えて、のしのし寝室をでた。

外はすっかり朝になって、空は宇宙から見た地球の色をしている。
涼しげになると、急に暑さが恋しくなる。
毎年毎年、夏が過ぎたら「暑かったね」
冬になったら「夏が恋しい」
春になったら「今年の夏はどうだろね」

「目玉焼きですよ!」
起きていくと卵4個でベーコンエッグになってた。
厚切りベーコンなんか買ってない、昨日勝手に買ってきたな。
「リキは朝から元気だね」
「健康の証です」
「そう、俺の方が先におじいちゃんになるからね」
「入れ歯まで愛します」
「あ、ご飯炊いちゃってた」
「え?」
後ろで炊飯器が電子音で間抜けなアマリリスを鳴らす。
ポカンとするリキがフライパンの火を止める。
俺はとりあえずしゃもじを持って蓋を開けた。
「てか、もうパン焼いたし!」
ほかほかの湯気に包まれながら、後ろでチンっとまた間抜けな音。

1番間抜けは俺達か。



わんぱくな朝ごはん、いただきます。
良い休日を。

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