透瑠
俺は素数【8209】。 そこらへんの数字とは違って特別な存在だ。 俺は俺自身でしか割り切れないし、他の数のもとにもなっている。 ほら、あの土下座している【2805】を見たか? あわれだなー。17、11、5、3の素数がないと自分を保てないんだぜ。 ん? そこで鎖につながれているのは誰だ? ……なんだ、【-12245】か。自然数にもなれない下等なやつめ。 素数にあらずんば数字にあらず。 この世界は俺たち素数の天下だ。 「これ以上、素数の横暴は許せない」
拝啓 一郎くんへ ごめんなさい。気持ちは嬉しいけれど、私、あなたの想いにはこたえられないわ。 本当はね、中学生のころ、あなたのことがすごく好きだったのよ。でも高校に入ってあなたは変わってしまった。何事にも全力で打ち込んでいたのに、今はすぐ「だりぃ~」って斜に構えてる。 この前のシャトルラン、絶対もっといけたでしょ? あと、歴史のあの問題、分からないふりしてたよね? 制服も着崩しすぎ。 そういうのをカッコイイと思う風潮があるのは理解できるけど、ぜんぜんカ
先週、東京旅行を決行し、「チームラボプラネッツ」という五感でアートを楽しめるミュージアムに行ってきました。とても良かったので、3つに分けて感想を書いていきます。 1.作品から感じたこと 一番印象に残ったのは、以下の文章です。 作品を見て、この説明文を読んだ瞬間、衝撃が走りました。 「私」は今、ここに1つの個体として存在しています。 ただ、私の「命」は、太古の昔の祖先から今に向かって、連綿と受け継がれ、途切れなく続いてきたものです。 そう考えると、「私」と
短編を、と思って書いた文章がわりと良い分量になったので、創作大賞に応募してみました。小説部門は2万字~だったので、漫画原作部門です。 「生きるとは」について、今の自分にできる限りで表現してみました。第1~3話で、合計約7000字です。もしよければお時間あるときにご覧ください!
あらすじ 家族の敵を討って空っぽになった「私」と、刺客に狙われ続ける男。男もまた、家族の敵である王を討った後、虚しさにとらわれていた。過去を清算するために、男と「私」は刺客を放っている王の弟を倒しに向かう……。 先代の王の弟は、王が殺されたのを機に、西のはずれにある小さな城に暮らすようになったとのことだった。 先代の王を補佐する立場にいながら、悪政に対して見て見ぬふりをしていたということで、民からの評判は悪かった。噂では、新しい国王が即位したことにより、国政内での権
あらすじ 家族の敵を討って空っぽになった「私」は刺客に狙われ続ける男とともに旅をし、次第に生活に心地よさを見いだす。このあと、男の過去が明らかになる。 ある国についたとき、男は「行きたい場所があるんだ」と言った。どこに行くのかと思えば、小綺麗な家についた。 男は「危険がないか中を見てくる」と言って私に外で待つように指示をした。しばらくすると男が出てきて私に入るように言った。 恐ろしいほど殺風景な家だった。広い区画にはテーブルと椅子しかなく、キッチンには必要最低限
※創作大賞2024 漫画原作部門 に応募いたしました。第1話:約2700字、第2話:約3000字、第3話:約2300字の合計7000字です。お時間のある時にお読みいただけると幸いです。では、以下あらすじと本編です。どうぞよろしくお願いいたします! あらすじ 家族の敵を討って空っぽになった「私」と、刺客に狙われ続ける男。2人が見出す「生きる意味」とは。 ドサリ、と男は倒れると、もう二度と動くことはなかった。私が放った一撃は正確に、確実に男を死に至らしめた。 (
おっ、おまえさん、なんかに悩んでる顔してるな。ひょっとして、自分の内面と外面のギャップに悩んでるんじゃないか? はは、図星だっただろう。あらかた、仕事ではみんなに好かれようと良い人を演じているけど、実はそんなにたいそうな人間じゃないってところだろう? え? かお見ればわかるんだよ、それくらい。なにせもう86年もオセロとして生きてるからね。 オセロってのもなかなか大変なんだぞ。まず、盤にならべられる。よし、今日は白だぞ、と白の気分でいたら、とつぜん黒に変えられる。仕
みなさま、いつもスキやコメントをいただき本当にありがとうございます! 今年の4月頃からnoteに小説などの文章の投稿を始めました。きっかけは、閉塞感の漂う毎日を変えたいと思ったことと、自分も何か創作してみたいと思ったことでした。 約2か月たった今、ここに気づきや感想を記しておきたいと思います。 ※つらつらと書いていたら、およそ2500字のボリュームになりました。お時間のある時にお読みください。 1.小説を書くと仕事のストレスが緩和された この感想を抱くのは、私
西への旅の途中で、ある異国の地を訪れた。 正午を告げる鐘がなったその時。ところどころ崩れてぼろぼろになった石造りの神殿に群衆の大合唱が響いた。 「神よ、我らをお助けください!」 「お助けください!!」 皆、つぎはぎだらけの貧相な服を着て、天を仰いでいる。虚ろな目で必死に叫んでいるさまは、まるで酒や薬物におぼれているかのようだった。 (……すごいところに来てしまったな) 私は内心苦笑いをした。 この国の住民は、みな神の訪れを待っているらしい。 旅荷の
俺はとなりにいるあさがおを横目で見て舌打ちをする。 今日もきれいに咲いていやがって。一体誰のおかげでここまでこれたと思っているんだ。 いつも注目の的は、あさがおだ。 支柱である俺にはだれも見向きもしない。 この前、子どもが熱心に書いてた絵日記には、やっぱりお前しか描かれてなかった。 きっと、俺はこのまま誰の記憶にも残らず一生をおえるんだろう。 ある日、あさがおに異変が起きた。 鮮やかな色は褪せ、しなしなっとして元気がなくなってきている。 なんだなんだ、調子が狂うな。
「ハイ、次の人ー」 そう呼ばれると、僕はいそいそとポケットの中からお金を取りだして渡した。 「ん? 足りないですよ。あともうちょっとないですか?」 「えっ……」 あいにくもう手持ちはない。目の前が真っ暗になる。 「じゃ、戻ります?」 係の人は現世の方向を指で示してみせる。 「いや……それはいやです」 控え目ながらもはっきり言うと、係の人の目が丸くなった。 三途の川の渡し賃がたりない。 ああ、どこへ行っても僕は中途半端だ。 お金がたまるまで、三途の
2010年6月8日(土曜日) 今日、お父さんに、「ヒトは死ぬ間際、何個くらい記憶を持っているの?」と聞いてみた。お父さんは困ったように、「さあ…1000個くらいかな」と答えたわ。すごい! そんなに多いなんておどろき。私はまだ小さいから少ないのね。だって、私の記憶を数えても、20個くらいにしかならなかったもの。 まずはこの前お父さんとお母さんと一緒に行った動物園の記憶でしょ。次は、この間の誕生日のお祝い。他にはみかちゃんにきれいな小石をもらったこととか、私が転んだとき、
仲間と一緒にいた日々は、まるでステンドグラスのように輝いていた。 でも、僕たちは引き裂かれてしまった。 それからは深い孤独にさいなまれた。 広い沖の上にいるのは、僕一人だけだった。 仲間を目指して、僕はひそかに移動を始めた。 それがたとえ亀の歩みのような速度でも。 頭上を颯爽と飛び越す鳥に笑われようとも。 できることは、ただ愚直に前に進むことだけだった。 気が遠くなるような時間がたった。 多くの生物が生まれ、絶滅し、また生まれた。 仲間の姿はまだ見えない。 鳥たち
「私、あなたに殺してほしいの」 女は言った。僕は困ってしまった。普通こういうセリフは、感情表現として愛する男に言うものじゃないだろうか。断然僕なんかに言うものじゃない。 ……死神の僕なんかに。 「うーん、こういうパターンは初めてだな。多くの人は、殺さないでって言うんだけど」 女は面白そうに笑い、 「あなた、死神よね?いったいどんな人選で人に死をもたらしてるの?」 と興味津々に聞いた。 「それは企業秘密で言えないんだ」 「ふーん。つまんないの。でも私のところに来てく
君は変わっている。 僕は君の使っている歯磨き粉のチューブを首をかしげて見る。それは限界まで絞り出されて、まるで金属板のように平らだ。 君は歯磨き粉を延命させるのがうまい。指でしごいて押し出したり、チューブに空気を入れて振ったり、その執念たるや恐ろしい。 僕から見たらもう捨てるべきなのに何をそんなに執着しているのだろう。これも君の個性の1つだと目をつぶっていたが、とうとうこらえきれずに聞いてしまった。 「いったい、何でそんなに最後まで使い切ることにこだわっているん