【掌編小説】オセロ (583字)
おっ、おまえさん、なんかに悩んでる顔してるな。ひょっとして、自分の内面と外面のギャップに悩んでるんじゃないか?
はは、図星だっただろう。あらかた、仕事ではみんなに好かれようと良い人を演じているけど、実はそんなにたいそうな人間じゃないってところだろう? え? かお見ればわかるんだよ、それくらい。なにせもう86年もオセロとして生きてるからね。
オセロってのもなかなか大変なんだぞ。まず、盤にならべられる。よし、今日は白だぞ、と白の気分でいたら、とつぜん黒に変えられる。仕方ないなと黒の気分になったら、また白に変わる。その繰り返し。
自分を保つために、白が本当の自分で、黒は偽りの自分だと思おうとしたけど、苦しくなってやめたな~。盤に置かれた後、ゲームが終わるまでずっと黒なんてこともざらにあるからねぇ。
やっぱりもう、これは慣れだと思ったよ。オセロは演じるしかないのさ、そのときどきの色を。
……どうしたんだ、そんな悲しそうな顔して。……まあ、カッコつけて言っちゃったけどさ、正直いうと、一番安心するのはオセロ盤のケースに立ててしまわれているときなんだよな。そこだとどっちにも染まらないでいられるんだよ。
おまえさんも、そんな場所を見つけたらどうだい?
でも、最近はオセロで遊ぶ人も少なくなったな。今から振り返ると、盤上の舞台に立ち続けていたあの日々も悪くなかったよ。頑張れよ、若いの。
(おわり)
最後まで読んでいただいて本当にありがとうございました!
今日もみなさまが穏やかに眠りにつけますように!
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