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#創作大賞2024 #漫画原作部門 仇討ちのその後 最終話

あらすじ
 家族のかたきを討って空っぽになった「私」と、刺客に狙われ続ける男。男もまた、家族の敵である王を討った後、虚しさにとらわれていた。過去を清算するために、男と「私」は刺客を放っている王の弟を倒しに向かう……。




 先代の王の弟は、王が殺されたのを機に、西のはずれにある小さな城に暮らすようになったとのことだった。

 先代の王を補佐する立場にいながら、悪政に対して見て見ぬふりをしていたということで、民からの評判は悪かった。噂では、新しい国王が即位したことにより、国政内での権力も失っているという。

 遠目からみると、やはり先代の王の弟ともあって城は金銀で装飾されていて豪華だった。夜になるのを待つと闇に紛れて城へ侵入した。

「……おかしいな。見張りが一人もいない」
 男が周りを見回しながら声をひそめて言った。本来このような城には見張りや護衛が大勢いておかしくない。
 あたりを警戒しながら城の中へと入る。

「これは驚いた……」
 男があっけにとられた様子で言った。同感だった。

 城の中は、豪華な外面とは違って、ボロボロだった。至るところに蜘蛛の巣がはりめぐらされているし、ところどころ壁が崩れ落ちている。手入れをされている様子はない。

「……人が住んでいるのを疑いたくなるね」

「あぁ。なんて簡単な侵入だろう」

 一つだけ明かりがついている部屋が見えた。気配を殺して近づくと、わずかに戸が開いていた。その隙間から中を覗き見ると、一人の男が酔いつぶれて机に突っ伏していた。

 もとは高価だったことがかろうじて分かるボロボロの服を着て、伸び放題の髪を無造作に束ねている。何やら書き物をしていたらしく、机には書きかけの文章が置いてある。部屋の中には、債権の束が置かれていた。

「……あいつか?」

「……あぁ。昔とは見違えるが」

 じわり、と男から殺気があふれるのを感じた。男は静かにその部屋の中に入った。

 先代の王の弟はぱっと起き上がって、叫んだ。
「誰だ!」

「……おれだ。お前を殺しにきた。」

「……誰だ?」

「本当にわからないのか? ……騎士団長だった、アーレだ」

「……!」
 私も先代の王の弟と一緒に目を見開いた。 
 男の予想外の身分に、どうりで女性に声をかけられるわけだ、という変な感想しかわいてこなかった。

「剣の腕だけの成り上がり者めが。よくも…兄上を殺したな!!」
 彼はわめきながら男に切りかかった。が、その重そうな剣を素早く扱える力はなく、容易に男は攻撃をかわして喉元に剣を突きつけた。

「こ、殺せばいい!」
 逆上して彼は言った。

「ずっとお前を殺すことだけを目的に生きてきた! そのために全財産を売り払って蓄えも底をつきた!! お前が憎くて憎くてたまらない!!
 私が死んだら、莫大な保険金がおりることになっている。その金は全部お前を狙う刺客に使ってくれと今、書いていたんだ。死んだ後も私はお前を狙い続けるぞ!!」

……なんてざまだ。
 私は心の中で軽蔑しながら男に言った。

「さっさと殺してしまおう。遺言なんて破り捨ててしまえば済む話だ」

 私の言葉には応じず、男は黙って先代の王の弟を見つめ、やがて剣をおろした。

「……もういい。帰ろう」

「どうして? 今殺さないと刺客が襲ってくる。またもとの生活のままだ」

「いいんだ。……やつはまるでおれだ」

 思いつめたような口調に、私は黙ってうなづくほかなかった。


 私たちが部屋を出ようとすると、さっきとはうってかわって頼りない声が聞こえた。

「……待ってくれ。殺してくれ。頼む。死のうと思っても勇気が出なかったんだ。もう疲れた。終わらせてくれ」

 男は数秒、何かを考えているようだったが、くるりと向きを変えると、彼の前までつかつかと歩き、懐から無造作に何かの包みを出して机に置いた。

「……酒なんかやめて茶でも飲め。俺の息子が好きだったんだ。酔いざまし程度にはなるだろう」


 そう言うと、部屋に背を向けてそのまま歩き始めた。私は呆然としている彼をちらりと一瞥すると、男を追いかけた。

 城から出て、私たちは家に戻った。二人とも、しばらく何も言わなかった。男はぽつりと言った。

「もう、虚しさに酔うのはやめる」

「……うん」

「過去を完全に忘れることなんてできないが、仕切り直してゼロから生きてみようと思う」

 伝えたいことは山ほどあったが、言葉がうまく出てこなかった。

「……応援するよ」

「ありがとう。あと、おれはもう剣を握らない」

「……! どうして、強いのにもったいない」

「過去と決別したいんだ」

「じゃあ、これからどうするんだ」

「この家に落ち着いて、畑でもやろうかな」

「はは、笑わせるよ」

 それから男は刺客と戦うのをやめた。刺客が攻撃を仕掛けてきても、刺客の体力が尽きて退散するまで、のらりくらりと攻撃をかわし続けた。そんなことを繰り返すうちに、刺客はぱったり来るのをやめた。






 5年後。

 私は男の養子となり、光栄なことにこの国の騎士として働かせてもらっている。男と、そして妻子とともに、あの家に住んでいる。
 
 男、正確には元騎士団長アーレは、宣言通り畑をやったものの、作物を全部枯らしてダメにしてしまった。今は道場で子ども達に剣を教えるという仕事に落ち着いた。

「おじいちゃん、聞いたよ。前の国王を倒したんだね、正義の味方だね」

 私の息子が目をキラキラさせて、アーレに声をかける。彼が前の残虐な国王を倒した話はこの国では結構有名だった。

「……そんなことはないさ。何かに酔わないと生きていけない、ただの愚かな男の話さ」

 私はその言葉を聞いて、久しぶりにアーレの過去を思い出した。

 よく晴れた日の午後。すっかり家具が増えた家の一階で、男が気持ちよさそうに外を見ながら椅子に背を預けてくつろいでいた。思わず声をかける。

「なぁ、もう死にたいと思わなくなったよな?」

 男は茶をうまそうにすすりながら笑顔で答えた。
「あぁ、今の生活に満足しているよ」

 そして、照れくさそうに続けた。

「……それと約束通りおれの命を守ってくれてありがとうな」


<完>



 ここまで読んで下さった方、心から感謝いたします。彼らの話におつきあいいただき、本当にありがとうございました。

 私が日々考えている、生きるとは何か、を表現したいと思ってこの話をかきました。まだ深められてないところは多々ありますが、今の自分で表現できるところまで創作してみました。

 重ねてになりますが、お読みいただき本当にありがとうございました!


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