透瑠

短い小説などを書きます。この世界について考えることが好きです。読んでくださった方が何か…

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短い小説などを書きます。この世界について考えることが好きです。読んでくださった方が何かを感じとっていただけたらとても幸せです。透瑠(とおる)と読みます。日中は会社員しています😊

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【短編小説】三途の川の渡し賃が足りない

「ハイ、次の人ー」 そう呼ばれると、僕はいそいそとポケットの中からお金を取りだして渡した。 「ん?足りないですよ。あともうちょっとないですか?」 「えっ……」 あ…

透瑠
5日前
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【短編小説】支柱

俺はとなりにいるあさがおを横目で見て舌打ちをする。 今日もきれいに咲いていやがって。一体誰のおかげでここまでこれたと思っているんだ。 いつも注目の的は、あさがお…

透瑠
1日前
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【短編小説】記憶の編纂

 2010年6月8日(土曜日)  今日、お父さんに、「ヒトは死ぬ間際、何個くらい記憶を持っているの?」と聞いてみた。お父さんは困ったように、「さあ…1000個くらいかな」…

透瑠
8日前
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【掌編】インド亜大陸

仲間と一緒にいた日々は、まるでステンドグラスのように輝いていた。 でも、僕たちは引き裂かれてしまった。 それからは深い孤独にさいなまれた。 広い沖の上にいるのは、…

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10日前
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【短編小説】よく生きる、とは

「私、あなたに殺してほしいの」  女は言った。僕は困ってしまった。普通こういうセリフは、感情表現として愛する男に言うものじゃないだろうか。断然僕なんかに言うもの…

透瑠
2週間前
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【短編小説】君が限界まで歯磨き粉を絞る理由

 君は変わっている。  僕は君の使っている歯磨き粉のチューブを首をかしげて見る。それは限界まで絞り出されて、まるで金属板のように平らだ。  君は歯磨き粉を延命さ…

透瑠
2週間前
13

最近、村上春樹の短編小説「夜のくもざる」を読んで良い文章とは何ぞや、について研究中です。勉強になります。読みやすく読者の皆さんに興味をもってもらえるような文章を書けるよう、修行していきたいと思います。

透瑠
2週間前
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【短編小説】石鹼に励まされた話

 もし石鹼と会話ができる能力を手に入れてなかったら、僕はいまだに出口の見えない人生の迷路をさまよっていたに違いない。石鹼のおかげで僕は生きる指針を手に入れること…

透瑠
2週間前
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【掌編】夕暮れの君

日が暮れようとしていた。 夕焼けのあざやかなオレンジが赤に変わる。 赤は夜と混じり、細く頼りなくなっていく。 でも、それが闇に吞まれて消えていく瞬間の輝きが僕は好…

透瑠
2週間前
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【旅行記】おばちゃんのおせっかい

 精神がどん底の状態になってしまった前職を辞めてから、一週間ほど旅をしたことがあります。  地元新潟から北海道の知床までの旅でした。  1年たった今でも鮮明に思…

透瑠
3週間前
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【短編小説】一番高いハンドクリーム

僕の手は訴えかけている。 ハンドクリームを塗ってくれと。 ひび割れて限界だ、と。 僕は無視する。 そんなの面倒くさい。 他にもたくさんやることがあるんだ。 日々は忙…

透瑠
3週間前
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【短編小説】分断がある国 あとがき

 みなさま、物好きにこのあとがきまで来てくださって本当にありがとうございます!  【短編小説】分断があった国はいかがでしたでしょうか。 論理が破綻しているところ…

透瑠
3週間前
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【短編小説】分断がある国

 その国の人たちには、妙に隔たりがあった。  複数の民族がいるわけではない。  言語が違うわけでもない。  ましてや、経済的な格差がはげしいわけでもない。  他国…

透瑠
3週間前
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勇気をもって自分のことを話してみる大事さ

 図書館で、こんなおしゃれな装丁の本を見つけました。  その名も「あらゆる出会いがチャンスに変わる 「第一印象」の魔法 」。  個人的にとても学びになった部分が多…

透瑠
4週間前
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最近、趣味のDIYについての投稿が多く、このアカウントが混迷を極めていましたが、別でアカウントを作ることにしました。こちらで投稿いたします。DIYの木:https://note.com/diy_tree 
よろしくお願いいたします。

透瑠
1か月前
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「短編小説 娯楽屋」のあとがき

 この世界が実は美しかったんだ、と私が気づいたのは、  精神がどん底の状態になってしまった前職を辞め、一週間ほど旅をしたときのことでした。  青春18きっぷの進化…

透瑠
1か月前
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【短編小説】三途の川の渡し賃が足りない

【短編小説】三途の川の渡し賃が足りない

「ハイ、次の人ー」
そう呼ばれると、僕はいそいそとポケットの中からお金を取りだして渡した。

「ん?足りないですよ。あともうちょっとないですか?」

「えっ……」
あいにくもう手持ちはない。目の前が真っ暗になる。

「じゃ、戻ります?」
係の人は現世の方向を指で示してみせる。

「いや……それはいやです」
控え目ながらもはっきり言うと、係の人の目が丸くなった。

三途の川の渡し賃がたりない。
ああ

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【短編小説】支柱

【短編小説】支柱

俺はとなりにいるあさがおを横目で見て舌打ちをする。
今日もきれいに咲いていやがって。一体誰のおかげでここまでこれたと思っているんだ。

いつも注目の的は、あさがおだ。
支柱である俺にはだれも見向きもしない。

この前、子どもが熱心に書いてた絵日記には、やっぱりお前しか描かれてなかった。

きっと、俺はこのまま誰の記憶にも残らず一生をおえるんだろう。

ある日、あさがおに異変が起きた。
鮮やかな色は

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【短編小説】記憶の編纂

【短編小説】記憶の編纂

 2010年6月8日(土曜日)
 今日、お父さんに、「ヒトは死ぬ間際、何個くらい記憶を持っているの?」と聞いてみた。お父さんは困ったように、「さあ…1000個くらいかな」と答えたわ。すごい!そんなに多いなんておどろき。私はまだ小さいから少ないのね。だって、私の記憶を数えても、20個くらいにしかならなかったもの。

 まずはこの前お父さんとお母さんと一緒に行った動物園の記憶でしょ。次は、この間の誕生

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【掌編】インド亜大陸

【掌編】インド亜大陸

仲間と一緒にいた日々は、まるでステンドグラスのように輝いていた。
でも、僕たちは引き裂かれてしまった。

それからは深い孤独にさいなまれた。
広い沖の上にいるのは、僕一人だけだった。

仲間を目指して、僕はひそかに移動を始めた。

それがたとえ亀の歩みのような速度でも。
頭上を颯爽と飛び越す鳥に笑われようとも。
できることは、ただ愚直に前に進むことだけだった。

気が遠くなるような時間がたった。

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【短編小説】よく生きる、とは

【短編小説】よく生きる、とは

「私、あなたに殺してほしいの」
 女は言った。僕は困ってしまった。普通こういうセリフは、感情表現として愛する男に言うものじゃないだろうか。断然僕なんかに言うものじゃない。

……死神の僕なんかに。

「うーん、こういうパターンは初めてだな。多くの人は、殺さないでって言うんだけど」

女は面白そうに笑い、
「あなた、死神よね?いったいどんな人選で人に死をもたらしてるの?」
と興味津々に聞いた。

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【短編小説】君が限界まで歯磨き粉を絞る理由

【短編小説】君が限界まで歯磨き粉を絞る理由

 君は変わっている。
 僕は君の使っている歯磨き粉のチューブを首をかしげて見る。それは限界まで絞り出されて、まるで金属板のように平らだ。

 君は歯磨き粉を延命させるのがうまい。指でしごいて押し出したり、チューブに空気を入れて振ったり、その執念たるや恐ろしい。

 僕から見たらもう捨てるべきなのに何をそんなに執着しているのだろう。これも君の個性の1つだと目をつぶっていたが、とうとうこらえきれずに聞

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最近、村上春樹の短編小説「夜のくもざる」を読んで良い文章とは何ぞや、について研究中です。勉強になります。読みやすく読者の皆さんに興味をもってもらえるような文章を書けるよう、修行していきたいと思います。

【短編小説】石鹼に励まされた話

【短編小説】石鹼に励まされた話

 もし石鹼と会話ができる能力を手に入れてなかったら、僕はいまだに出口の見えない人生の迷路をさまよっていたに違いない。石鹼のおかげで僕は生きる指針を手に入れることができたんだ。

 流れ星に必死に願い続け、ある日ついにその能力を手に入れた。

 急いで家に帰ると、流しの隅に置いてある古びた石鹼に声をかけた。

「あのー、石鹼さん」

 石鹼はぎょっとして僕を見る。そりゃそうだ。今まで話しかけられるこ

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【掌編】夕暮れの君

【掌編】夕暮れの君

日が暮れようとしていた。
夕焼けのあざやかなオレンジが赤に変わる。

赤は夜と混じり、細く頼りなくなっていく。
でも、それが闇に吞まれて消えていく瞬間の輝きが僕は好きだ。

――まるで血のように濃い赤だ。

そんな赤のような君に出会った。

出会ってすぐ、なぜだか僕は終わりを予感した。でも、君に惹かれずにはいられなかったんだ。

透明な肌。
血色のない唇。
傷んだ無機質な髪。

まるで色など持ち合

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【旅行記】おばちゃんのおせっかい

【旅行記】おばちゃんのおせっかい

 精神がどん底の状態になってしまった前職を辞めてから、一週間ほど旅をしたことがあります。

 地元新潟から北海道の知床までの旅でした。

 1年たった今でも鮮明に思い出せる言葉があります。

 ――「一番高いハンドクリームを買いなさい」

 という言葉です。

 以下、当時の様子を回想して綴っていきたいと思います。

あらすじ:
 知床のおいしい食材を食べたいと思った私は、地域の居酒屋に向かいます

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【短編小説】一番高いハンドクリーム

【短編小説】一番高いハンドクリーム

僕の手は訴えかけている。
ハンドクリームを塗ってくれと。
ひび割れて限界だ、と。

僕は無視する。
そんなの面倒くさい。
他にもたくさんやることがあるんだ。

日々は忙しく過ぎていく。

ある人が尋ねた。
「手、痛くないの?」

……痛い?
そんな感覚、すっかり忘れていた。

気づけば鈍感になっていた。
麻痺していたんだ。

自分の痛みに。

言葉を返さない僕にため息がふってきて、
トン、と目の前

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【短編小説】分断がある国 あとがき

【短編小説】分断がある国 あとがき

 みなさま、物好きにこのあとがきまで来てくださって本当にありがとうございます!

 【短編小説】分断があった国はいかがでしたでしょうか。
論理が破綻しているところがなければ良いのですが…(笑)。

 さて、私が最近考えていることなんですが、

「相手が自分と別の世界の住人だと感じる」時ってないですかね?

 私は結構あって。
出会った瞬間、「あーなんかこの人とは話が合わないかもな」みたいな(笑)

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【短編小説】分断がある国

【短編小説】分断がある国

 その国の人たちには、妙に隔たりがあった。

 複数の民族がいるわけではない。
 言語が違うわけでもない。
 ましてや、経済的な格差がはげしいわけでもない。

 他国と比べると均一的な国なのに、なぜか隔たりが生まれ、人々が2つに分かれてしまうのだ。

 例えば、4人で議論を始めると、自然と2人ずつに分かれてそれぞれで話が盛り上がり、全員での議論が進まない。

 小学校でいすとりゲームをしようと、ク

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勇気をもって自分のことを話してみる大事さ

勇気をもって自分のことを話してみる大事さ

 図書館で、こんなおしゃれな装丁の本を見つけました。
 その名も「あらゆる出会いがチャンスに変わる 「第一印象」の魔法 」。
 個人的にとても学びになった部分が多かったので感想を書いていきます。

1.私は自分から話題を提供することが少ないことに気づいた。

 上記の本では、コミュニケーションの好感度が上がる行動として以下の4つを挙げていました。

1.相手を肯定的に評価する
2.つながりを示す。

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最近、趣味のDIYについての投稿が多く、このアカウントが混迷を極めていましたが、別でアカウントを作ることにしました。こちらで投稿いたします。DIYの木:https://note.com/diy_tree 
よろしくお願いいたします。

「短編小説 娯楽屋」のあとがき

「短編小説 娯楽屋」のあとがき

 この世界が実は美しかったんだ、と私が気づいたのは、
 精神がどん底の状態になってしまった前職を辞め、一週間ほど旅をしたときのことでした。

 青春18きっぷの進化版、北海道&東日本パスを使って地元新潟から知床まで電車で旅をしました。
 知床の雄大な大自然を見た時に思いました。

「ああ、なんて自然は綺麗なんだろう」と。

 世界の見え方を複雑にしているのは私であって、世界自体は変わらずそこに美し

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