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扉の向こう

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天秤

天秤

どんな風景を想い
どんな世界に傷ついて
やがてそれが
憎しみに変わってしまうのだろう

少年は思った
道端で転んだ傷のように
どんな悲しみも
消えてくれたら
いいのに

正義と正しさが
あやふやな境界線で
戦闘していた
敵は
異なる正義だった

この世界に
勧善懲悪の物語のような
すっきりした
コントラストは存在しない

それぞれの立場
それぞれの正義
心は如何様にも熱くなり
時に暴走して
サイレ

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秋を迎えて

秋を迎えて

森は静かに
秋を迎えていた
枯葉の囁き
川のせせらぎが
聞こえて
そこら中で金木犀が
香っていた

北の地方では
冬を知らせる雪虫の大群が
あちこちで目撃された

木の実の不作
川の氾濫
季節外れの開花

気候は容赦なく変化していて
自然はそれを
繊細にキャッチしていた

変化は唐突に見えて
兆しがちゃんとある

別に気にも留めないような
小さな変化も

君との暮らしの中で
生まれる細やかな変化も

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打ち上げ花火

打ち上げ花火

重たい時計を背負った小人と
軽い時計をポケットに仕舞い込んだカンガルー
それは気まぐれに
季節ごと
代わる代わる
この街にやってきて
時の長さを
自在に錯覚させた

この街の指揮者は
それぞれの心の育みにあわせて
毎日かかさず
タクトを振っていた

永遠に終わらない旅だと
嘆いていた
亀の親子は
沈みゆく夕日を見つめて
この世の定めを知った

スピードが増しているのは
人間の住む社会で
ムク

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まあるい夕日

まあるい夕日

ある日
夕日があんまり穏やかに
微笑んでいたので
自分を許してみた

すると
心の中にあった
許せない。という鎧が
1枚1枚はがれ落ち
清濁ごちゃまぜの
生身の肉体は
羽根を広げ
安堵と慈しみが
身体中を巡った
そうして
自分を縛りつけていた
ジャッチの旗が
みるみる小さくなって
一輪の花になった

橙色のまあるい夕日に
折り合いのつけ方を
包み隠さず
打ち明けた

許さないでいた
月日の悲しみも

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父と娘

父と娘

あまり言葉を
交わさない
親子だった

何時からだろう
いや
ずっとずっと昔から
ふたりは
戸惑いの日々でした

あなたに投げかけて
踵を返した
私の問いは
最後まで
分からずじまいのまま
幕を閉じた

伝えたかった想いは
溢れ出るというより
ゆっくりと時間をかけて
抽出される
重たい液体のようで
誰にも見られたくもなく
それを自ら認めてしまうことが
恥ずかしさで
いたたまれないのでした

お別れ

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空

都会とも田舎とも
どこか違った風景の
この街は
ふと眺めるといつも
朗らかな時を演出していた

街路樹を歩く僕は
悲しいほど美しい冬空に
涙を誘われた

幸せの羽根を乗せた気球が
そこかしこに浮遊していて
ふと手を伸ばせば掴めそうな距離で
僕の周りを
くるくる回っていた

本能と欲望の瞳は
幸せを望み
それが
快楽なのか幸せなのか
ぼんやりとした意識の中では
認識を取り違えたまま
残りの砂時計が物

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「冬の木漏れ日」

「冬の木漏れ日」

あとどれくらい
この道は続いているのだろう

私はいま生きている
そうして
それが永遠ではないことも
生まれた瞬間から約束されている

向こうの見届け人が
遥か遠くに霞んでいた頃はとうに過ぎて
いつの間にか
周囲のあちらこちらで
その足音が聞こえてきた

この先
あとどれくらい
季節をめぐるのだろう

冬の木漏れ日に
天使と堕天使がはしゃいでいた

人生の最終地点を歩く
その背中は何を想う

冬の訪れ

冬の訪れ

また冬がやってきた

あっという間に日が暮れていく
その様は
人生の短さを
そっと忍ばせているようで
時の贈り物は深淵だ

未来への眼差しも
季節ごと
年を追うごとに
暗転を変えて行く

何ともなしに眺めた街の光景に
心が揺さぶられ
たまらなく愛おしく
それでいて
相変わらず
つまらないことで
右往左往して
気が付けば
去年の暮れと
それほど変わらない
重たい荷物を抱えていた

もうすぐ
雪が降る

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香り

香り

不思議なくらい
悲しい記憶が似ている
ふたりだった

君にエピソードを話すたびに
「僕もそうだった。」
と返ってきて

同じ香りを
どちらからともなく
察知したのか
偶然なのか
あの日のふたりの出逢いを
心から祝福したい

いつだって
帰りたい場所は
街の喧騒から離れた
森の小路

耳を澄ますと
川のせせらぎが聞こえてきて
木々は小鳥の訪問を
心待ちにしていた
そこでは
あらゆる生き物が
深呼吸を

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夏の終わり

夏の終わり

夕暮れ時の
ひぐらしの声    

熟れたトマトと
揺れる風鈴

クワガタの散歩と
蝉の合唱

ハイビスカスと
かき氷

汗だくのキミと
冷やしそうめん

スケッチブックに描かれた
夏の日は
やけにキラキラ輝いていて

不意打ちに
切なさがこみ上げる

8月の終わり
はしゃぎ疲れた子どもたちが
豆腐屋のラッパの声を合図に
帰路に着いた頃
夏は静かに身支度を整え
この世に
さよならを告げた

ひまわ

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幸せの遣い

あなたが不自由だと思ったら
そこから目を背けて
やせ細った暗闇の道を生きるだろう

あなたが自由だと思ったら
ここから羽を広げて
果てしない空を駆けめぐるだろう

自由だと感じる肌感覚は
人それぞれだ

分岐点であなたのもとへ舞い降りる
幸福の遣いは
思いがけない姿で現れる

ずっしりと重たい哲学書を持って
あなたの心の扉を叩いたのは
都会の喧騒から離れた山奥で
静かに暮らしている
ひとりの老人だ

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海

海を見ていると
心のわだかまりが消えていく
ここに存在していることを
無条件に肯定してくれているようで
ふっと心がはしゃぐのだ

いつからだろう
ここからはぐれてしまうことを
恐れるようになったのは

太陽をオレンジ色に塗ったら
よく見てみなさい
太陽はそんな色ですか!と
叱れた

大多数の正解が
教室の片隅で萎縮している
あの子を
息苦しくさせていた

周りが笑っていたら
一生懸命笑おう
みんな

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「しなやかにゆらめいて」

「しなやかにゆらめいて」

その心の枝の先から
こぼれた雫
あふれた液体
それは
今日まであなたが
見ないようにしてきた
あなた自身です

あなたのサイレン
あなたのチクチク
あなたのズキズキ
刺さったトゲと
振動と

時折あなたは
消化しきれない
尖った小石を
かき集めて
ジャリジャリ
ガリガリ
裸足で歩いて
そうやって
自らの痛みを
わかったつもりになって
同じところを
ぐるぐる回って
そうやって
一進一退
地上の上を歩

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「問われる心へ」

「問われる心へ」

ある日
春風に後押しされるように
船に乗り込んだ
あれやこれや現実の重石を
海に放り投げ
まるっきり軽くなった
心持ちで
風を切った

深い眠りに就いて
朝ふと目覚めると
昨日の私は何処にもいない
あの気持ちの高揚は
いったい
何だったのだろう
しばらくぼんやりと
時計の針を見つめていた

昨日と今日は
ベルトコンベアにのせられた
旅行鞄のように
繋がってなどいないのだ

真夜中に描いた
明日の模

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