fuwari

詩を綴ることが好きです。

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雪の日

雪が降った 少年は まだ誰も踏み入れていない 未開の地に出会ったかのような 興奮を味わいながら 雪一面の原っぱに 足跡をつけた サクッ サクッ サクッ 心地良い足音 寒さに震えた子犬は そんな少年をよそに 暖炉を探した おやじは明日の会合を心配して 気もそぞろに雪道を歩いて 毛糸の手袋を 道端に落としたまま 帰路についた それは おやじにとって特別な存在だった 雪はロマンチストだった 午前零時を過ぎると 雪はしんしんと降り積もり 昨日までの風景と まるで違う 白

    • 報酬

      どういうわけか 働き蜂が 彼らの好物を せっせ せっせと 街中に ばら撒いた 彼らはその時 満腹だった すると 目の前に 落ちてきた好物は 巧みに彼らに働きかけた 彼らは 拾うつもりはなかったのに 迂闊にその好物を手にすると あれよあれよと 満腹中枢が破壊され あっという間に 日が暮れるまで 貪り続けた この惑星の科学者は 遺伝子に組み込まれた 報酬系ホルモンに目を向けた 未知への探求には希望があるが 尽きぬ欲望には ただ虚無の風が そよぐばか

      • 天秤

        どんな風景を想い どんな世界に傷ついて やがてそれが 憎しみに変わってしまうのだろう 少年は思った 道端で転んだ傷のように どんな悲しみも 消えてくれたら いいのに 正義と正しさが あやふやな境界線で 戦闘していた 敵は 異なる正義だった この世界に 勧善懲悪の物語のような すっきりした コントラストは存在しない それぞれの立場 それぞれの正義 心は如何様にも熱くなり 時に暴走して サイレンが鳴り響く 『すばらしい新世界』では 感情は必要のない悪だと 切り捨てられて

        • 秋を迎えて

          森は静かに 秋を迎えていた 枯葉の囁き 川のせせらぎが 聞こえて そこら中で金木犀が 香っていた 北の地方では 冬を知らせる雪虫の大群が あちこちで目撃された 木の実の不作 川の氾濫 季節外れの開花 気候は容赦なく変化していて 自然はそれを 繊細にキャッチしていた 変化は唐突に見えて 兆しがちゃんとある 別に気にも留めないような 小さな変化も 君との暮らしの中で 生まれる細やかな変化も ほんとうは みんな感受していて あらゆる生命体は 影響し合って 共存している

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          56本

        記事

          打ち上げ花火

          重たい時計を背負った小人と 軽い時計をポケットに仕舞い込んだカンガルー それは気まぐれに 季節ごと 代わる代わる この街にやってきて 時の長さを 自在に錯覚させた この街の指揮者は それぞれの心の育みにあわせて 毎日かかさず タクトを振っていた 永遠に終わらない旅だと 嘆いていた 亀の親子は 沈みゆく夕日を見つめて この世の定めを知った スピードが増しているのは 人間の住む社会で ムクドリや渡り鳥 キツツキの 飛行スピードは 今も昔も 変わらなかった 夏になる

          打ち上げ花火

          まあるい夕日

          ある日 夕日があんまり穏やかに 微笑んでいたので 自分を許してみた すると 心の中にあった 許せない。という鎧が 1枚1枚はがれ落ち 清濁ごちゃまぜの 生身の肉体は 羽根を広げ 安堵と慈しみが 身体中を巡った そうして 自分を縛りつけていた ジャッチの旗が みるみる小さくなって 一輪の花になった 橙色のまあるい夕日に 折り合いのつけ方を 包み隠さず 打ち明けた 許さないでいた 月日の悲しみも あなた自身です 今までありがとう。と 労ってあげて下さい 何処からともなく

          まあるい夕日

          「旅路」

          静けさの中で 森は緑に色付き スミレや菜の花 勿忘草も 次々に蕾を開いた そんな光景を見るのが 彼女には何よりの 贅沢な時間で 心は一段と弾むのだった 風がそよぎ 揺れるともなく 揺れる樹木 うたう小鳥たち 切り株のベンチに座って 彼女がページを走らせているのは 漱石の『明暗』だった ああでもない こうでもない 果ては ひょっとして 思惑 警戒心 猜疑心 打算 自惚れ プライド 嫉妬 保身 エゴ そして 愛 100年以上前の物語に 重なる人間模様 かくも人は 変わらな

          「旅路」

          父と娘

          あまり言葉を 交わさない 親子だった 何時からだろう いや ずっとずっと昔から ふたりは 戸惑いの日々でした あなたに投げかけて 踵を返した 私の問いは 最後まで 分からずじまいのまま 幕を閉じた 伝えたかった想いは 溢れ出るというより ゆっくりと時間をかけて 抽出される 重たい液体のようで 誰にも見られたくもなく それを自ら認めてしまうことが 恥ずかしさで いたたまれないのでした お別れの涙を あなたの前で 流すことさえ 憚れて 心が素直さを取り戻す 唯一の在処で

          父と娘

          都会とも田舎とも どこか違った風景の この街は ふと眺めるといつも 朗らかな時を演出していた 街路樹を歩く僕は 悲しいほど美しい冬空に 涙を誘われた 幸せの羽根を乗せた気球が そこかしこに浮遊していて ふと手を伸ばせば掴めそうな距離で 僕の周りを くるくる回っていた 本能と欲望の瞳は 幸せを望み それが 快楽なのか幸せなのか ぼんやりとした意識の中では 認識を取り違えたまま 残りの砂時計が物凄い速さで 消えて行った 僕らの街に越してきたならず者は 長年の悪癖を捨てきれ

          「冬の木漏れ日」

          あとどれくらい この道は続いているのだろう 私はいま生きている そうして それが永遠ではないことも 生まれた瞬間から約束されている 向こうの見届け人が 遥か遠くに霞んでいた頃はとうに過ぎて いつの間にか 周囲のあちらこちらで その足音が聞こえてきた この先 あとどれくらい 季節をめぐるのだろう 冬の木漏れ日に 天使と堕天使がはしゃいでいた 人生の最終地点を歩く その背中は何を想う

          「冬の木漏れ日」

          冬の訪れ

          また冬がやってきた あっという間に日が暮れていく その様は 人生の短さを そっと忍ばせているようで 時の贈り物は深淵だ 未来への眼差しも 季節ごと 年を追うごとに 暗転を変えて行く 何ともなしに眺めた街の光景に 心が揺さぶられ たまらなく愛おしく それでいて 相変わらず つまらないことで 右往左往して 気が付けば 去年の暮れと それほど変わらない 重たい荷物を抱えていた もうすぐ 雪が降るだろう また冬がやってきた

          冬の訪れ

          香り

          不思議なくらい 悲しい記憶が似ている ふたりだった 君にエピソードを話すたびに 「僕もそうだった。」 と返ってきて 同じ香りを どちらからともなく 察知したのか 偶然なのか あの日のふたりの出逢いを 心から祝福したい いつだって 帰りたい場所は 街の喧騒から離れた 森の小路 耳を澄ますと 川のせせらぎが聞こえてきて 木々は小鳥の訪問を 心待ちにしていた そこでは あらゆる生き物が 深呼吸を 大事にしていて 川のほとりで うたた寝している猫もいれば 大きな木の下で 雨宿

          夏の終わり

          夕暮れ時の ひぐらしの声     熟れたトマトと 揺れる風鈴 クワガタの散歩と 蝉の合唱 ハイビスカスと かき氷 汗だくのキミと 冷やしそうめん スケッチブックに描かれた 夏の日は やけにキラキラ輝いていて 不意打ちに 切なさがこみ上げる 8月の終わり はしゃぎ疲れた子どもたちが 豆腐屋のラッパの声を合図に 帰路に着いた頃 夏は静かに身支度を整え この世に さよならを告げた ひまわりやアゲハチョウ つぐみやほたるは はじめのうち、過ぎ去った夏に 気がつかないで

          夏の終わり

          幸せの遣い

          あなたが不自由だと思ったら そこから目を背けて やせ細った暗闇の道を生きるだろう あなたが自由だと思ったら ここから羽を広げて 果てしない空を駆けめぐるだろう 自由だと感じる肌感覚は 人それぞれだ 分岐点であなたのもとへ舞い降りる 幸福の遣いは 思いがけない姿で現れる ずっしりと重たい哲学書を持って あなたの心の扉を叩いたのは 都会の喧騒から離れた山奥で 静かに暮らしている ひとりの老人だった 「あなたは不自由ではないのですか?」 ぶしつけな質問に老人は 「この

          幸せの遣い

          海を見ていると 心のわだかまりが消えていく ここに存在していることを 無条件に肯定してくれているようで ふっと心がはしゃぐのだ いつからだろう ここからはぐれてしまうことを 恐れるようになったのは 太陽をオレンジ色に塗ったら よく見てみなさい 太陽はそんな色ですか!と 叱れた 大多数の正解が 教室の片隅で萎縮している あの子を 息苦しくさせていた 周りが笑っていたら 一生懸命笑おう みんなが赤というのだから オレンジは罰なのだ 原体験の記憶が よみがえったのは 夕暮

          「赤い風船」

          深い深い森の中で 太陽と仲良しの赤い実を 毎日食べている おかっぱの少女が住んでいた 少女を取り囲む大人たちは 外の世界に忙しく 少女が目に入らなかった 耳に聴こえてくるのは キャンキャン吠えているような メソメソ泣いているような 音ばかりで そんな大人たちの苦い悲しみが 少女の感受性に 影響を与えていた まだ言の葉を知らない世界 感情は行き場のない出口を 探していて 少女は口をパクパク動かしていた そうして 晴れた空にふんわり浮かぶ 赤い風船が大好きだった 近くの空き

          「赤い風船」