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記事一覧

コペンハーゲンの思い出/2

はっ!
私は跳ねるように顔をあげた。
体をまさぐる。
服は着ていた。
スマートフォンもパスポートも、バッグもきちんとある。
私は、向かいの席を見た。
ダルマツィオはいなかった。
いったい奴はどこに……。
扉の開いた音にそちらを見ると、ダルマツィオが喫煙室に入ってきたところだった。
トイレに行っていたらしい。
奴は、はー、やれやれと首を横に振りながら、椅子に腰を下ろし、テーブルの上に置いてあった私の

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コペンハーゲンの思い出

私たちは、18世紀感の漂うパブに入った。
色合いは全体的に黒く、木造で、店内の照明はランプだった。
レジのそばのショーケースには塩漬けのニシンや細切れの野菜などの載ったオープンサンドイッチ。
関係ない話だったが、ニシンを表す英単語がすんなり出てこなかった。
「ヘリングだ……」そう呟いたのは、喫煙室に入ってこれまたアンティークな椅子に腰を下ろして足を組み、タバコの先に火をつけたときのこと。
「どうし

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コペンハーゲン国際空港の思い出/5

私たちは、チボリ公園という小さな遊園地の左手の道を進んだ。
すぐそばにはラディソンブルやビジネス街があり、大勢のサラリーマンたちが辺りを右往左往している。
私も彼らが羽織っているものと同じようなコートを見に纏っていたが、彼らと私とでは社会人としての経験値が明らかに違っていた。
彼らの目は真っ直ぐに前を向いており、美しい北欧美女たちの女性的な魅力に目を引かれている様子もない(まあ、そこは多分見慣れて

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コペンハーゲン国際空港の思い出/4

https://polca.jp/projects/kJtjKzBy3Jg
現在POLCAでクラウドファンディングをしています。
皆さまの支援をお待ちしております。

目を覚ますと、時刻は昼だった。
私はポケットに入っている残金を頭に思い浮かべた。
ここの物価は、非常なまでに高い。
デンマーク国民であるなら、見返りとして手厚い福祉を受けることもできるが、私のようなただの観光客にとっては、ただ物価が

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コペンハーゲン国際空港の思い出/3

https://polca.jp/projects/kJtjKzBy3Jg
現在POLCAでクラウドファンディングをしています。
皆さまの支援をお待ちしております。

カップヌードルを食べた私は、すぐそばにあった出入り口から外に出た。
夜の北欧はとても綺麗だ。
それは空港も例外ではない。
時折プラットホームに滑り込んでくるメトロなどの音が響いてくるが、それ以外では、これ以上ない心地よさの静寂に浸る

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コペンハーゲン国際空港の思い出/2

私は、とりあえずベンチから身を起こし、唯一の荷物である小さめのナップサックをとった。
少し腹が減っていた。
ダリアは1週間食わなくても生きていけるとは言っていたが、それは植物のような日々を生きる場合に限る気がする。
元リトアニア警察のインターネット犯罪科であり、インターポールとの共同捜査の経験も割と頻繁にあったらしいダリアの仕事は、主に見栄えの良いホームページや、我が社限定のアプリを作り改善するこ

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コペンハーゲン国際空港の思い出/1

「ーーあー、こんにちは」私は言った。
なにから話したものか、考えてしまう。
開いているのはYouTubeのライブ。
ライブをするのは初めてだった。
ここはコペンハーゲン・カストラップ空港。
あたりは静寂に包まれている。
時刻はちょうど真夜中を過ぎた頃だった。
私が今寝転がっているベンチ、この先にあるエスカレーターを上がり、並んでいる二体の像の横を通り過ぎ、突き当たりを右に曲がればセブンイレブンが開

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