コペンハーゲン国際空港の思い出/4

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目を覚ますと、時刻は昼だった。
私はポケットに入っている残金を頭に思い浮かべた。
ここの物価は、非常なまでに高い。
デンマーク国民であるなら、見返りとして手厚い福祉を受けることもできるが、私のようなただの観光客にとっては、ただ物価が高いだけでしかない。
私は、Archosを手に取った。
見れば、DMが来ていた。
ダルマツィオからだ。
私は電話機能で彼にコールをした。
彼は3コールで出た。
「よお、ダニエル」
「やあ、ダルマツィオ。マリア様の像を見て気が変わったか? 私を助けてくれるのかな」
「それよりもいいぜ。今どこだ?」
「コペンハーゲンの空港でまったり過ごしてるよ」
「ここのどこだ?」
「えーっと、セブンのそばのベンチ。え? ここ? 来てんの?」
私は辺りを見渡した。
そして、やつを見つけた。
あいつは、横に並ぶ男女の像、その女性側を口説いていた。
彼に笑顔とカメラを向けているのは、観光客だろうか。
少なくとも私は彼らを知らない。
ダルマツィオは、観光客の男性からスマートフォンを受け取り、彼に握手をした。
私は、ナップサックとその中身を入れたPCケースを持って、ベンチから立ち上がり、彼の元へ向かった。
「グラァッツィエ・ミッレ! また会おうな!」
「ダルマツィオ」私は彼に声をかけた。
彼は、私を見ると、強引に抱き寄せ、脇にかかえた。
こいつの脇はいつもフローラルの香りとニンニクの香りがする。
「よおうっ、元気にしてたか!」
「あぁ、おかげさんでなっ」私はいいながら、彼の拘束から逃れた。「なにしてるんだ?」
「遊びに来たのさ」
「でも金はないって」
ダルマツィオは輝くような笑顔を浮かべた。「財布すられちまうような間抜けに恵んでやる金はねーっつったんだよ。北欧美女と遊ぶ金ならたんまり持ってんぜ」
私は笑った。「変わらないな」
ダルマツィオと初めて出会ったのは、18の頃、ウィーンのアルベルティーナでのことだった。
新人画家の展覧会に参加したところ、妙に目を引くイタリア人がいたのだ。
黒いデニムに空色のデニムジャケット、ミラーレンズのサングラス、いかにもイタリア人といった格好のあいつは、私の視線に気づくと、人懐っこい笑顔を浮かべてこちらにやってきた。
彼の人柄を好きになった私は、展覧会の後で、彼をお気に入りのカフェに連れて行き、そこで映画についての話をした。
映画の話から趣味の話、現在の活動、将来の夢へと話題は転々としていき、彼は私の夢を応援できるかもしれないといい出した。
彼の家系図を長いこと辿ると、その先にはイタリアの政治家がいた。
家計自体は中流層だったが、遠縁の親戚である政治家の彼にも会ったことがあるらしい。
もっとも、それはあまりいい経験とは言えなかったようだが。
彼は、それを話の種に人脈を広げることも少なくないといっていた。
彼は、私と同じ額を出資し、会社を設立した、いわば共同経営者だった。
私がそうだったように、彼にとっても、CEOになるのは初めてのことのようだった。
私は、彼に遅めの昼食を奢ってもらうことにした。「おいダニエル、このコーヒーいくらだ?」
私は肩を竦めた。「100ユーロくらいだな」
ダルマツィオはため息をついた。「イカれバイキングの子孫どもめ」
「ほんとびっくりだよな」
「全くだぜ」
私はクロワッサンをかじった。「今日のプランは?」
「お前を使って俺の格を上げてデンマーク美女をホテルに連れ込むのさ」彼は口でベッドの軋む音を再現した。
「と思うじゃん? ところが私がそこをうまく利用してお前の分の美女もいただいちゃうのさ」私は、彼よりも素早く激しく小刻みにベッドを軋ませる音を口で再現した。
「勝負ってわけか」
私は肩を竦めた。「勝負にもならんさ」
「おもしれぇ」
私たちは笑い、お互いの肩を叩き合った。
朝食を終えると、私たちは思い出話をしながらメトロを待ち、轟音とともにホームに滑り込んできたそれに乗って、市内へ向かった。

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