コペンハーゲン国際空港の思い出/2

私は、とりあえずベンチから身を起こし、唯一の荷物である小さめのナップサックをとった。
少し腹が減っていた。
ダリアは1週間食わなくても生きていけるとは言っていたが、それは植物のような日々を生きる場合に限る気がする。
元リトアニア警察のインターネット犯罪科であり、インターポールとの共同捜査の経験も割と頻繁にあったらしいダリアの仕事は、主に見栄えの良いホームページや、我が社限定のアプリを作り改善すること、警察時代のつてを生かしたコネクションづくり(彼女は幅広い国々に友人がいた。もちろん私の祖国の一つである日本にも)、そして私が書いた英語の記事をリトアニア語に翻訳することだった。
私は彼女がなにをやっているのかさっぱりわからないが、私の書いた記事をリトアニア 語に翻訳するだけでなく、リトアニア人受けする表現に変えたり、そう言った表現や注釈を付け加えたりしてくれる彼女には感謝していた。
私は、Archosのカメラに向かって言った。「まあ、とりあえず同僚には1週間食わなくても生きていけるとは言われちゃったんだけどさ、私って普通の人間だから」私は笑った。「今からセブン行って日清のカップ麺でも食いたいと思いまーす。北欧にもセブンあるんだよ知ってた? 今から紹介するね」
私は、すれ違った空港警察の方にお辞儀をした。
セブンイレブンの前には、いくつかのテーブル席があった。
そのテーブルに唯一いたのは、おそらくはトルコ系と目されるヒゲモジャの男性。
彼はケバブだかブリトーだかよくわからないものを食べていたけど、トルコ系っぽい人がケバブっぽいものを食べているのだからそれはケバブなのだろうと適当に当たりをつけた。
店内には、水やジュースや酒、サンドウィッチやブリトーやケバブや菓子パン、雑誌やポルノ、カップ麺やカップスープ、おにぎりやなんちゃって寿司、カゴに入ったリンゴやバナナやオレンジ、コーヒーマシン、レジのそばには“YOKITORI”(YokitoriでありYakitoriでないそっくりな何か)や、焼き立てっぽいパンが並んでいた。
私は、カップ麺のチキンスープ味と小さい割に相当な値段のするリンゴを取り、レジに向かった。
そこには中等系のおにいさん。
「今YouTubeのライブしてるんだけど、ちょっと聞いてもいいかな?」
「顔は映さないでくれよ? 違法労働してるってばれたらシリアに強制送還されちまうっ」
マジかよこいつ……、不法移民?
そんなことを思いながら目をまん丸にして見つめる私に気づいた彼は、朗らかに笑いながら私の肩を叩いた。「冗談さ。何が聞きたいんだい?」
「イスラム教の人って本当に酒飲まないの?」
「飲まないね」
「一滴ぐらい飲むでしょう」
「飲まないね」
「一滴も?」
「一滴もだ。ちなみにさっき君がまじまじとみてたポルノも見ない」
私は笑った。「なるほど、しっかりみられてるってわけね」
彼は自分の両眼を自分の人差し指と中指で示し、その手をこちらに向けてきた。「しっかり見てるぜぇ」
私たちは笑った。「やられたよっ、君みたいにお茶目な人ばかりなら、いつかシリアに行ってみたいもんだ」
「情勢が落ち着いたらいつでもきな。君はどっからきた?」
「日本」
「お、いいねぇ、コンニチハ」
私は笑いながら彼の肩を叩いた。「インタビューありがとう。いくらかな?」
私は彼に金を渡し、商品を受け取った。
コーヒーメーカーでお湯を注ぎ、頼りないマドラーを箸代わりにして食べる。
チキンスープ味は初めて食べたが、フリーズドライの野菜や鶏肉が入っていて、なかなか旨かった。

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