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日記

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2023年7月の記事一覧

均一なうすきいろ、又は卵

均一なうすきいろ、又は卵

 たまごを割るたびに、この中身がすべてこの小さな殻の中に入っていたことが信じられない気持ちになる。透明なつるんの中にぽっかりうかぶ黄身がまだこちらをみているので、あわてて箸でときほぐす。あたためたフライパンに注ぎ込めばでろんとひろがった生卵がやや遅れて均一なうすきいろにそまる。そうして初めて、安心できる。

 明日はバイトが休みになるらしい。彼氏のお休みと被るのでほんとうなら休みになったことを伝え

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人間翻訳にゆめをみる

人間翻訳にゆめをみる

 ボディクリームを全身に塗りたくっている時、からだって繋がってるなって思う。普段服を着ている時はなんとなく分かれているような気がするのに、くびれのあたりからふとももまで両手をすべらせて、そう思う。気づくって改めて定義するに近くて、そのタイミングっておもしろい。いろんなものを定義しなおして、そうして世界がまた一段とクリアになっていくのだろうか。

 うまれた想いを言の葉として相手に送れば、相手の脳が

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どん兵衛の美味しさだけを何度も忘れたい

どん兵衛の美味しさだけを何度も忘れたい

 雷が鳴っている。雷をこわがることがあざといみたいな風潮があるけれど、けっこう犬寄りの感覚で本当に怖い。犬より涼しい顔をしているけれど、内心書き順を間違えたスヌーピーみたいな顔でうずくまっている。たぶん、みんなそう。だって怖い。あんなにびかっと光って、それが時間差で爆音と共に落ちてくる。そう言いつつ、今どん兵衛を食べていますけれど。

 喉元過ぎれば熱さを忘れるって諺あるけれど、熱さをかんじるため

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女ミッキー

女ミッキー

 おなかが痛い。キムチを食べるといつもこうなる。わかっているのに食べる。今回はそうならないかもしれないから。で、そのまま抹茶アイス白玉のせを食べてまたおなかが痛くなっている。きゅうきゅう痛むそこのあたりから目を逸らすために今書いている。ごめん。
 何気なく、テレビをみているとき、「女ミッキーだ!」と彼がいうのでびっくりした。ミニーちゃんを女ミッキーとしてみているんだこの人、と思った。たしかにミッキ

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麦わら帽子とチーズケーキ

麦わら帽子とチーズケーキ

 大きめの会場に吸い込まれていく人々から、何のイベントがあるのか想像するのが好きだ。バスから見える景色の中で、今日はドンピシャでその吸い込まれタイムにかちあえた。小学生のお子さんがいそうな年代の男女が波のようにひとところへ向かってゆく。なにかしらの真面目な講演会かな、と見送りつつイヤホンを耳にさした。

 感受性が剥き身になりすぎたときは、洋楽をきく。言葉に意味がうっすらとのっていて、メロディがそ

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祈り、その窓をぶら下げて歩く

祈り、その窓をぶら下げて歩く

祈りの美しさってわからない。
祈りの美しくしようという姿勢はわかる。
他人にゆだねることの快楽、なんて意地の悪い言い方をして自分の中の自分が嫌な顔をしている。祈るとき、願いを委ねるとき、あなたは素直な顔をしている。
たとえば、初詣。手を合わせながら、目を閉じてからも、目を閉じる前の世界にわたしがいることにいつも媚びてしまう。
かわいくない自分がいて、それをかわいくないと判断する、なにかおおきなもの

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やわらかなのりもの

やわらかなのりもの

新幹線は好き。かっこいいから。
でも乗り物は総じてあまり好きではない。
乗り物より乗らない物のほうが好きだ。
でも乗らない物なんてないような気がしてくる、この足にもこの心が乗っていて、操縦されている、意識の内外問わずに。そう思えばどうして乗り物をさらに着込むだけで不安になるんだろうか。まどう感覚のままやわらかい乗り物を着て、今日もわたしをやっていく。遠くで雲が流れていて、それと対比するようにわたし

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七夕って概念ぽいですよね

七夕って概念ぽいですよね

今日は、七夕らしい。
七夕って行事というより概念な気がするけれど、それはすべての行事にいえるのかしらん、などと思いつつ通勤路でみた揺れる紙の輪っかと、短冊を思いかえす。いろとりどりのポップでハッピーな紙には資格試験合格、世界平和、受験合格、なんで文字が並んでいて、あれ、現実だねえなんて思ったり。
昔はわたしもああやって願い事を書いていたはずなのに、今となっては叶っているのかなにを書いたのかさえ、な

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幼少

幼少

 小学生の頃、子役の子供がパチンと手をたたかれると泣く、というのをテレビでみて、わたしもやってみようと思った。洗面台の鏡に自分をうつして、さん、に、いち、と数えてなく、案外涙はするすると出てきてそのうち本当に悲しいような気がしてきて、止まらなくなった。子役の女の子が言っていた、家族が死んでしまったことを想像する、などということもせずに、ただほんとうに、涙腺をきゅっとひねったような感覚だった。そうし

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からだ以上の心が溢れ出して

からだ以上の心が溢れ出して

 しばらくして、ようやく読み終えたことに気づいた。真夏の砂漠に置き去りにされたように渇いていた。文化も神もよくわからないし、きっと知ろうとする探求、の心、がたぶん少ないからなかなか掬い取ろうなんでしないと思う。思うけど、こういうのを読むとああいいなあと思う。つまり人間的に魅力的な人間で、真っ白な種になって泥に埋まっていくイメージの、息の詰まるほどの美しさ、が最後にずっと込み上げてきてえらく現実から

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てのひらの窓

てのひらの窓

 YouTubeをみていた。映像の中で人やものが動いて、生活音が鳴っていて、その中で人はひとつの世界として映っていて、それを窓から私たちはのぞいていて、切り取られたはずのそれらは本人たちのほんとうの生活とも違って、曖昧に浮かんだからっぽの雲みたいでずっと眺めていた。

 いつもより、左足が長いような気がして足を伸ばして座ってからずっとみている。雲はたまに雨になったりして、私のてのひらがたしかにつめ

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夏が始まる

夏が始まる

 雨の足跡が乾いていく。晴れた七月だ。冷蔵庫はからっぽで、茄子とトマト、調味料と飲み物、それだけを熱心に冷やしている。そこからアイスコーヒーをつくって、手に持ったまま窓をひらいた。夏の風はなまぬるくて、それでもからだを再び今日の形にあみこんでゆく。この、再構成される感覚がわたしは好きだ。ぴかぴかの青い空がわたしの目に映る。
 買い物に出かけた。日差しに負けそうになりながら進むと、お約束のようにアイ

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