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均一なうすきいろ、又は卵

 たまごを割るたびに、この中身がすべてこの小さな殻の中に入っていたことが信じられない気持ちになる。透明なつるんの中にぽっかりうかぶ黄身がまだこちらをみているので、あわてて箸でときほぐす。あたためたフライパンに注ぎ込めばでろんとひろがった生卵がやや遅れて均一なうすきいろにそまる。そうして初めて、安心できる。

 明日はバイトが休みになるらしい。彼氏のお休みと被るのでほんとうなら休みになったことを伝えてデートでもするべきなんだろうけど、なんだか躊躇してしまう。いつだって可愛い自分で会いたいけれど、いつでも仕上がっている状態ではなくて、つまり最近は適当な食事に筋トレもせずに眠っているので不安、というかんじ。それと同時に暑くて動きたくないっていう単純な心もあって。
 頻繁に会っていれば会いたくなるけれど、一度時間が空いてしまうと、いなくてもそれはそれで楽しく、特に寂しくもならず、ゆったり過ごせてしまう。それはいい意味でも悪い意味でも、わたしに存在する性質だろう。

 完成しただし巻き卵を菜箸でわって、食べる。やわらかなそれからぎゅっと出汁がこぼれて、上手くできたな、と思う。
 部屋にはずっと、クーラーの稼働音がうっすらひびいている。


23.0703

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