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夏が始まる

 雨の足跡が乾いていく。晴れた七月だ。冷蔵庫はからっぽで、茄子とトマト、調味料と飲み物、それだけを熱心に冷やしている。そこからアイスコーヒーをつくって、手に持ったまま窓をひらいた。夏の風はなまぬるくて、それでもからだを再び今日の形にあみこんでゆく。この、再構成される感覚がわたしは好きだ。ぴかぴかの青い空がわたしの目に映る。
 買い物に出かけた。日差しに負けそうになりながら進むと、お約束のようにアイスを買ってしまう。今日はチョコレート。パフェのように三層にわかれたアイスクリームがまぶしくひかる。
 本屋に寄って一冊選び取ると、家に帰る。文鳥がまるくなってねている。少し声をかけると、こっちを向いて、また眠り出した。ふんわり溶け出したしろくまるい文鳥が愛おしい。クーラーをつけて、ベッドに横たわる。そういう一日、その橋と端をつないでまた、一日がはじまることの、茜色の感情をわたしたちは大切にしている。
 夏が始まった。

23.0702

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