やわらかなのりもの

新幹線は好き。かっこいいから。
でも乗り物は総じてあまり好きではない。
乗り物より乗らない物のほうが好きだ。
でも乗らない物なんてないような気がしてくる、この足にもこの心が乗っていて、操縦されている、意識の内外問わずに。そう思えばどうして乗り物をさらに着込むだけで不安になるんだろうか。まどう感覚のままやわらかい乗り物を着て、今日もわたしをやっていく。遠くで雲が流れていて、それと対比するようにわたしのなにかも流れてゆく。それを感じたから足は進んでいく。追いつかないのに、ずっと。

近頃、蝉が鳴いている。鳴いているのに気づいたのは、地面に蝉が落ちていたからだ。そこから喝采が始まって途端にわたしの音の世界のなかに「蝉の鳴き声」がインストールされてずんずん順位をあげていく、気づいたらトップに躍り出て、ああ蝉がうるさいなと、そういうわけだ。一から十までそんな調子の人生がのびたりたわんだりして、何を遠くに飛ばすつもりなんだろう。
お昼用に梅おにぎりを買って、スーパーを出た。

23.0708