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半世紀前から普通の人生に挑戦した車椅子おばあちゃんの物語

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半世紀前から普通の人生に挑戦して、普通のおばあちゃんになった車椅子ユーザーの物語1~58
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2024年3月の記事一覧

半世紀前から普通の人生に挑戦して、普通のおばあちゃんになった車椅子ユーザーの物語㊳

半世紀前から普通の人生に挑戦して、普通のおばあちゃんになった車椅子ユーザーの物語㊳

「毎日こんなに幸せなことにあふれていた」

看護師さんがベッドのカーテンを閉め
肩をさすり、手を握り、寄り添ってくれても
子供のように泣きじゃくるしかありませんでした。

どれくらいの時間が過ぎたのでしょう
ベッドに横になり、ボーっと天井を眺めていました。

「まだ初期だから、手術してとってしまえばいいんだよね」

でも、右手が使えなくなったら
一人でトイレにも行けない
車椅子も漕げない

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半世紀前から普通の人生に挑戦して、普通のおばあちゃんになった車椅子ユーザーの物語㊴

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「負けてたまるか」

夫が仕事から帰宅後、二人で病院に行き、
詳しい手術の内容を聞きました。

「がん細胞がどこまで広がっているかは、手術によってしかわからないので、
手術中に、切り取った部分をその都度検査にまわして確認しながら進めます」と医師は説明しました。
「しこりの部分とその周囲を切り取りつつ、なるべく温存できる予定ですが」とも話しました。
「がん細胞が広い範囲に散っていたら、乳房を全て摘

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半世紀前から普通の人生に挑戦して、普通のおばあちゃんになった車椅子ユーザーの物語㊵

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「何もできないから、夕ご飯何か買ってきて」

順調に回復し、いよいよ退院の日がやってきました
定期的な通院や投薬は必要ですが
再発や転移の不安はすごくありますが
考えていても仕方ありません

「家に帰れる」
「また普通の暮らしができる」
夫に、娘たちに、両親に、妹に
主治医の先生に、大学病院の皆さんに
心から感謝して
普通の日常へ戻れます
「ただいま!」
幸せがいっぱいです

とは言っても、体

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半世紀前から普通の人生に挑戦して、普通のおばあちゃんになった車椅子ユーザーの物語㊶

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「これは、ちょっとやばいかも」


春休みには母と娘たちと私の運転でドライブ小旅行、
GWには一度大渋滞にはまって懲りてからは近くの公園でピクニック、
この頃の二女の作文には
「ちっぽけな木の下でお弁当を食べました」
と書かれていて、担任の先生に褒められました
夏休みの家族旅行、秋の運動会、毎年恒例、軽井沢の紅葉、
クリスマスのディズニー、お正月の集まり、
バレンタインのチョコ作り・・・
どの季

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半世紀前から普通の人生に挑戦して、普通のおばあちゃんになった車椅子ユーザーの物語㊷

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「はい、お電話ありがとうございます」


数日後、教えて頂いたコインパーキングに車を停めて、近くのビルに入っていきました。
入り口の段差にはスロープがかけてあり、エレベーターに乗って一人で現場までたどり着くことができました。
ドアを開けると一段段差がありましたが、そこにもスロープがありました
担当者の方のお話では、数か月後にほかの場所で新しくコールセンターを
オープン予定で、オペレーターを大量募

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半世紀前から普通の人生に挑戦して、普通のおばあちゃんになった車椅子ユーザーの物語㊸

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「初めて愛情を注いだ小さな命」


この頃、15歳になる長男たつのりくん(トイプードル)は心臓が弱り、
お散歩は行かないようにと獣医から言われ、
さらに、ひどい歯槽膿漏で度々口から出血するという状態でした。

仕事から帰ると娘が
「ママ、タッチがまた口から血が出てるよ」と言い
急いで、かかりつけの病院へ連れていくという繰り返しです。
「もう病院は連れてくるのもかわいそうだから、お家で静かに過ごさ

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半世紀前から普通の人生に挑戦して、普通のおばあちゃんになった車椅子ユーザーの物語㊹

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「お金がどんどん出ていきます」


「うんめい」の出会いの真っ白いトイプードルくんは
生まれてから5ヶ月経っていたその頃
なかなか家族が見つかっていないようでした

夫が黙っていると、次女がついに泣き出しました
「私がぜったいめんどうみるから」
「パパ、おねがいだからこの子うちの子にして」
「おねがい」
大きな瞳から涙が溢れています

こうなったらもうパパもお手上げです
いろいろ手続きをして

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半世紀前から普通の人生に挑戦して、普通のおばあちゃんになった車椅子ユーザーの物語㊺

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「チャンスの神様の前髪をわしづかみ」


状況は極めて困難
僅かな失業手当もあっという間に期限切れとなってしまい
職業相談にハローワーク通いも始めました
障害者求人で何かいい求人ないかなぁ
と僅かな希望を持ちつつ、職探しです

新聞折り込みの求人広告を隅から隅まで見ていた
そんなある日、求人広告の隅っこに小さな小さな記事を発見
「事務員募集」
普通の事務員募集は大体が車椅子NGだったのですが

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半世紀前から普通の人生に挑戦して、普通のおばあちゃんになった車椅子ユーザーの物語㊻

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「はい、ごもっともでございます」


せっせとお仕事探しにハローワークへ通っていたら
ある日、障がい者職業相談担当の責任者の方が
「こんな求人、うちでも出してるんだけど、どうですか」
と一枚の求人票を見せてくださいました
「職種:専門援助部門職業相談員」
フルタイムの3年契約、嘱託職員、
お給料は時給750円とは比べ物にならないほど
夢のような金額が書いてありました
いやいや、こういうお仕事はそ

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「やっぱり、もう限界かな」


この職場もいろいろエピソードは尽きません
相談員さんは女性が多かったこともあり、子育て、家庭の不満、
恋バナやら、派閥やら、ランチタイムの話題には事欠きません
ドラマに出てくるような、ごくごく普通の毎日です。

ただ、普通でないのは17:30終業のチャイムが鳴った後です
就業時間になるとチャイムの音とともに私の席にガードマンさんがお迎えに来てくださいます。
裏口の

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