カサイミノリ

“聞く&書く“を生業としています。お仕事はozmallや日本財団ジャーナル、CREA …

カサイミノリ

“聞く&書く“を生業としています。お仕事はozmallや日本財団ジャーナル、CREA WEB、陶業時報など。noteは趣味のメモとしてゆるーく活用中。 https://instagram.com/petit_bonheur_d_mino

記事一覧

アキと、俺と、わたしたちの話。『夜が明ける』

読みながら苦しくて、苦しくて、でも途中でやめることができなくて、一気に読んでしまった『夜が明ける』。 昭和終盤に生まれ、「女の子なんだから」「長女なんだから」を…

カサイミノリ
1か月前
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『福田村事件』と、『月』と。

「無知」と「思い込み」ほど、恐ろしいものはない。 福田村事件のことは、100年が経ってしまった昨年まで、知らなかった。 自分が生まれた日でもある9月6日、何気なく聴い…

カサイミノリ
5か月前
14

サンタクロースになった日。(ブックサンタ2023)

本はいつでも友だちだった。 ひとりでお留守番をしているとき。 眼科で順番を待っているとき。 風邪を引いて学校を休んだとき。 休み時間。 本はいつでもわたしの友だち…

カサイミノリ
6か月前
19

“すべての道はローマに通ずる”らしい

過日、上野の東京都美術館で開催中の「永遠の都 ローマ展」へ。 世界最古の美術館とされるローマ「カピトリーノ美術館の、所蔵品を中心に約70点の彫刻、絵画、版画など幅…

カサイミノリ
7か月前
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戦火にある日常。「ガザの美容室」

美容室でキャミソール姿の中年女性が、おそらく友人と電話しているシーンから始まる『ガザの美容室』。 美容室でやたら薄着だな(後でワックス脱毛に備えていたことがわか…

カサイミノリ
8か月前
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86歳は「おじいちゃん」ではないと改めて痛感した日。『横尾忠則 寒山百得』展

過日、「東京国立博物館 表慶館」で開催中の「横尾忠則 寒山百得(かんざんひゃくとく)」展へ。 中国・唐の時代に生きた伝説的なふたりの詩僧、寒山(かんざん)と拾得…

カサイミノリ
9か月前
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写真ってなんだろう。ソール・ライターと、平間至と。

過日、渋谷ヒカリエホールで同時開催されていた「ソール・ライター展 ニューヨークの色」と、「平間至展 写真のうた」へ。 慌ただしくしていたり、体調が思わしくなかった…

カサイミノリ
10か月前
39

スキップしながら、歌いたくなったよ。「new born 荒井良二 いつも しらないところへ たびするきぶんだった」

過日、横須賀美術館で開催中の「new born 荒井良二 いつも しらないところへ たびするきぶんだった」へ。 日本はもちろん、世界的にも人気が高い絵本作家・荒井良二さん…

カサイミノリ
11か月前
14

悦びに満ちたブルー。「デイヴィッド・ホックニー展」

過日、東京都現代美術館で開催中の「デイヴィッド・ホックニー展」へ。 現在86歳、60年以上に渡り精力的に活動するアーティスト、デイヴィッド・ホックニーの、日本では27…

カサイミノリ
11か月前
52

オジサンは癒し。「しりあがり寿展」

過日、新宿伊勢丹の本館6階のギャラリーで開催されていた『しりあがり寿展[オヤジ全開 -OYAJI FULL OPEN-]』へ。 引越しの慌ただしさやら、熱中症やらが重なり、心身とも…

カサイミノリ
11か月前
14

近くて遠い、北京に触れる。『北京の台所、東京の台所』

あぁ、お腹が空いた。 読んでいたらなんだか、餃子が食べたくなってしまった。 『北京の台所、東京の台所』は、ウー・ウェンさんが生まれ育った時代の北京の社会背景や食…

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まだ、言葉にならない。「ガウディとサグラダ・ファミリア展」

過日、東京国立近代美術館で開催中の「ガウディとサグラダ・ファミリア展」へ。 スペインの著名な建築家アントニ・ガウディ。 その創造の源泉と、”未完の聖堂”と呼ばれ、…

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恋のために生きるって、こんな感じ?「とうへんぼくで、ばかったれ」

片思いをしているときの気持ちの内訳は、確かに 「会いたい、と、知りたい、でほぼ十割」かもしれない。 これは朝倉かすみ『とうへんぼくで、ばかったれ』の主人公・吉田…

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智美術館の図録がアツい。(引越し準備が進まない)

急遽、部屋を引っ越すことになり、“断捨離”作業が続いている。 何年も着ていない服やら、いつ買ったのかすら覚えていないロングブーツやら、既に手放した家電の取説やら…

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うちにもお招きしたい、物の怪たち。「石黒亜矢子展 ばけものぞろぞろ ばけねこぞろぞろ」

過日、世田谷文学館で開催中の「石黒亜矢子展 ばけものぞろぞろ ばけねこぞろぞろ」へ。 絵本作家・石黒亜矢子さんの絵本の原画を中心に、描きおろしの新作約20点を含む50…

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今世紀最大のホラーかもしれない。『ナイルパーチの女子会』

これは、ホラーだ。 なんて怖い本を借りてきてしまったんだろう。 終始、ゾクゾクとした寒気に襲われながらも、どうしても読むことを辞められず、一気に読んでしまった、…

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アキと、俺と、わたしたちの話。『夜が明ける』

アキと、俺と、わたしたちの話。『夜が明ける』

読みながら苦しくて、苦しくて、でも途中でやめることができなくて、一気に読んでしまった『夜が明ける』。

昭和終盤に生まれ、「女の子なんだから」「長女なんだから」を皮切りに、さまざまな“昭和”の価値観の中で育った私は、最近になって「あっ、これって変なことだったんだ」と気づくことがある。

小学生の頃、「一重はかわいくないから」と母にアイプチをされていた時期がある、とか。(まぶたがひっぱられて痛くて、

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『福田村事件』と、『月』と。

『福田村事件』と、『月』と。

「無知」と「思い込み」ほど、恐ろしいものはない。

福田村事件のことは、100年が経ってしまった昨年まで、知らなかった。
自分が生まれた日でもある9月6日、何気なく聴いていたラジオから流れた「今日は何の日」のコーナーで知り、あまりの惨劇に言葉を失った。
それで、『福田村事件』をどうしても観ておきたいと思ったのだ。

1923年9月6日。関東大震災発生の5日後、千葉県東葛飾郡福田村(現在の野田市)の

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サンタクロースになった日。(ブックサンタ2023)

サンタクロースになった日。(ブックサンタ2023)

本はいつでも友だちだった。

ひとりでお留守番をしているとき。
眼科で順番を待っているとき。
風邪を引いて学校を休んだとき。
休み時間。

本はいつでもわたしの友だちで、いつでも味方だった。

あの頃、教育方針(と貧しさ)を理由にアニメや漫画、ゲームが禁止で哀しい思いをしていたけれど、その分たくさんの本に出会えたんだ。

時間に支配されて、大切なものが見えなくなってしまったオトナたちを救うために、

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“すべての道はローマに通ずる”らしい

“すべての道はローマに通ずる”らしい

過日、上野の東京都美術館で開催中の「永遠の都 ローマ展」へ。

世界最古の美術館とされるローマ「カピトリーノ美術館の、所蔵品を中心に約70点の彫刻、絵画、版画など幅広い作品を展示する同展。
2023年は、日本の明治政府が派遣した「岩倉使節団」がカピトリーノ美術館を訪ねて150年目の節目でもあるそう。

…と、ここまで説明を読んで岩倉使節団ってなんだっけ…?と慌てて検索。
岩倉具視をリーダーに、木戸

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戦火にある日常。「ガザの美容室」

戦火にある日常。「ガザの美容室」

美容室でキャミソール姿の中年女性が、おそらく友人と電話しているシーンから始まる『ガザの美容室』。
美容室でやたら薄着だな(後でワックス脱毛に備えていたことがわかる)とは思うものの、初めはそれが特別な光景であることに気づかなかった。

イスラム圏の女性がヒジャブを外し、裸に近いような格好で過ごせるのは、そこが女性しかいない美容室だからだ。

離婚調停中の女性に、結婚式のセットアップにやってきた女性と

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86歳は「おじいちゃん」ではないと改めて痛感した日。『横尾忠則 寒山百得』展

86歳は「おじいちゃん」ではないと改めて痛感した日。『横尾忠則 寒山百得』展

過日、「東京国立博物館 表慶館」で開催中の「横尾忠則 寒山百得(かんざんひゃくとく)」展へ。

中国・唐の時代に生きた伝説的なふたりの詩僧、寒山(かんざん)と拾得(じっとく)を独自の解釈で再構築した102点(それもすべて新作、書き下ろし!)を集めた展覧会。

それぞれの絵には日付が書かれていて、よく見ると翌日だったり、3日おきだったり。

一体、どんなスピードで筆を動かしているんだろう。

次々に

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写真ってなんだろう。ソール・ライターと、平間至と。

写真ってなんだろう。ソール・ライターと、平間至と。

過日、渋谷ヒカリエホールで同時開催されていた「ソール・ライター展 ニューヨークの色」と、「平間至展 写真のうた」へ。

慌ただしくしていたり、体調が思わしくなかったりで、展覧会へ行くのは久しぶり。

プロのカメラマンにもファンが多い(印象がある)ソール・ライター。

余白が多くて、観る者の想像力を柔らかく刺激してくる。
ライターの写真を見るのは初めてではないけれど、いつも「そんな角度から、世界を見

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スキップしながら、歌いたくなったよ。「new born 荒井良二 いつも しらないところへ たびするきぶんだった」

スキップしながら、歌いたくなったよ。「new born 荒井良二 いつも しらないところへ たびするきぶんだった」

過日、横須賀美術館で開催中の「new born 荒井良二 いつも しらないところへ たびするきぶんだった」へ。

日本はもちろん、世界的にも人気が高い絵本作家・荒井良二さんの新作、過去作約300点を集めた企画展。

荒井良二さんのダイナミックなタッチは以前から大好きで、始まる前から行きたいなー、でも横須賀は遠いから会期中に行けるかなー…とぼんやり考えていたのだけれど

少し前に満島ひかりさんのラジ

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悦びに満ちたブルー。「デイヴィッド・ホックニー展」

悦びに満ちたブルー。「デイヴィッド・ホックニー展」

過日、東京都現代美術館で開催中の「デイヴィッド・ホックニー展」へ。

現在86歳、60年以上に渡り精力的に活動するアーティスト、デイヴィッド・ホックニーの、日本では27年ぶりとなる大きな個展。
総展示数は、200点余り。

そのテの話にはとても疎いのだけれど、彼の作品はいま最も高額で取引されているとかいないとか。
ひとは、どこにそんなにも心を掴まれるのだろう、と単純に興味があった。

まだ体調が安

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オジサンは癒し。「しりあがり寿展」

オジサンは癒し。「しりあがり寿展」

過日、新宿伊勢丹の本館6階のギャラリーで開催されていた『しりあがり寿展[オヤジ全開 -OYAJI FULL OPEN-]』へ。

引越しの慌ただしさやら、熱中症やらが重なり、心身ともにぐったり。

うまく眠れなかったり、本を読む気力もなく、今年は夏バテが早いな、と思っていた今日この頃。

何気なく足を運んだしりあがり寿さんの個展。

絵を前に、自分でも触れられない内側、芯の部分を癒される感覚があっ

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近くて遠い、北京に触れる。『北京の台所、東京の台所』

近くて遠い、北京に触れる。『北京の台所、東京の台所』

あぁ、お腹が空いた。
読んでいたらなんだか、餃子が食べたくなってしまった。

『北京の台所、東京の台所』は、ウー・ウェンさんが生まれ育った時代の北京の社会背景や食文化、学世知時代のこと、やがて日本人男性と出会い、結婚を機に日本で暮らすようになり、料理家として活躍するまでの記録が(美味しそうなレシピとともに)綴られている。

歴史的な関わりが深く、衣食住をはじめ色々な文化の影響を受けているにもかかわ

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まだ、言葉にならない。「ガウディとサグラダ・ファミリア展」

まだ、言葉にならない。「ガウディとサグラダ・ファミリア展」

過日、東京国立近代美術館で開催中の「ガウディとサグラダ・ファミリア展」へ。
スペインの著名な建築家アントニ・ガウディ。
その創造の源泉と、”未完の聖堂”と呼ばれ、いよいよ完成間近とされているサグラダ・ファミリアに焦点を絞った展覧会。

実は観に行ってから随分経つのだけれど、興奮冷めやらぬというか、思い出すたびに胸がいっぱいになってしまって、うまく言葉がつながらない。

美しかった。
迫力があった。

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恋のために生きるって、こんな感じ?「とうへんぼくで、ばかったれ」

恋のために生きるって、こんな感じ?「とうへんぼくで、ばかったれ」

片思いをしているときの気持ちの内訳は、確かに
「会いたい、と、知りたい、でほぼ十割」かもしれない。

これは朝倉かすみ『とうへんぼくで、ばかったれ』の主人公・吉田のことば。
(文庫版は『恋に焦がれて吉田の上京』。うーん、このタイトルだったら手に取らなかったかも)

これを聞いて友人の前田は「ストーカーの動機の内訳ともひとしいような気がするんだけど」と首をかしげる。

そうだよねー、わたしもそう思う

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智美術館の図録がアツい。(引越し準備が進まない)

智美術館の図録がアツい。(引越し準備が進まない)

急遽、部屋を引っ越すことになり、“断捨離”作業が続いている。

何年も着ていない服やら、いつ買ったのかすら覚えていないロングブーツやら、既に手放した家電の取説やら…。
もう要らないだろうと思うものをどんどん手放す一方で、やっぱり捨てられないのが本の類い。

とくに最近は、美術館の図録。
正直、かなり場所を取るし、分厚くて重たいからしょっちゅう読み返すものではないんだけれど、学芸員さんの熱の込もった

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うちにもお招きしたい、物の怪たち。「石黒亜矢子展 ばけものぞろぞろ ばけねこぞろぞろ」

うちにもお招きしたい、物の怪たち。「石黒亜矢子展 ばけものぞろぞろ ばけねこぞろぞろ」

過日、世田谷文学館で開催中の「石黒亜矢子展 ばけものぞろぞろ ばけねこぞろぞろ」へ。

絵本作家・石黒亜矢子さんの絵本の原画を中心に、描きおろしの新作約20点を含む500点あまりを展示。
開催されると知ってから、ずっとずっと楽しみにしていた展覧会。

最寄りの芦花公園駅からセタブンへ向かう足取りも軽く、るんるん(死語)していたら、歩道を走っていた自転車(マナー違反)と衝突しそうに。

石黒さんが「

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今世紀最大のホラーかもしれない。『ナイルパーチの女子会』

今世紀最大のホラーかもしれない。『ナイルパーチの女子会』

これは、ホラーだ。
なんて怖い本を借りてきてしまったんだろう。

終始、ゾクゾクとした寒気に襲われながらも、どうしても読むことを辞められず、一気に読んでしまった、柚木麻子『ナイルパーチの女子会』。

丸の内の大手商社で働く栄利子と専業主婦の翔子をめぐる“オンナの友情”の物語。

“おひょう”こと翔子が綴るブログ『おひょうのダメ奥さん日記』を通じて出会ったふたりは、年齢が同じということもあってす

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