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本・文学・読書・外国語・知とその周辺

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記事一覧

危険なプロット:文学という血縁が、孤独な他人を父子にする

危険なプロット:文学という血縁が、孤独な他人を父子にする

Dans la maison(原題), In the House(英語題名)(2012).

フランスのフローベール高校(リセ)に赴任してきた、国語(フランス語)教師のジャーマン(ファブリス・ルッキーニ)は、生徒が書いた週末に何をしたかという作文を採点しながら、その内容のなさに辟易していた。ピザとスマホのことばかりなのだ。

かれらが少しでも本を読むように仕向け、かれらの文学的教養を向上させ、それ

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ある女流作家の罪と罰:他人のアイデンティティをまとっていますが、何か?

ある女流作家の罪と罰:他人のアイデンティティをまとっていますが、何か?

『ある女流作家の罪と罰』(Can you ever forgive me?)のポスターを、よく見かけるようになった。最近ロンドンの映画館で、一般公開されるようになったのだ。この映画は、ロンドン・フィルム・フェスティバルの、目玉作品のひとつだった。

フィルム・フェスティバルの映画は、なんとなく選んで観ても、どれも驚くような面白さだったが、特別な余興(headline gala)であったこの映画は、

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フランス人は各人各様にご意見番。コピー機の前の弁論大会

フランス人は各人各様にご意見番。コピー機の前の弁論大会

パリの国立図書館でのこと。ここの視聴覚資料(映画)は、原則すべてデジタル化されて保存されている。ネットのカタログで注文すると、目の前のパソコンに映画がダウンロードされてくる、という仕組み。なかなかハイテクである。

ここにある雑誌を、コピーしようとしたときのこと。最初にコピーセンターへ行くと、係の女のひとが、USBメモリがあれば、スキャンイメージを持ってかえれる、という。USBメモリが買える場所ま

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「自分の物語」を「消費」するのか、それとも「生産」するのか、ということ

「自分の物語」を「消費」するのか、それとも「生産」するのか、ということ

わたしはいま、日本とイギリスの、ふたつの大学に所属している。イギリスのほうは、客員である。日本の大学のほうのグループのニュースに、編集者箕輪厚介氏の就活インタビューが行われた、という記事があり、かれがプロデュースしたという本を、電車のなかで読みはじめた。前田裕二の『人生の勝算』。

この本でいちばん興味深かったのは、いまという時代は、「他人の物語」ではなく、「自分の物語」を消費する時代だ、というく

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既成の学問を教えることは、「目的」ではない、ということ

既成の学問を教えることは、「目的」ではない、ということ

子どもが大きくなってから、大学院に入って勉強を始めたという、頑張り屋の友人がいる。今は大学で教えながら、自分の研究をつづけている。

彼女のやっていることは、大学時代の専門とも全然違うし、ここ数年話を聞いていると、聞くたびにすこしずつ領域がちがってきている。

もうやりたいことをするしかないと開きなおっている、

という彼女の話を聞いて、それは彼女が、

既成の学問の枠組の中で受動的に勉強している

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イチロー引退会見その1:遠回りすることでしか、本当の自分に出会えない

イチロー引退会見その1:遠回りすることでしか、本当の自分に出会えない

【今日の球場での出来事の後に、後悔などあろうはずがない】
後悔を生まないためには、自分なりに頑張ること、それを「かさねる」ことしかない。

【子供へのメッセージ】
うーん、苦手なんだよねそういうの。自分が夢中になれるもの、エネルギーを注げるものを早く見つけること。それを見つけられないと、立ちはだかるカベに挫折するけれど、見つけられればそれを乗り越えることができる。

【いちばん印象に残っていること

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イチロー引退会見その2:孤独に苦しんだことは、未来の自分にとっての大きな支え

イチロー引退会見その2:孤独に苦しんだことは、未来の自分にとっての大きな支え

【次は何をしますか】
人望がないので監督は絶対にムリ。それくらいの判断能力はある。日本の野球ではアマチュアとプロの壁が特殊なかたちで存在してややこしい(そのあたりなんとかならないかと考えている?)。

【やめようと思ったことは】
特にニューヨークでは、クビになるのではないか、と毎日思っていた。ニューヨークは、特殊な場所。マイアミもだけれど。マリナーズ以外行く気持ちがなかったので、昨日戻してもらって

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しあわせをつくる物質的メソッドとしての、セクシーなお片づけ

しあわせをつくる物質的メソッドとしての、セクシーなお片づけ

ネトフリのサイトを開けたら、こんまりさんがアメリカの家庭を訪れてかれらの家を変身させるという、よくあるタイプの番組が飛びこんできたので、そのまま観てしまった。

こんまりさんの本には、ちょっとした思い出がある。彼女の本は、わたしがkindleで、はじめて買った本なのである。

わたしはいままで、何冊になるのかわからないくらいの本を、買いつづけている。一〇万冊くらいは、軽くいっているはずだ。だから本

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「正解」のない世界に耐えるということ

「正解」のない世界に耐えるということ

今日は某大の人工知能研究室の方々がロンドンにみえたので、パブでお食事。分野のちがう人々とお話しすると、世界観、価値観がまったくちがうということも多くて、あらためて驚いてしまうようなことも多い。

というより、こちらの方が、相手に対して、驚きなんである。

理系だけでなく、経済とか経営とかの分野の人に、何を研究しているんですか、と聞かれて、映画と文学文化です、というと、だいたい相手は、目が点になる。

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足元を見るのではなく、星を見上げること

うちの高校は、行事ばかりやっているところで、受験指導などというものは、一切なかった。この行事というのが、ちょっとやっかいだった。つまり、行事というのは、外側からくるものだ。自分がやりたくてやるものでは、ないことも多い。

何しろ精神的に未熟なので、やる状況に陥っているときに、やっぱりやらないです、というような勇気もなかった。万事がこういう調子で、わたしの高校生活は過ぎていった。やらされていることば

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島田順子さんの、ヌーヴェルヴァーグなライフスタイル

島田順子さんの、ヌーヴェルヴァーグなライフスタイル

パリを起点に、79歳にして、いまもスタイリッシュな服を精力的にデザインしつづけられている、島田順子さん。彼女にお会いする機会が近づいてきたので、『おしゃれライフスタイル』という本を読む。なんと彼女がパリに来たのは、ヌーヴェルヴァーグの映画が好きだったからだ、という。

ヌーヴェルヴァーグの映画人、ゴダールは1930年生まれ、トリュフォーは1932年生まれ。映画の世界を震撼させたヌーヴェルヴァーグの

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グローバル化のかけごえと、教育の現場でのギャップについて

グローバル化のかけごえと、教育の現場でのギャップについて

ロンドンの家の近所のチャイニーズ、Green Cottageは、とても美味しくて安い。6人だったせいもあり、一人3000円で、いろいろ食べて堪能した。そのなかの一人は、ブライトンでワーホリをしている、20代後半の女性。彼女は私立の中学校で専任の英語の先生をしていたのだが、それをスパッとやめて、ワーホリにきたという。

わたしは日本にかえれば大学勤務なので、国際化、グローバル化のかけ声でいろいろなプ

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死ぬときに後悔する5つのことと、酔いつぶれて寝込んでしまった同級生の話

死ぬときに後悔する5つのことと、酔いつぶれて寝込んでしまった同級生の話

医療関係の仕事の経験はまったくなかったブロニー・ウェアBronnie Wareは、興味を持てて(a job with a heart)家賃が払える仕事を探していて、終末パーソナルケアに行きついた。余命3週間から12週間くらいの人を、かれらの家で世話する仕事だ。

ここで彼女は、ある発見をした。彼女の仕事である、かれらの食事や入浴の世話は、二次的なものであり、彼女の本当の役割は、かれらの話を聞くこと

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ナンシー・ミットフォードの『愛の追跡』 Pursuit of Love

ナンシー・ミットフォードの『愛の追跡』 Pursuit of Love

昨日のナンシー・ミットフォードの話が、あまりにもサワリだけだったので、もうすこし具体的な話を書いてみる。Love in a Cold Climateのドラマの原作のひとつというか、そのより重要なほうである、『愛の追跡』The Pursuit of Loveの話をすこし。

ヒロインはリンダというのだが、とにかく彼女がかわいい。それは彼女が、お嬢さまだから。ここで強調しておかなければいけないことは、

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