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【6話】 NOT FOR SALE
砂川の口から語られる評価の数々は、
書いていない俺でさえ、耳を塞ぎたくなるものだった。
それはひとえに、その全てが残酷なまでに的確だったからだ。
砂川
「登場人物同士が、作用し合ってないんだよね」
砂川
「それぞれが自分の意思で勝手に動いてて、影響し合ってないんだよ」
砂川
「だから、読んでて1ミリも感動しない」
砂川
「人と喋ったことないんだろうなって奴の文章だね、これは
【5話】 NOT FOR SALE
高校の頃から、何も変わっていない。
変わったといえば、書くのがノートからパソコンになったことぐらい。
パソコンの方が、言葉が浮かんでから出力までのラグが少なくていい。
言葉の鮮度が落ちない気がする。
ペンの速さだと、文字に起こしているうちに嘘になってしまう。
それでは意味がない。
僕は、小説に嘘は書きたくない。
矛盾しているようにも聞こえるが、嘘を嘘のまま書いた話など、
【4話】 NOT FOR SALE
記憶を刺激されたのは、俺も同じだった。
確かにみんな、喜一のことは『天才くん』と呼んでいた。
いわゆる、アダ名だ。
しかし問題なのは、誰も喜一の前でそのアダ名を口にしていなかったことだ。
部員5
「懐かしいなあ、天才くん」
部員6
「なんでそんなアダ名が付いたんだっけ?」
部員7
「いつも教室の隅で、なんか書いてたからじゃない?」
部員8
「小説だろ? まだ書いてんのか
【3話】 NOT FOR SALE
テッテレー。
場違いな効果音が、頭の中で盛大に鳴り響く。
……テッテレー?
いや、仮にこれが悪趣味なドッキリだったとしても。
今までの甘いひとときは、事実として俺の胸の中に残り続ける。
それって、厳密にはドッキリとは言えないんじゃないか?
だってもう抱いちゃってんだから。
ていうか、喜一、いつ結婚してたんだ?
久弥
「どういうことですか」
ひとまず、渦巻く疑問を
【2話】 NOT FOR SALE
久弥
「感情を売る?」
疑ったのは、耳だけではなかった。
コイツはとっくに、フィクションと現実を混同してしまっているのかもしれない。
喜一
「早い話が、俺に新しい感情を植え付けるような何かをしてほしいんだ」
喜一
「悲しませたり、怒らせたり、絶望させたり」
喜一
「なるべくネガティブな感情がいいな」
喜一
「ポジティブな気持ちからは、何も生まれないから」
久弥
「それを
【1話】 NOT FOR SALE
腹が減って、目が覚める。
およそ俺の人生は、腹が減る以外に目を覚ます理由がない。
だから、腹が減ってくれることに感謝しているし、絶望もしている。
布団から上体を起こすと、自動的にパソコンに向かえる“仕組み”になっていて、
その勢いのまま作業に取りかかる。
食べかけのジャムパン。
30歳の男が、1つのパンを2日に分けて食べている。
美味しいからとっておきたいとかじゃなく、