【エッセイ】半年前やりたかったことが、みるみるうちにタスクになっていく

締め切り。
例えるならそれは、脳みそにできた口内炎。
物を食うたび鈍痛が走るように、生活の随所でその言葉が頭をよぎる。
そのうちどんどん肥大し、気づけば看過できない大きさになっている。
もっと早いうち対処しとけば、こんなサイズには……!
もう遅い。
「間に合わない」という激痛。そして後悔。自己嫌悪。現実逃避→更なる後悔(≒このナミダ・ナゲキ→未来へのステップ)。
そして、自然治癒。
そう、締め切りにおける一連のすったもんだは、喉元過ぎれば熱さを忘れてしまうことにその病理がある。
口とか脳とか喉とか。
一体何科に掛かればいいんだ。

そして悲しいことに、そのタスクは往々にして、半年前までは喉から手が出るほど”やりたかったことたち”なのだ(やっぱり咽喉科かもしれない)。
舞台は、早ければ1年以上前から脚本の構想を練り始める。
理由はさまざまあるが、主にはキャスティングのため。
出演交渉は、主に企画書の下に進められる。
役者のスケジュールを確保するとなると、早い段階で出演を打診する必要があり、企画書の作成は急務。
勿論そこには、どんなお話なのかを綴る義務が生じる。
しかし、それに関しては全く苦ではない。
風呂敷を広げさえすればいいからだ。
「こんな面白そうなお話、やりま〜す!」と書いてさえいれば、あとは半年ないし1年後の自分がその風呂敷を畳んでくれる。
だから、細部まで決まってなくても、面白そうな話を書く。
まず自分が「やりた〜い!」と思う。
それを読んだ役者たちも「こんな面白そうな話ならやりた〜い!」と手を挙げてくれる。
「じゃあ来年よろしくね!」と笑顔を交わし、広げた風呂敷のことなど忘れて日々を過ごす。
そして半年後、シワひとつない新品の風呂敷が「あの〜、まだ畳まれてませんけどぉ」と尋ねてくる。
……お前誰?
というのが、大まかな理屈である。

いや待てと。
風呂敷が畳みたくて脚本家なったんちゃうんかい自分、と。
勿論そうですよ。
僕だって鮮やかに伏線を回収したいですよ。
世の中に”メッセージ”という一滴の波紋を刻みたいですよ。
でもね。
先延ばしにしてしまうんですよ。
この調子で行くと、戒名に「〜〜怠惰〜〜〜」って入っちゃうぐらい怠け者なんす。
拙者、怠け者でやんす。
ほいで先延ばしにしまくった結果、それはそれは大急ぎで畳むんす。
「綺麗に畳むんじゃなくて、畳もうとすることに意味がある」とかなんとか自分を騙くらかして、やっと畳むんす。
(腕がある人はどれだけ締め切りが近くても綺麗に畳むけどね!!!!!!!)
この頃にはもう、タスクです。
こんにちはタスクくん。
あんまり机の上の物とか触んないでね——。

かくして半年前の”やりたかったこと”は、タスクへと変貌を遂げる。
だが、もうひとつ厄介なことがある。
タスクを処理している視線の先に、いずれタスクになるであろう”やりたいこと”が待機しているではないか!
現実逃避→更なる後悔(チッ)の一環として、眼前のタスクを放り投げてこの”やりたいこと”に飛びつくというものがある。
「やりた〜い!」
皮肉なことに、こちらの方は手がどんどん進む。
やりたいことだからね?
挙句、いつ撮るかも分からないTikTokのネタ案が、1時間で30個出た。
ウンチで例えたら快便。
ウンチで例えなかったら、凄いいっぱい出た、だ。

……おや!?
タスク の ようすが……!

なんと、1時間で30個ネタを出した脳がスパークして、目の前のタスクにも手を伸ばし始めたではないか!
あれほどしんどくてブヒブヒ言っていたタスクが(本当に言った)、ぎゃんぎゃんに片付いていく。
片付いた。
あっちゅうまに片付いた。
しかも、わりと綺麗に畳めてる——!?
え?
じゃあ”やりたいこと”で脳を一旦スパークさせれば、タスクにも精が出るって、コト!?
急がば回れって最初に言った人、才能あるね。マジ続けた方がいいよ。
すなわち重要なのは「モチベーションの入り口」であって、”やりたいこと”のローションで入り口を滑りやすくしておけば、タスクもスルスルンッと入ってきちゃうってわけだ。
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「おめでとさん!」
「めでたいなぁ!」
シンジ「(照れたように頭をかきながら)ありがとう……!」

というか、タスクにならないうちに頑張るのが定石だし、そもそも頑張るのなんて当たり前だし、これでお金を貰っているのだから御託を並べる前に良質なものを作る努力をするべきだし、人はいつか死にます。
ありがとうございました。


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