【エッセイ】死んでもいいとか言っといて、頭皮がちょっとピクピクするだけで怖くて眠れない

昨日、パソコンに向かっていると、左こめかみの上あたりがピクピクと痙攣するのを感じた。
ピタッ、と、水を打ったようにキーボードを打つ手が止まる。
全神経が、左こめかみの上あたりに集中する。
確かに皮膚がピクピクしてはいるが、特別痛いわけではない。

——これ、死なんよな?

めちゃイケだったら、右下に「死?」という面白テロップが出てるな。
とか考えるぐらいの余裕はある。
一向に激痛が襲ってくる気配はない。
怖くなってそのまま検索タブを開き、「頭皮 ピクピク」とサーチする。
「頭皮 ピクピク 痛くない」という候補が出てきて、同志の存在を視認して少しだけ安堵する。
どうやら、自律神経失調症の兆候らしい。
当方、自律神経の不調には定評がある。
仕事の電話するだけで、部屋に水溜りができるほど足から発汗する。
なーんだ、自律神経か。
一旦落ち着いてタブを閉じ、iQOSにタバコを差す。

——これ、死なんよな??

気のせいだと思うけど、左こめかみの上あたりがちょっと突っ張ってるような感じがする。
たぶん気のせいだけど。
そうなるともうダメで、全然関係ないくるぶしの下あたりとかが、なんかツーーンって痛い気がする。
心臓がちょっと早くなった気がする。
「死は意外と間近に潜んでいる」。
実家ぬくぬくフリーターの俺が普段は鼻で笑うようなフレーズが、どんどん現実味を帯びてくる。
不安をかき消すように布団に潜っては起き、潜っては起きを繰り返し、やがて朝を迎えた。
疲れ切った体は、痙攣すら起こさなくなった。

自慢じゃないけど、マジで自慢じゃないんだけど、あんま寝てない。
最近、ありがたいことに自分の身の振り方について他人にゴチャゴチャ言っていただく機会をいただいて、いささかイキリ立っていた俺は、文字通り身を粉にして創作に励んでいた。
「売れてねー奴に休みなんていらねーんだよハゲ!」
「売れないで寝るか、寝ないで売れるかどっちか選べカス!」
そんなふうに念仏を唱え、ドトールで隣のマダムに凄い顔をされながら、創作に励んでいた。
その考えが行くとこまで行って、「このまま命燃やして死ねるなら本望だぜ、、、」と、中世の作曲家みたいなヒロイズムを拗らせていた。
別に死にたいわけじゃないけど、ハイに入ってるというか、ハイに入れてるというか、そんな感じだった。
そんな奴が、ちょっと頭皮がピクピクしただけで、怖くて眠れない。
大イキリじゃん。
「痛い!ダサい!小さい!」の地獄のUFO茹で上がるわ。
確かワンピースの序盤でルフィが「夢のためなら死んでもいい」みたいなこと言ってたけど、あれ嘘だろ。
だって死にたくねーもん。
でもああいう大事な場面でハッタリこけるのも、カリスマたる所以か?
そんなことどうでもいいわ。

とにかく、命を粗末にしても夢は叶わないし、所詮人間は命を粗末になんて出来ないんです。
だったらちゃんと寝て、ちゃんと食べて、健やかに夢を叶えましょう。
もし周りで「死ぬ気でやってやる!!」とか息巻いてる創作者が居たら、温かい目で見守ってあげてください。
たぶん死なないので。
彼らにとって死というのは、生活リズムの破壊などではなく、誰にも見向きされなくなることなので。
一日三食、評価のエサを与えてあげれば、彼らはちゃんと食べるし、ちゃんと眠ります。
それこそが、夢を追うとかほざいてる馬鹿を飼い慣らす、唯一のコツなのです。

ちなみにピクピクは頭皮から瞼へと移りましたが、今日も元気に生きています。


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