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KILLING ME SOFTLY【小説】76_傷を癒すための方程式

不思議なくらい静寂に包まれた丑の刻、霊的存在よりも生身の人間が恐ろしい。
寝付けない私は広縁の椅子へ腰掛け、電気ポットで沸かしたお湯を飲む。
「マジでいいの?」
抱き締めながら千暁が投げた言葉がどうも喉に引っ掛かるが、当人はこちらの心境など露知らず、深く眠っている。


「莉里さんはさ、好きな人達にだけ分かって貰えたら、みたいに話してたけど、否定しないで誤解されたまんまじゃ、今後キツいでしょ、てかファンの気持ち、考えたことあんの?」
鼻を鳴らす。
あれ程の騒ぎに発展し、守る為に必死で庇えばアンチから袋叩きにされ、砕け散り、挙げ句の果てに私自身(凛々香)が消え失せた。
もう無実を信じて熱烈に支持する要素は欠片も残っていないだろう。


その上、インターネットという広大な情報の海を訪れて波に乗れば、未だに夏輝は写真共有SNS内のライブ配信にて長々と私の悪口を並べており、そもそも凛々香のフォロワー自体、本当に私のことが好きでフォローしていた者は少数、素行不良の夏輝とセットになって初めて商品として成り立つのだ。


普段はファンを装い観察しつつ、無様に転落すれば叩き、破壊の限りを尽くす。
世にも悪趣味である。
「絶対いるよ、ずっと莉里さんを信じて、東京で待ってる人。だからそこは諦めないで、ね?お願い。」
スマートフォンの灯りに照らされる中、あの掲示板に新たな書き込みを見付けた。


『アイツ彼氏とお揃いの香水つけてるよ』



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